「あんたみたいな雑魚が彼氏で恥ずかしい」と振られましたが、才色兼備な彼女ができて魔法師としても覚醒したので生活は順調です 〜立場の悪くなった元カノが復縁を迫ってくるが、今更遅い〜
桜 偉村
第1話 彼女に振られた
「ノア、別れよう」
まるで次の停車駅を告げる車掌のように、アローラは淡々とした口調で告げた。いっそ気怠げと言ってもよかった。
僕は自分の耳を疑った。
聞き間違えだろうか?
「い、今なんて言ったの?」
「はあ? 一回で聞き取ってよ。別れようって言ってんの」
「……え、えっ? はっ? な、何で?」
僕が混乱しつつも理由を尋ねると、アローラはハァ、とため息を吐いた。
髪の毛先をくるくるといじりながら、視線も合わせずに言った。
「言われなくてもわかるでしょ。あんたがいつまで経ってもド底辺のEランクだからよ」
「なっ……⁉︎」
僕は頭を殴られたような衝撃を受けた。
僕とアローラは魔法師養成第一中学校に通っている。
魔法師の養成学校は全国にいくつも存在するが、そこでは生徒は魔法の実力によってランク分けがなされていた。
下からE、D、C、B、Aの五つだ。
アローラは四クラス合計百三十名の学年で七人しかいないAランクの一人であり、僕は最底辺のEランクだった。
「これでも我慢してあげてたのよ? いつかは覚醒するかもしれないと思って。けど、もう限界。あんたみたいな雑魚が彼氏だなんて恥ずかしすぎるわ。そもそも、ランク抜きにしても庶民のあんたじゃ貴族の私と釣り合わないしね」
「そ、そんな……一緒に頑張ろうって約束したじゃん!」
「月とスッポンで何を一緒に頑張れることがあるのよ」
アローラは鼻で笑った。
「だいたい、いつの話してんの? そんなの私が覚醒前のゴミクズだった頃の話じゃん」
魔法は、筋力のように鍛えれば地道に成果が現れるものではない。
程度の大きさに違いはあるものの、ほとんどすべての実力者が突然の才能開花——覚醒を経験している。
僕と同じでEランクだったアローラは、僕が送った何気ないアドバイスがきっかけで覚醒し、瞬く間にAランクまで駆け上がった。
Eランクだった頃の彼女は、今のように他人を馬鹿にしたりする性格ではなかった。
そもそも、告白してきたのだって向こうなのだ。
いつも励ましてくれるノアのこと、いつの間にか好きになってた。一緒に頑張ろう——と。
しかし、アローラは覚醒前の自分をこき下ろした。
それはつまり、その頃の思い出、馴れ初めも含めたこれまでの僕との思い出を否定したということ。
それがわかっても、引き下がれなかった。
「で、でも、僕のアドバイスは役に立っているでしょ⁉︎」
「そんなの過去の話よ。Aランクの私に、ロクに魔法も発動できないようなゴミが何をアドバイスできるって言うわけ? それともなに、自分のおかげで覚醒できたんだから彼女のままでいろ、とでも言うつもり?」
「いや、そんなつもりじゃないけど……」
僕は口ごもった。
自分でも何が言いたいのかわからなくなってきた。
「そうよね。いくらあんたでも流石にそこまでダサいことは言わないよね。ま、とにかくそういうことだから。こんな状態で付き合えるわけもないし、もう私の彼氏なんて名乗らないでよ」
「アローラ、ちょっと待っ——」
「あっ、そうそう」
立ち去ろうとしていたアローラが、首だけをこちらに向けた。
僕の制止の声に答えたわけではないことはわかった。
「私、これからはジェームズと付き合うから。間違っても話しかけてこないでよ」
「なっ……⁉︎ う、浮気してたの⁉︎」
僕は一歩詰め寄った。
そうでもなければ、別れたその日から付き合うなんて話になるわけがない。
ジェームズはアローラと同じAランクで、その実力は学校でも一、二を争うと言われている。
容姿端麗で成績優秀、家柄もよく、いわゆるカーストの最上位に君臨している男だ。
「告白されただけで返事はしてないから浮気じゃないんじゃない? まぁ、キスはしたけど」
「はっ……? そんなの浮気確定じゃん!」
キスをしておいて浮気じゃない?
そんな理屈が通るはずがない。
「あぁ、そう? ま、どうでもいいけど」
「っ……!」
僕は咄嗟に二の句が告げなかった。
どうでもいい……だって?
「ジェームズみたいな家柄も良くて文武両道のイケメンに迫られたら、大抵の女子は拒否れないでしょ。だいたい、自分よりハイスペックの男に彼女取られて怒るとかマジダサすぎるんだけど」
「す、スペックなんて関係ない! 浮気は浮気だ!」
「あっ、そう。なら学校で吹聴すれば? 浮気されましたーって。果たして何人の人が味方してくれるだろうね?」
アローラがせせら笑った。
僕は何も言い返せなかった。
AランクのカップルとEランクの振られた男。
皆がどちらの味方をするのかなんて、火を見るより明らかだ。
「というか今後のあんたのために忠告しておいてあげるけど、女の子だって普通に浮気するから。特に——」
アローラが口の端を吊り上げた。
「——万年Eランクの情けない彼氏なんていたら尚更、さ」
僕は
ここまで意地の悪い笑みは、今まで見たことがない。
もう、僕の知るアローラはいないのだ。
「ま、そういうことだから。それじゃ」
何も言えないでいる僕には目もくれず、用事は済んだとばかりにアローラは足早に立ち去っていった。
その足取りは軽く、一度も振り返ることはなかった。
僕は拳を握りしめた。
不思議と怒りは湧いてこない。
ただただ悔しかった。
自分とジェームズならジェームズを選んでも仕方がないと納得してしまっている自分が、アローラを追いかけることもできない自分が情けなかった。
子供たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
まだ十歳にも満たないくらいだろうか。
男の子と女の子が笑顔で手を繋ぎながらスキップしていた。
自然と笑みがこぼれてしまいそうな光景だったが、僕からこぼれたのは笑みではなく涙だった。
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