第41話  修司、惚れられている!

「桔梗さん、新人春夏秋冬が男性春夏秋冬を撃退したらしいですよ」

「あら、そうなの。さくらちゃんの方は? 山南さんがしつこいみたいだけど」

「めちゃくちゃしつこいです。今までは我慢してきましたけど」

「実は、私も近藤君に手を焼いているのよ。毎日のように誘ってくるから」

「桔梗さん、どうします?」

「やりたくなかったけど、私達もケジメをつけましょうか?」



 土曜日。桔梗は山南と待ち合わせていた。


「ごめん、遅れた」

「許しません」

「10分だけじゃん」

「私の好きな男性(ひと)は、いつも15分前には来て待ってくれてますよ」

「ごめん、ごめん、許して」

「まあ、いいです。今日はどこに連れて行ってくれるんですか?」

「どこか行きたい所はある?」

「どこに連れて行くつもりだったんですか?」

「テーマパークとか」

「この時間から行くのはどうでしょう?」

「じゃあ、映画」

「じゃあ、映画でいいです」

「映画が好きなの?」

「映画を見ている間は、喋らなくてすむので楽ですから」

「……」


「いやー! おもしろかったね、映画」

「そうですね、映画はおもしろかったです」

「じゃあ、コーヒーでも飲みながら話そうか?」

「……コーヒーだけでしたら」


「……のシーンは感動したね」

「そうですね」

「……のシーンも良かったね」

「そうですね」

「桧山さんは、どのシーンが良かった?」

「……のシーンです。女性の心理が上手く描かれています」

「なるほど、確かに」

「さて、コーヒーも飲み終わりました。そろそろ失礼しようかと思います」

「待ってよ、これから食事して、ダーツしようよ」

「それだと帰りが遅くなります。そんなに長い時間は嫌です」

「じゃあ、ちょっと早いけど夕食! お願い!」

「……わかりました」


「いい店ですね」

「気に入った?」

「ここ、高くないですか? 大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ、このくらい」

「ねえ、俺と話していてもつまらないのかな?」

「どうしてそう思うんですか?」

「なんか、話してても全然盛り上がらないから」

「そうですね、盛り上がりませんね」

「どうしてかな?」

「うーん、なんというか、トキメキが無いんです」

「トキメキ?」

「ウキウキとかドキドキとかワクワクとか、そういう感情が湧かないんです」

「どういうことかな? なんでそうなるのかな?」

「私が山南さんに興味が無いからだと思います。会社では仲閒だと思っていますが、プライベートで話したいとは思いません」

「そうかぁ……死刑宣告だな」

「すみません。でも、いつか本音を伝えようと思っていたんです」

「好きな男性(ひと)がいるんだよね?」

「はい、います。その男性といると、トキメキます。ウキウキドキドキワクワクします。一緒にいるだけで心が満たされるんです」

「桧山さんの好きな男性って、課長?」

「ご想像にお任せします」

「否定はしないんだね」

「そうですね」

「わかった、もし、課長に対する気持ちが冷めたら言ってくれ。俺は待ってるから」



 同じく土曜日。桔梗は近藤と待ち合わせていた。


「すみません! 遅刻しました!」

「うーん、遅刻はダメだけど、間に合わないと判断した時点で電話してくれたから、今回は多目に見ることにするわ」

「すみません、気を付けます」

「で、どこに連れて行ってくれるの?」

「プールに行きませんか?」

「水着、持って来ていないわよ」

「買えばいいじゃないですか! 僕が買いますよ!」

「どうして事前に言ってくれなかったの?」

「事前に言ったら断られると思って」

「ああ、もう、全然ダメ。私、帰る」

「待ってくださいよ! プールじゃなくてもいいですから!」

「あなた、そんなことだからお客様からのクレームが多いのよ」

「すみません」

「プールって、水着が目当てなんでしょ?」

「はい。部長の胸を見たくて」

「カップだけ教えてあげる。Gよ。はい、もう水着は無し」

「Gかぁ……」

「どこに連れて行ってくれるの?」

「いやぁ、プールに行くつもりだったので……困ったな、どこに行こうかな」

「もう、映画でいいんじゃない?」

「じゃあ、映画に行きましょう。映画、好きなんですか?」

「というよりも、映画見てる間は話さなくていいから楽じゃん」

「……」

「何してるの? 行くんでしょ?」


「いやー! 良い映画でしたね」

「うん、良い映画だった」

「じゃあ、カフェで語り合いましょう」

「カフェに行かなきゃダメ?」

「行きましょうよ」

「はいはい」


「……のシーンが最高でした」

「え! あのシーンはあんまり印象的じゃなかったんだけど、私的には」

「じゃあ、……のシーンは?」

「そのシーンもあんまり心に響かなかったわ」

「どのシーンが良かったですか?」

「私は……のシーンとか。女性の心理をよくわかってるなぁと思って共感出来た」

「ああ……なるほど」

「あ、コーヒー飲み終わったわ。私、まだ帰っちゃダメ?」

「ダメですよ。じゃあ、ちょっと早いけど食事にしましょう」

「食事しないとダメかしら?」

「……ダメです」

「わかった」



「部長、俺と一緒にいても楽しくないんですか?」

「うん、楽しくない」

「退屈ですか?」

「うん、退屈」

「つまんないですか?」

「うん、つまんない」

「俺は部長にとって何なんですか?」

「大切なかわいい部下」

「部下ですか」

「うん」

「部長の好きな男性って相沢課長ですか?」

「うん、そうよ」

「どこがいいんですか?」

「仕事でもプライベートでも楽しく付き合える。相沢さんの全てが好き」

「ベタ惚れですね」

「そうよ。それに、相沢さんと結婚するって決めてるから」

「そんな話になってるんですか?」

「ううん、相沢さんにはまだそこまで話してない。でも、私は決めてるから」

「僕なんかが割っては入ることは無理っぽいですね」

「うん、無理」



「桧山さん、どこ行った?」

「映画です」

「私も映画だった。何を見たの?」

「〇〇〇〇です」

「一緒じゃん!」



 女性陣2人は、スカッとした笑い声を上げた。







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