第23話 スライム忍者?
「魔女っていうのは……人なの? 穢気領域にいるんだよね」
ララの言う魔女に関して、まず基本的なことを俺は質問した。
「穢気領域にいるのだから、当然、穢人化した魔法使いということになります。元から魔法を扱うのに長けた者は、穢人化した時に理性を保った穢人……すなわち魔女になる可能性が高いのです。魔女とは聖女教会がつけた名であり、男女問わずそう呼ばれます。まあ聖女教会は迷わず処分するので、魔女のことを知っている者は少ないでしょうが……」
「その魔女ってつまり……ミューカが操った時みたいな穢人ってこと?」
「いえ、ミューカが操った時のように人形のようではなく、明確に以前の人格を保持しています。代わりに元あった魔力が穢気と融合して増強され、人間離れした魔力を持つ魔女になるのです」
「ってことは、話が通じるのか。しかし聖女教会に見つかれば処分される、と。境遇が似ているな。浄化は可能なの?」
「通常の聖女には不可能です。だから処分するしかないのでしょう。しかし、主様の”洗礼”の力は未知数です。改心させることも可能かもしれません」
「っていうか、別に相手が望まなければ改心させる必要はないんだよね。理性を保っているわけだし。協力関係を結べれば、それでいいんじゃない?」
「それもそうですね。というわけで、接触して逃げ込ませてくれないかということを交渉しに行く必要があります。駄目なら殺して屋敷を奪えばいい。これで構いませんか?」
「まぁ、駄目だったら他の候補地が欲しいかな……屋敷を奪うなんて、完全にこっちが悪者になっちゃうし」
「些かお優しすぎるとは思いますが……承知しました。さて、すべきことはまとまりましたね。あとはどういう順序で取り組むか、です。ちなみに、この宿もすぐに出る必要があります。テレスとやらに場所が割れているようですからね」
ララの言う通りだ。テレスが、俺が外に出たタイミングで都合よく接触してきたということは、少なくともヴェスパーにはこの場所自体がばれていて、ずっと見張られていた可能性が高い。
「だとすれば、すぐにここを出て穢気領域に逃げ込んだ方がいいか。でもフィーナの件もゆっくりはしていられないよ。今の居場所もわからないし」
「話は何となく聞かせて頂きましたわ!」
さっきまでぼーっとしていたミューカが、突然声を張り上げた。
「何となくじゃ困るんですが」
ララは深いため息とともに嫌味を言う。
「びっくりしたぁ。起きてたの?」
「お困りのようですわね! きっと、このクイーン・ミューカがメイティアのお力になれますわ!」
「えーっと、どうやって?」
「あ、あら? もしかすると私、信用がないようですわね? 私だって、お風呂だけではなくて色々できますのよ。ようは、フィーナとかいう聖女を探して、居場所がわかるようにすればいいんですわよね」
「うん。そうだよ。ちゃんと聞いてるじゃん」
「えへへ……もっと褒めてもよろしくてよ! 私は実は……潜入が得意ですの。なにせ、液体になれますもの。空気や液体が通る隙間がない場所なんて、ほとんど無くってよ!」
「おお。それは確かに」
身体をスライム化させることができるミューカなら、空気穴さえあればどこにでも侵入できるだろう。便利な能力だ。
「さ、ら、に、この私の能力、お忘れかしら?」
「お風呂以外で?」
「お風呂以外にもたくさんあるでしょう!? 寄生ですわよ、寄生!」
「あぁ、ミューカになっても、あれは使えるんだね」
マルスアールじゅうの住民を寄生穢人に変えたあの能力は、ミューカの姿になっても健在らしい。
「もちろんですわ」
「でも、それをどうやって使うの?」
「フィーナの体内に、私の身体の一部を潜り込ませて、寄生するのですわ」
「えっ怖……じゃあ、フィーナがあの穢人みたいになるってこと?」
「いいえ。別に操ろうとしなければ、元のままですわ。だけど、身体の一部は私の本体との意思疎通が可能。フィーナの居場所を把握して置けるし、意思疎通ができるから、遠く離れてもフィーナと話をすることが可能ですわ!」
つまり、ミューカがフィーナを探し出し、身体の一部を寄生させることにさえ成功すれば、常にフィーナがどこにいて、どんな状況かは把握できるというわけか。問題はフィーナと接触できるかだが、侵入はミューカの十八番らしい。
「でもミューカ、大丈夫? 王都のどこかにいるらしいけど、それだけでフィーナを探し出せる?」
「ふむ。恐らく聖女教会本部でしょう。本部のだいたいの構造と、幾つかの候補地は掴んでいます。以前私はあそこにいましたから」
ララが予想外のことを言い始めた。でもどうしてララがそんなことを知っているのだろうか?
「ララ、あの頃は、一緒に幽閉されていただけで、ほとんど外になんて出られなかったじゃないか」
「はて、お忘れでしょうか。私がマイカに付き添われて、必要以上に何度もお手洗いに出かけていたことを」
「えっ? あれってその為だったの?」
「当然でございます。私は主様以外、誰も信用しておりませんので。何かあった時のために退路を考えておりました。まあ、実際お手洗いで色々と済ませたい時もありましたが」
「そっか。褒めようと思ったけどやめとくよ」
「私の知っている限りでは、フィーナを幽閉するとしたら、私たちと同じあの部屋か、より下層の部屋に違いないでしょう。上層階にある居室は身分の高い者が住まう場所のようでしたし、私室に戻らせてもらっているとは考え辛いですから」
「それじゃあ、候補はある程度絞り込めるのかな」
「うまくいかなくても、しらみつぶしでどうとでもなりますわ! 別に寄生できるのはフィーナに対してだけではありませんもの。その気になれば、教会本部ごと乗っ取ることだって可能ですわ!」
それって、教会本部にいる人全員に寄生できるってことだろうか。
たしかにマルスアールのほぼ全員に寄生していたのだから、不可能ではないのかもしれない。今の姿はあの頃よりかなり小さいが、より小さなスライムで人間に寄生できるようにでもなったのだろうか。
「決まりですね。フィーナの方はミューカに任せるとして、私たちは魔女の館へと参りましょう」
魔女の館か。魔法の類は見たことがないから、どんなものなのか楽しみだ。
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