一万年生きた孤独な大賢者、前世を引き出す鑑定士となって今世こそ平穏に生きる。
名無し
第1話 最大の敵
俺は、最強の男になりたかった。
誰よりも強くなりたくて、誰よりも死ぬほど努力した。
天性の資質を持っていると師匠に言われたときから、魔法が上達するのが楽しかったっていうのもあるが、単純に褒められるのが嬉しかったっていうのもある。
あと、ライバルがいたことも大きかったかもしれない。
天性の魔法の資質があるなんていわれて浮かれていた俺は、そのライバルに負けてからというもの、涙を流しながらさらに努力した。
努力が努力を呼び、いつしか俺は努力をすること自体が目的になった。
いつの間にか、俺はライバルをも遥かに超えるほど強くなっていた。
お前はおかしい、強すぎる。ライバルからそう言われたときも、俺は手綱を緩めなかった。
いや、自分なんてまだまだだと。
俺はそれからも油断は大敵だと考え、ひたむきに努力を続けた。
訓練するだけじゃない。国のため、相棒のため、ときには用心棒や冒険者として戦った。
やがて遂にその力が王族に認められ、俺は大賢者となり、宮廷魔術師として数々の死線を潜り抜けるまでになった。
勇者パーティーに誘われることになった俺は、魔王をあっけなく倒してしまい、勇者たちから白い目で見られた。
強すぎるがゆえに謀反の恐れありといわれ、国王の命令を受けた勇者パーティーから命を狙われたが、俺はやつらをあっさり撃退した。
俺は誰からも恐れられるようになり、気づけば独りぼっちになっていた。
寂しい、死にたい。そう心の底から思った俺は死のうとしたが、できなくて驚愕した。
俺は死ぬことができないほど強くなっていたのだ。ナイフで首を掻ききる。崖から転落する。自身にありったけの魔法を打ち込む。
他にも様々なことを試したが、習得したオートヒールが発動してしまい、その異常な回復力によって死ぬことはできなかった。
自害することを諦めた俺は、それから寿命が尽きるまで生きるほかなかった。
だが、100年経っても、1000年経っても死ぬことはなかった。
俺は怖がられないように、大賢者としてではなく、平凡な一人の人間として生きようとしたが、人の死を見送ることがいい加減嫌になった。
いつしか、1000年以上生きる長寿なエルフと一緒にいることが多くなった。寿命の短い人の死を見送るのはもう沢山だから。
でも、そんな友人のエルフの死を見送るのは耐え難い苦しみだった。
何よりも、たった1年だけ一緒にいた人の死によって、俺はもう一人で生きていくしかなくなった。そのほうがずっとマシだからだ。胸が張り裂けるような悲しみを味わうよりは。
それ以降、俺は山にこもって死ぬ方法を研究し続けたが、どうしても見つけることができずにいた。まさか、最大の敵が自分自身になろうとは夢にも思わなかった。
1万年を超えたあたりから、俺はようやくその方法を見つけた。
それは転生術というものだった。
厳密に言うとそれで死ねるわけじゃないが、転生すると平凡な体になるということで、それはいつでも死ぬことができるのを意味していた。
記憶が残るというのが残念だが、それくらいなら我慢できる。平凡な体であれば、いつでも死ぬことができるんだから。
「…………」
転生術を使ってからまもなく、意識が徐々に遠のいていくのがわかった。次の人生こそ、俺は平穏に生きて、そして死にたい……。
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