第8話 宝物庫の霊獣 ②
「喜んでくれて何よりじゃ。」
「力を授けてくださった後で悪いとは思いますが、あなた様の正体を教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「俺か、俺は霊獣・麒麟だ。」
(麒麟‥‥‥麒麟ってあの神の使いと言われている麒麟のことか。なんと、そんなすごい存在とはつゆ知らず無礼をしてしまった。謝らなくては)
「すみません、麒麟様。あなた様の正体を知らず、行った無礼の数々ひらにごようしゃくださいませ!!」
俺は必死になって謝った。
「もうよい、終わったことじ!! それより、お前の右手を見てみろ。」
「右手‥‥‥?」
俺はすぐさま右手を見た。すると、右手は麒麟様の体と同じ鱗になっていた。
「な‥‥‥なんじゃ、こりゃあああああ~~~~!!」
「ははははは。それは俺の力の一部が授かった証のようなものだ。」
「では、この右手は、今後もこのままなのですか?」
「いや違う。霊力をおもいっきり使わなければ、普通の右手に戻る。少し霊力をおとしてみよ!!」
俺は目を閉じ、精神統一のような形で、体内に流れる霊力を徐々に静めた。
すると、霊力が押さえられていった。そして、目を開けると、右手が普通の手になっていた。
「おおお~~!! 本当に右手が普通の手になった。」
「よかったな。俺としてはあの手の方が格好よかったがな‥‥‥」
(格好良くてもあの手では畏怖されてしまうじゃないか‥‥‥)
「まあ、そんなことはさておき、実は、与えた力はそれだけではない。魔物を20匹ほどテイムする力も与えたぞ。」
「えっ‥‥‥嘘」
「嘘なものか本当じゃ。」
「あっ‥‥‥いえそういう意味で言ったわけではありません。」
俺はずっと魔物をテイムする研究をしていたが失敗に終わった。
まさか、こんな形でティムできる力を授かるとは思っても見なかったので、嘘と言ってしまった‥‥‥
「そうなのか。まあいいか。そんなことよりもテイムする時の注意点を言う方が先だ。」
「テイムする時の注意点‥‥‥?」
「うむ。実は、ティムする力は魔物を倒さなくてはティムできないのだ。くれぐれも忘れずにな。あとは、自分で試してみよ」
「はい、分かりました。」
詳しくは聞けなさそうなので、後から試してみて、メカニズムを理解しようと思った。
「うむ。 これでお前に力は授けた。他に聞きたいことはないか?」
「では、宝物庫の明かりがつく仕掛けについて教えていただけないでしょうか?」
「そんなことか。ここの明かりは魔法で発生させている。メカニズムは教えられぬが、この明かりがついたのは、お前が宝物庫に入ったからだ」
「なるほど。わかりました。」
メカニズムは分からなかったが、この明かりが魔法で発生させていることは分かった。
「あと、なぜダンジョンがあるのかを教えていただけないでしょうか?」
「ダンジョンがある理由は、勇気ある挑戦者か確かめるためだ。また、力や知恵があるのかを試すため場でもある。また、この宝物庫はそれらを兼ね備えし者に対する報酬である。」
「なるほど。ダンジョンにはそういう意味があったのか。しかし、麒麟様はなぜここにいらっしゃるのですか?」
「俺がここに現れる理由については言えぬ。ただ、俺はずっとここにいるわけではない。報酬を与えるときのみここに現れる。」
「そうなんですね。では、ほかのダンジョンのことについて教えてもらえますか?」
「ほかのダンジョンについても詳しくは教えられぬ。だが、今回のダンジョンと同じように魔物や宝物庫はある。また力も授けてくれるぞ」
「力を授けてくれるのは、麒麟様ですか?」
「いや俺ではない。他の霊獣が力を授けるぞ。」
「他にも霊獣様がいらっしゃるのですね。しかし、何故、霊獣様はダンジョン攻略者に力を与えるのですか‥‥‥何か霊獣様に得になることがあるのでしょうか!?」
「俺達は得するために動いているのではない! お前たちの社会でも、見所のある若者に援助することがあるであろう! それと全く同じじゃ!」
「なるほど! わかりました。麒麟様を含めた霊獣様の寛大な気持ちをしれました。いろいろ教えていただきありがとうございます」
「うむ。では、俺からもお前に言うことが2つあるからよく聞け。」
「まず一つ目は、財宝の回収についてだ。財宝の回収には、お前の近くにある荷車を使うといいぞ。それは、重さを軽くしてくれる効果があるからな。」
「二つ目は、お前をダンジョンの外に移すことだ。もう少しでダンジョンを崩すので、お前をダンジョンの外に移すぞ。」
「えっ‥‥‥ダンジョン崩すんですか?」
いきなりダンジョンを崩すと聞いて、俺は唖然としていた
「そうだ。クリア者から情報流出を少なくするため、クリアされたダンジョンは崩れるのじゃ。分かったら時間がないから早く財宝をかき集めよ!!」
「わ、分かりました。今すぐかき集めます。」
俺はすぐさま、荷台に向かった。
もう時間がないと思い、慌てふためきながら、財宝を荷車の上にかき集めていた。
「もうあとちょっとだぞ。ほれ急がないか」
(急に言われても、できることとできないことがあるだろう~~~!! でも、一つでも財宝を集めるぞ!! 急げ、急げ~~~!!)
俺は急いで財宝を荷車の上にかき集めていた。
「よしもう時間だ。荷車に掴まれ」
「は‥‥‥はい、分かりました。」
俺は荷台につかまり、身構えた。
すると、一瞬にして麒麟様や自分の周りが光に飲み込まれた。
その後しばらくして、まぶしい光が消えたので、俺は、目を恐る恐る開けた。
すると、ダンジョンの外に出ていたのである。しかも街の近くの草原が広がる場所に俺はいた。
空は、星が見えなくなり少しだけ明るくなっていた。今は早朝のようだ。
「ほ‥‥‥本当にダンジョンの外にいる‥‥‥」
俺は身を丸めて、愕然とした。
「うむ。これで今回の役目は終わりだな」
「う‥‥‥うわあ~~~~!!」
俺は、麒麟様が自分をダンジョンの外に連れ出した後は、消えると思っていたからびっくりした。
「そんなにびっくりするな。な~に、もう少しでここから去るわい」
「そ、そうなんですね。驚いてすみません。」
「もうよい。それより、消える前に最後にお前に伝えておくことがある。」
「な‥‥‥なんでしょうか?」
「他のダンジョンに挑むなら気を付けろ。今回のダンジョンのように優しくはないぞ。あと、力の使い過ぎにも気をつけろよ」
「は、はい。お言葉肝に銘じておきます。」
分かりましたとは答えたが、内心では、他のダンジョンはもっと大変なのかとがっくりしていた。
「うむ。勇気ある若者よ。汝の知恵と力と勇気があれば険しい道を切り開いていけよう。お前が今後も、神の恩恵を受けることを祈っておるぞ。ではさらばじゃ。」
こうして、麒麟様は目の前から姿を消した。
残っていたのは、俺と財宝を乗せた荷車だけだった。
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