第二話 接敵
銃を構え敵の存在を警戒しながらも、換金できそうな品物はないか、注意深く周囲を見回す。
今から千年近く前に滅んだと言われる古代文明は、現代では考えられないような不思議な品々を数多く残している。
”燃える水”や”羽のように軽い金属”、”雷の力を蓄えることができる液体”……等々。
古代人(人々は、オルトニアと呼ぶ)は、魔法が使えなかったらしいので、それを補うために今では考えられないほどにカラクリに関する技術が発展していたのだろう。
これら遺跡からの出土品は、街に持ち帰れば高く売れる。
こちらからすれば何に使うのか、何の価値があるのかさっぱり分からない代物でも、古代遺跡から出土した珍しい品となれば、どこぞの好事家が高値て買い取ってくれるのだ。
とはいえ、帝国領内の遺跡に勝手に侵入し、勝手に遺物を持ち出して勝手に売りさばいたとなれば、盗掘者として裁かれることになってしまう。
だが、今回のアルのようにギルドを通じて正規に派遣された冒険者となれば、話は別だ。
遺跡を極端に破壊したりすれば怒られるし、帝国にとって価値のある代物(主に軍事利用できそうなもの)の発見に関しては、報告を怠れば罰せられる場合もある。
が、ある程度金目の物を持ち帰って売るぐらいの振る舞いは、許可されているのだ。
そういうわけで、先程からアルは金になりそうなモノがないか辺りに目を光らせながら、遺跡を奥へ奥へと進んでいた。
……今回は発見されたばかりの未踏遺跡。他の冒険者が入っていない分、金になりそうなモノが残されている可能性は高いからな。
実際、その考えは正しく、彼は所々で比較的状態の良い遺物―…妙につるつるした表面を持つ”古代の石板”や”古代の円盤”を回収していた。
これらは精々こぶし大ほどの小さなものだが、麻袋に入れ傷つけないよう丁寧に持ち帰れば、珍品として結構な値がつくものなのだ。
「む……?」
そんな時。
苔むした壁と床、朽ちた椅子や机に囲まれた空間を進んでいると、不意に大きく開けた空間に出た。
天井が崩れ、キラキラと日の光が降り注ぐその場所の壁際には、巨大な化け物の死骸が転がっている。
……
身の丈は、成人男性であるアルの3倍ほどはあろうか。
六本の昆虫のような足を投げ出し、そいつは壁に身を埋めるようにして朽ちていた。
角ばった鋼鉄製の胴体からは長く頑丈そうな角が生えており、その下には光を失った一つ目がついている。
念のために警戒しながら近づくが、動き出す気配は全くない。
全身錆びだらけで、よく見れば体の中まで植物に犯されているようだ。完全に死んでいるとみて、間違いないだろう。
アルは小さく息を吐いて銃口を下ろし、怪物の巨体を見上げる。
……かつては、こんな化け物があたりを歩き回っていた時代があったのか。
各地の遺跡にはこういった古代兵器の残骸が必ずと言っていいほどに複数存在しているが、実際にこいつらが動いたところを見たという話は、聞いたことがない。
古代文明と同じく、千年前に残らず滅んでしまったのだろう。
……古代人はこの化け物を使役していたというが、そんな優れた種族がなぜ滅んだんだ?
わずかな間、古代のロマンへと思考を傾けたのち、かぶりをふって気持ちを切り替える。
……いや、今は仕事が優先だな。
何か回収できそうな状態の良い部位がないか怪物の身体を調べるが、どこもボロボロで金になりそうなものは見当たらない。
分かり切ってはいたが、残念だ。
だが少なくとも、この化け物が動き出して襲い掛かってこないのはありがたい。
アルはそう考え、辺りを警戒しながらもその場を後にした。
――――――――――――――――――――
その後、人四人分ほどの幅の通路を進んでいた時のことである。
「?」
アルはふと目の前の空間、ひざ元のあたりに違和感を感じ、立ち止まった。
片膝立ちになって屈んで見れば、そこには左右の壁と壁の間にまっすぐに張られた魔力の糸が伸びていた。
……ブービートラップ。
恐らくは、ここに住み着いた賊が仕掛けたものだろう。
気づかずに触れると仕掛けた魔導士に即座に感知され、侵入がバレるといった代物だ。
が、しかし。
……定石だが、下手だな。
いかんせん隠し方がなっていない。
この程度、多少鍛錬を積んだ魔導士なら誰でも見破ることができる。
……賊の中には腕のいい魔導士は居ないのかも知れん。が…。
アルは周囲を見回し、考える。
依頼にあった賊どもはこの先にいるだろうが、油断は禁物。
相手の人数は分からず、そして十中八九こちらより多い。
優れた魔導士はいないかもしれないが、魔導士にとって厄介な戦士はいるかも知れない。
「……。よし」
腰のポーチからマズルアタッチメントを取り出し、付け替える。
それから壁と天井、床の状態を観察し、そう簡単には崩れそうにないことを確認すると、
――ぽむん!
ブービートラップが仕掛けられている場所から少し先の床に銃口を向け、引き金を引いた。
瓶からコルクの栓が抜けるような、どこか間抜けな音とともに魔力の塊が投射され、着地した先に半透明の状態で張り付いて固まる。
続けてアルは再びアタッチメントの交換を行うと、少し手前にある曲がり角まで身を引く。そしてそこらに転がっていた手のひらほどのサイズの石くれを拾い、数歩分先のブービートラップに向けてひょいっと投げつけた。
……さて、釣れるか?
待つこと数秒。
通路の先、遺跡の奥が俄かに騒がしくなり、野太い声と共に数人の気配が近づいてくる。
「場所はこっちだ!」
「罠にかかるとはバカな侵入者め」
「フィーヒヒ、殺人タイムだァ!」
漏れ聞こえる会話の内容から察するに、近づいてきている連中は標的の賊どもに相違あるまい。
目を閉じ神経を集中させ、相手との距離と、人数とを推しはかる。
……足音の数からして、敵人数は6…7…いや、少し後ろに8。キルポイントまでの距離は……。
敵の足音が更に近づく。曲がり角の先、先程まで自分がいた空間に数人の気配を感じる。
「この辺りだ」
「ケヒヒ、出ておいでェ、子猫ちゃァあん」
……金物同士がぶつかる音と、重い足音が複数。何人かは、金属製の防具を付けた前衛か。
アルは目を閉じたまま、静かに、深く息を吸ってタイミングを待った。
ギシリ、ギシリと金属がこすれるような音とともに、複数の足音がこちらに近づいてくる。
「痛くしないからさァ、ほら早く」
……残り距離、5、4、3…。
「気をつけろよ。追い出したゴブリンどもが戻ってくることはないと思うが、魔物かも知れないんだからな」
「わーってるよォ。いずれにしても―……ヘッヘヘ、俺が楽しんで殺してやるさァ」
……2、1。
「ンー?そこ曲がり角の先かなァー?」
……ゼロ。
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第二話、読んでくださりありがとうございます!
さてさて、今回は主人公が扱う魔導銃について。
FPSとかTPSとかゲームの中だと、現実では絶対ムリな数の銃を持ち歩いてる主人公もいて、謎の異空間から唐突に取り出して持ち替えたりしてますよね?
あんな四次元ポケットみたいな芸当はできなくていいけど、どうにか主人公に
……と、思った結果があれでした笑
……魔法って便利です!(人、それをご都合主義と言う)
P.S
♡や☆をぽちって頂けた方、超絶感謝です。大変励みになります!
作品フォローして頂けた方も、通知が来るたびに狂喜乱舞しております!
ありがとうございましたー!
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