第6話 進学
昭和天皇が崩御され元号が「平成」となった年に、高志は高校三年となった。
1学期の三者面談を終えた幸子と高志は、気まずい様子で昇の帰りを待っていた。最近、昇の会社は忙しく事務屋の昇も残業する日々が続いていた。この日も、帰宅したのは10時過ぎのことだった。
食事と風呂を済ませた昇の前に、幸子が申し訳なさそうに座っていた。
「どうしたんだ。」
「今日、三者面談があって行って来たんですけど、高志の今の成績では国立大学は無理と言われ・・・。」
「そうか。でも、最終的には秋の面談で決まるんだから、それまで精一杯頑張ってくれれば。ダメだったらダメで、考えれば良いじゃないか。」
「私立だと入学金や、毎年の学費が高くて、小百合の進学にも影響が出ないかと心配で。」
「子供のためだから、ある程度は借り入れも考えないと仕方ないだろう。」
一月ほどして、夏休みの補習に出て行く高志に、昇は塾に行くことも考えるように伝えた。
「いいよ。お金もったいないし。塾に行ったからといって、伸びないよ。限界だよ、限界。」
「やれるだけやってみれば良いじゃないか。」
「いいよ。」
そう言うと、自転車で学校へ向かった。
成績が伸びないことで落ち込んでいる様子もなかった。
秋の面談でも、国立大学は難しいとのことであった。それでも昇は、高志の国立への夢を諦めることができなかった。
「とにかく、共通一次試験まで頑張ってみれば良いじゃないか。」
「お父さん、お兄ちゃん達が受けるのは、共通一次試験じゃなくセンター試験って言うんだよ。」
と小百合が、横から茶々を入れた。
「オヤジ、俺、大学には行かないよ。」
「今さら、何を言うんだ。大学に行かないと、まともな仕事に就けないんだぞ。」
「生活できれば良いじゃないか。俺、五島で仕事したいよ。大学に行って、大きな会社に勤めても、俺に合った暮らしが出来るかどうかわからないし。金持ちになるとか、出世するとか、なんか、俺には・・・。」
「これまでだって、何回も教えてきたろう?生活の安定が第一だって。それに、自分がプライドを持って仕事が出来る所じゃないと、惨めなもんだぞ。」
「五島で暮らしている人たちも、ちゃんと生活しているじゃないか。見栄を張って生きても仕方ないよ。自分のレベルでしか生きれないんだから。」
「バカな事を言うな。お前を大学にやるために、お母さんだって一生懸命働いているんだぞ。今頃、なんて事を言うんだ。そんな考えだから、成績も伸びないんじゃないか。とにかく、大学には行くんだぞ。」
「・・・・。」
「高志、お父さんの言う通りよ。今時、大学に行かないと苦労するのは見えているんだから。私達、あんたが苦労する姿見たくないのよ。だから、今、頑張らないと。ね、お父さんとお母さんの気持ち分かってね。」
「・・・・。」
「お兄ちゃんの人生だから、行きたくないものを行かせなくても良いんじゃない?」
「小百合、あんただって短大くらいは行かないと、ちゃんとした結婚もできないのよ。結婚相手だって、学歴で絞られるんだから。」
「学歴で相手を決めるの?そんな~。好きになった人と結婚すれば良いじゃない。お父さんは、お母さんの学歴を気にしたの?」
「昔は、そんなことはなかったけど、今は、そうじゃないから。」
「変ね~。どうして学歴なんか気にするんだろう?」
「高志も、小百合も頑張って勉強して進学して、良い会社に勤められるようにしないとね。お父さんもお母さんも頑張るから。」
年明けてセンター試験に臨んだ高志であったが、やはり、国立大学は無理であった。それでも、親の強い意向に押され、大学には行くことになり、長崎市内の私立大学に進学することになった。
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