脇役に転生した俺でも、義妹(ヒロイン)を『攻略(しあわせに)』していいですか?

としぞう

プロローグ

プロローグ①

 検索窓に「前世」と打ち込んだことはあるだろうか。


 もしも無ければ、一度試してみてほしい。

 一般的に検索サイトには、サジェストという、他の人はよくこんなワードと一緒に検索されてますよ、と勧めてくる機能が備わっている。

 それで、実際に「前世」と打ち込んでみると、一緒に「占い」とか、「診断」とか、そういうワードが上位に出てくるんじゃないだろうか。


 まぁ、このサジェストは個人個人のこれまでの検索履歴を分析し、その人に合った結果を提供してくるらしいから、これに当てはまらないって人もそれなりにいるかもしれないけど。


 この前世診断、中々引きがあるのか多くのサイトが乱立している。

 中身は様々だけれど、心理テストや性格診断が名前を変えた程度のものが多い印象だ。


 つまり、一言で片付けてしまえば、当てにならない。


 そもそも、こういったサイトを本気で前世を知るために開く人がどれくらいいるのかって話で、俺の勝手な印象にはなるが、大体が冷やかし程度、遊び半分以上といったところだろう。


 実のところ、この前世診断。

 友達との集まりや、飲み会などで話題に詰まったとき、やってみると妙に盛り上がったりする。


 本家本元の心理テストもベタだったりするが、心理テストの場合、下手に出てきた結果にツッコみすぎると、人格否定に繋がりかねない。その場では笑っていても、その笑顔の奥で気を悪くしてしまう人がいても、繊細と断ずるのは気が傷む。


 しかしその点、前世診断は問題無いっ!


 誰しも、自分の前世が何かなんて信じちゃいないものだ。

 診断の結果、例えば「君の前世はゴリラです」と言われたとして、本人も他人事というか、そこから個人攻撃に発展しない限りは、むしろ良い話の種になったと美味しく思えるかもしれない。流れ弾を喰らったゴリラは多少不憫だが。


 けれども、もし、本当に前世なんてものが存在して、診断だろうがなんだろうが、それを自分が知った時……人は、あくまで前世だから、他人事だからと笑えるだろうか。

 終わった人生だと、蓋をして、押し入れの奥にしまっておけるだろうか。


 誰か、前世の記憶を持って転生した、という人がいれば、ぜひ聞いてみたい。

 貴方はどう、それに向き合ったのかと。


 ◇◇◇


「……なにボーッとしてるんですか」


 不意に、横から腕を突かれた。

 ハッと顔を上げ、そちらに目を向けると、ストレートの黒髪がよく似合う天使が座っていた。


 名前は神崎鈴那かんざきすずな。現在中学一年生。つい一ヶ月前まではランドセルを背負っていたなんて信じられないくらいに大人びて見える。


「お祈り?」


 彼女は怪訝そうに、俺の顔から手元に視線を落とす。


 無意識に指を組んでいた。言われてみれば、キリスト教徒がするようなお祈りに見えるかもしれない。


 ちなみに、これは豆知識だが、キリスト教でも祈り方に違いがあって、基本、カトリックは指を伸ばして手のひらを合わせる合掌スタイル。今の俺みたいに指を組んで握り合わせるのはプロテスタントらしい。


「……って、別に祈ってはないよ」


 そう、ほんの少し脱力しすぎてしまっただけ。ここ最近、あまりよく眠れていなかったから。

 でも、せっかく妹と一緒に過ごせているのに、よりにもよってそこで意識を飛ばしてしまうなんて……本当に良くない。


「そういえばさ、指の組み方で前世の性別が分かるんだってさ」

「前世?」

「確か、左親指が上に来たら、前世は女性。逆に右親指が上に来たら、前世は男性だったっけ」

「へぇ」


 興味なさそうな返事だが、鈴那は指を組み合わせた。鈴那の天使感がぐーんと伸びた。


「……左親指が上」

「おっ、じゃあ前世は女性らしいぞ。ちなみに俺とお揃い」

 俺は握り合わせた手を見せびらかす。

「じゃあ、栄司さんも前世は女性だったってことですか」

「……かな?」

「ふーん」


 やっぱり興味なさげな、適当な返事。

 まぁ、こんなの当てにならないからな。少なくとも俺の前世が女性だったって言う時点で大外れ。二分の一を外してしまっている。


「ていうか、栄司えいじさん。サーブ」

「あ、そうだった!」


 鈴那に指摘され思い出す。

 俺達は別に、ただ雑談に興じていたわけじゃない。

 何の意味も無くダラダラ同じ時間を過ごすなんて、そんなことができたら、もっと兄妹っぽいんだろうけど……残念ながら、今の俺達にはそんな関係性は無い。


 それでも、今日、四月上旬! 春の陽気が暖かな日曜の休日に兄妹二人揃っているのは!


 視線を前方、ソファの前に設置されたテレビに向ける。

 そこには現在絶賛対戦中のテニスゲームが表示されていた。


 その名も、『マキオテニス グランドスラム』。

 日本が世界に誇るゲームメーカー、担空堂が発売した最新ハード、タンクードーチェンジで遊べるテニスゲームである。


 一番の特徴はなんといっても、担空堂の看板キャラクター『マキオ』に関わるアニメチックなキャラクター達を操って遊べることだろう。

 マキオは、『スーパーマキオブラザーズ』というゲームで初登場した髭のおじさん。職業は庭師(植木職人)ながら、そのお城のプラム姫と良い感じの仲という、中々ドロッとした設定を持っている。


 そんなマキオは基本庭師そっちのけで、世界を冒険したり、スポーツに勤しんだりしていて、そのイメージもあってファミリー層やライトゲーマーから絶大な信頼を集めている。

 このテニスゲームだってそう。実在のプロプレイヤーを操れるゲームも存在するけれど、案外そういうのはファン向けというか、間口が狭い。


 実際のテニスはあまり知らないけれど、家族や友達とワイワイ騒ぎながらゲームがしたいという層には、こういうキャラクターゲームの方が手に取りやすかったりするものだ。


 テニスゲームとしてのバリエーション、『マキオテニス』一つを取っても、確かこれが五作目とか六作目とか、それくらい発売されていて信頼と実績があるし。

 かくいう俺も、そんなカジュアルさに惹かれて、お年玉貯金を崩し、わざわざこのゲームを買ってきたのだ。


 全ては、鈴那と一緒にゲームをするために!!


「……やらないなら」

「あ、いや! やりますやります!」


 閑話休題。というかまたもや脱線してしまった。


 気を取り直し、コントローラーを握り直す。

 妹と一緒にゲームをするという最大の目的は既に達成されたが、勝負は勝負で別。

 たとえ相手が可愛い妹だとしても、手を抜いてしまえば興ざめだ。


 さあ、我が相棒『ゲキーニ』よ。共に鈴那の操る兄、『マキオ』を倒し、良いところ見せつけるぞ!

 というわけで、ゲームスタート!


「よっ」

「……」


 俺のサーブから試合が開始。

 このゲーム、カジュアル層向けということもあり、初心者にも操作しやすい設計になっている。

 そのため、実力差が出づらく、俺達のような初心者同士だと、中々点が決まりづらい。


(にしても、よく受けてくれたよな……)


 ちらっと隣の鈴那を見る。


 彼女の目線はテレビに釘付けで、どこか真剣な雰囲気を感じさせる。

 先の繰り返しになるけれど、俺達兄妹の間で、休日をわちゃわちゃ楽しくゲームして過ごすなんて、そんな温かな関係性はない。

 いつか、それが当たり前になってくれたらいいな……と、俺は思っているけれど、そんないつかが本当に訪れるかどうか。


 ――ラブ、フィフティーン。


「あっ」


 鈴那を見ていたせいで、テレビの方が散漫になっていた。

 その隙に点を入れられてしまう。


「よそ見」

「う……」


 そしてしっかりダメ出しされてしまった。

 ゲームでもなんでも、勝負するなら真剣に、という意志が伝わってくる。


 正直、もうすこしカジュアルな雰囲気でやりたいなーと思わなくもないけれど、鈴那が嫌々では無く、前のめりでいてくれるのは素直に嬉しい。

 俺にとっては、彼女のこんな姿も新鮮だ。負けず嫌いなのは知っていたけれど。

 

 鈴那はゲームに夢中になればなるほど、コロコロと表情を変える。

 点を決めれば、ほっと溜息を吐き、逆に決められれば、悔しげに唸る。

 隣りに俺がいるのを忘れてか、本気でゲームを楽しむ鈴奈の姿を、俺は何度も盗み見ながら、目に焼き付けていた。


(そうだ、鈴那は本当はこういう子なんだ。あんな、つらいことが無ければ、今だって本当は……)


 ――ゲーム、2P。


「ああっ!?」

「よし」


 決められた!

 こちらの虚をついて、あっという間にストレートで4ポイント、1ゲーム取られてしまう。


「やるな、鈴那……!」

「栄司さんが下手なだけでは」

「へ、下手じゃないですぅ! ちょっと操作に慣れるのに手間取っただけですぅ!」


 本当は鈴那の様子を窺うのに気を取られて、テレビ画面を見るのが疎かになってしまっていただけだけど……しかし!


「ふっふっふっ、おかげで操作方法の確認はすっかり済んだぜ!」


 ポイントを犠牲にしたおかげで、俺も学んだ。

 鈴那の横顔を観察しながら、テレビ画面も確認するコツを!


「ここからが反撃タイムだ! 覚悟しろよ、鈴那ぁ!」


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