第7話 種まき
俺たちの前には城の敷地内へと続く大きな扉があった。
そろそろ軍団長には起きてもらうことにしようか。
「軍団長、ついたぞ」
「むにゃっ?」
起きたようなので俺は肩から軍団長を下ろした。
「はにゃっ!これは失礼しました。意識がぶっ飛んでいたようですね」
「それよりそろそろ雨が降る。扉を」
「おまかせを」
軍団長が扉に向かって叫ぶ。
「おーい!着いたぞ!開けてくれ!」
ダンダンダン!
軍団長と扉が歩くと扉は外からウチに開いた。
それと同時に音が聞こえる。
ザッザッザッ。
土を踏むような音。
それから、ガシャッガシャッていう鎧の音。
俺の視線の先には大量の騎士が立っていた。
そいつらが左右に別れて敬礼をしていた。
まるで、帝国に入った時に受けたような扱いだった。
しかし、
(あの時とは敬礼の美しさなどのレベルが違うな。さすが城ってところな)
それからもう1つ違う点があった。
それは俺たちと向かい合うようにして立っている人物が2人いるということ。
1人は黒髪で中年くらいの男。
もう1人は貴族風の服を着ている金髪の若い男だった。
「やぁ、軍団長。お疲れ様」
金髪の方が気さくにそう言った。
「スグーシーヌ皇太子様。労いの言葉感謝いたします」
(この金髪の男。皇太子なのか)
俺が見つめているとスグーシーヌと呼ばれた男も俺を見ていた。
「それで、そちらの客人は?」
「王国から投降してきた」
「へぇ、はるばるご苦労さま。聞いてるよ。君の活躍は。王国軍3000万を圧倒したって。お見事。いやー、君の力がなかったら勝てなかったよ」
パンパンパン。
両手で大袈裟に拍手していた。
わざとらしく見えるが……。
だが、そんな奴でも俺も社交辞令として頭くらいは下げておくのだが。
相手の態度が変わった。
「……なーんて言うと思った?」
肩をすくめたスグーシーヌ。
「いやー、残念だったなー。この僕が行ってれば王国軍の雑魚5000万くらい軽くやれたんだけどなぁ。僕の方が君より強いだろうしなー」
誰も何も言わない。
スグーシーヌだけがベラベラしゃべっていた。
「まぁ、でも君の活躍は労わないとねー、大地くんだっけ、お疲れ様ー。まぁ、楽しんでってよ、この帝国生活。王国民のキミに楽しめるかどうかは分からないけどー」
なんだろう。
こいつの言動イヤミったらしいよなぁ。
(なにより、この芝居ぶった話し方くそウザイなぁ)
そう思った俺は……
「魔弾」
ヒュン!
スグーシーヌの横を掠めるように魔弾を放った。
「う、うわぁぁぁぁあぁぁぁぁあっ!!!!」
ビクッとして振り返っていた。
「な、ななななな、何をするんだお前!!僕に当たったらどうするんだ?!!」
(なるほど。やっぱりそれが本性か)
俺はニコッと笑って答えてやることにした。
「いえ、羽虫がいたものですから退治したたけなのですが、要らぬ世話だったでしょうか?」
俺がそう言うとスグーシーヌは騎士に目をやった。
「おい、ヴァイス!奴を殺せ!僕を攻撃しようとした!」
騎士は渋々といった様子で俺を見る。
「とんでもない、俺はただ羽虫を攻撃しただけですって」
俺は改めてそう言ってからわざとらしく口元に手を当てた。
「ま、まさか。羽虫に気付けなかったので自分に向けられた攻撃だと思ったのですか?だから敵意むき出しなのですか?」
ここで「うん」とか「すん」とか言って答えれば、こいつは自分が俺より下の存在だと認めることになる。
こいつのプライドがそれは許さないだろう、と思って煽った。
「ぐぬぬぬ……ふん!気付いてたに決まってるだろ!行くぞ!ヴァイス!僕は忙しい!客人の出迎えも済んだし帰るぞっ!」
ヴァイスはなんとも言えない表情でスグーシーヌについていった。
これからこの城で暮らすのならこの2人とは長い付き合いになるだろうし、覚えておかないとな。
俺がそう思っていたら、
ブォン!
仕返しとばかりに俺に向かって魔弾が飛んできた。
パシっ。
俺は右手でその魔弾を掴んだ。
魔弾を放った本人はもちろんスグーシーヌだ。
「なっ……」
スグーシーヌは驚愕して口を開けていた。
「ばかなっ。僕も全力の魔弾を片手で受け止めるだと……?!」
鬼のような形相をして「ふん!」と言って今度こそ歩いていこうとしていたが……。
(少し、細工をしておこうか。こいつは少し素行に問題があるっぽいし。あとで敵になられてもめんどくさいしな)
俺は手にある魔弾に魔法を上書きすることにした。
【感知魔法】と呼ばれるものだ。
俺や帝国への悪意や敵意を感知して、それが反応すれば自動的に【処刑】が実行される魔法。
俺は魔弾を投げ返した。
魔弾は当たるとスグーシーヌの体の中に溶けるようにして消えていった。
「?」
なにか投げつけられた感覚があるのか振り返ってきていた。
しかし、気のせいと思ったのかそのまま歩いていった。
「すごい!お兄ちゃん!魔弾を片手で受け止めるなんて!」
パァァァァァァァっと顔を輝かせてそう言ってくるティム。
俺は軍団長に目を向けた。
「軍団長、それより案内を再開してくれ。もうそろそろ雨雲が本格的にやばいよ」
「それもそうですね。こちらへ、大地様」
俺は歩きながら軍団長に話しかけた。
「そういえば、意外だったなぁ。帝国の皇族って話に聞いてた感じ、もっと穏やかだと思ってたんだけど」
「あの方は特別ですよ。他の方はもっと穏やかな人です」
軍団長はにっこりと笑った。
「それよりもナイスでしたよ大地様。スグーシーヌ様のあんな顔見たことありません」
クスクス笑ってた。
「いつもいつもあんな感じでウザイ話し方してくるので、ストレスが溜まってたんですよ、ありがとうございます」
好き勝手やってただけなのに、お礼を言われてしまった。
「それより大丈夫なのかな?あんなことしちゃって」
最悪俺には帝国を消し飛ばせばいいという選択肢が残っているが。
「大丈夫ですよ。スグーシーヌ様は他の皇族にも嫌われてるのであの程度問題にはなりませんよ。魔弾も体には当てていませんしね」
ということらしい。
俺の手で帝国を滅ぼすことにならずにすみそうなので良かった。
そうして歩いてると軍団長は1つの建物の前で止まった。
「ここからティムと大地様には別行動をしてもらいます」
「え?お兄ちゃんと離れちゃうの?」
「ご安心を。いつでも会えますよ。ただ、召使いとしての働き方を先に覚えてもらうだけですので」
「なーんだ。そういうことなんだ」
ティムは俺を見てきた。
「お兄ちゃん、また会いに来てね」
「うん。ティム、また会いに行くよ」
ティムは笑顔を浮かべて軍団長と建物の中に入っていった。
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