嗚呼! あの頃に戻りたい。

崔 梨遙(再)

第1話  タイムマシン!

 僕は崔、40歳を過ぎてしまった。一人暮らしの寂しい部屋。30代の頃までが嘘のように、女性とのご縁も、40を過ぎてから無くなってしまった。子供の頃から、


「早く、幸せな家庭を持ちたい」


と思っていた。2回結婚した。1回婚約破棄があった。何も残らなかった。


 そして、思い出す。中学の時に好きだった翔子のことを。翔子は、何故男子から人気が無いのかわからないほど、僕の目にはかわいく映っていた。しかも、僕のようにトップクラスとまではいかないが、成績も上位だった。頭が良いというのは魅力的だ。だが、1番いいのは笑顔だ。あの笑顔、まさか今だに忘れられないとは。あの頃は想像もつかなかった。


 僕はもっと、翔子と親しくしていれば良かったと今だに後悔している。小学校の5~6年生から、みんな女子を意識し始めた。今の令和の子供達がどうなのかは知らないが、僕等の頃は女子と話すと男子から冷やかされた。それは、とても大きなストレスだった。だから、男ばかりのグループを作って遊んでいた。本当は、みんな女子に興味があったくせに。


 ここで、冷やかされずに過ごすには女子と話さないことだった。だから、僕は、小学校の5~6年から中学にかけて、約5年間、女子とろくに話をしなかった。そして、中学に入ると、女子と何を話したらいいのかわからなくなっていた。重症だった。だが、翔子とは塾が同じだった。話しかける機会は幾らでもあったはずだ。


 僕達は、硬派ぶっていた。ぶっていただけで、本当の硬派ではなかった。僕達は女子に興味津々だったのだ。実際、僕は女子の胸をよくチェックしていた。誰の胸が大きいか? 僕は把握していた。それだけ、女子が好きだったのだ。


 よく考えたら、翔子は勉強でわからないことを僕に聞いてきた。その時は気付かなかったのだが、勉強という共通の話題があったのだ。僕は、翔子と勉強の話題で盛り上がることが出来たはずだ。なのに、必要最低限の会話で終わらせてしまった。


 猛烈に後悔している。硬派ぶって良かったことなど1つも無い。僕は軟派になりたかったのだ。実際、男子から冷やかされながら、気にせず女子とばかり話していた男子は、みんなバレンタインでチョコを貰っていた。僕は中学の3年間、チョコを1つも貰っていなかった。それが現実だったのだ。僕も女子とばかり話すキャラになっていたら良かったのだ。冷やかされても女子と会話を続けた彼等こそ勝ち組だ!


 それに比べ、僕等が女子と話すのはジャンケン罰ゲームの時くらい。或る時は、モップとタワシを持って、女子に、


「どこ洗ってほしい?」


と言うとか、顎がしゃくれている女子の顎に学生服をかけようとして、


「あ、ハンガーかと思ったわ」


とかやっていたのだ、モテるわけがない! ちなみに、ハンガーの時は、その顎のしゃくれた女子に放課後まで睨まれ続けたので、放課後、“ごめんなさい”と謝った。


 そんな馬鹿なことをせずに、あの時、もし翔子と付き合うことが出来ていたら……結婚できていたら……つい考えてしまう。そして、頭を抱え込むだけの今がある。



 そこで、玄関チャイムが鳴った。出てみると、友人の修次だった。白衣を着ている。修次は学者だった。


「なんや、どないしたんや? まあ、ええわ上がれや」

「邪魔するぞ」

「コーヒーでも淹れるわ」


「ほんで? 今日は何の用なん?」

「もう少しで発明が完成するんやけど、金が足りへんねん」

「なんや、また金を借りに来たんか?」

「今度こそ完成やねん。タイムマシンや!」

「タイムマシン? それって、中学時代とかに戻れるんか?」

「戻れる!」

「そのタイムマシン、真っ先に使わせてくれるか?」

「ええよ」

「わかった、あとなんぼ必要やねん?」

「200万」

「わかった! これを持って行け」

「さんきゅ。ほな、完成したらタイムマシンを持ってくるわ」

「頼むで」


 修次は帰った。


「よう!」


 帰ったと思ったら、部屋に修次が現れた。


「早いな!」

「3ヶ月後からやって来たんやで」

「タイムマシン、完成したんか?」

「完成した、これや」

「おお! 腕時計型か」

「そうやねん、これをこうして……これでボタンを推したら、設定した時間に戻れるねん。ちょっと、誤差が生じるんやけど、ええか?」

「おおお! 早速、中学の入学式に戻るで」

「まあ待て、このボタンを軽く押したらちょっとだけ戻れる。長押ししたら、もっと戻れる。ただし!」

「ただし?」

「これ、未来へは行かれへんねん。過去に行くだけや。未来に行くボタンはこれやけど、今のこの部屋に戻るだけや。一度今に戻ったら、もう過去に戻ることも出来へんねん。それでもええか?」

「中学に戻れたら、それでええねん! ほな、過去へ行ってくるわ」

「おう、いってこいや」



 懐かしい、実家のマンション、僕の部屋。


「戻って来た!」


僕は喜んだ。そこで、まさかのランドセルが視界に入った。


「まさか?」



 僕はカレンダーを見た。なんと、予定よりも2年も前に来てしまった。僕は小学5年生に転生してしまったのだ。おいおい、2年は長いぞ-!







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