第5話 狼狽える愚か者
会社でみんなが噂をするようになった。
この会社が取引先でもある最大手の、東堂さんのところの会社に買収され子会社化するらしいと。
派遣社員も成績が思わしくない社員もみんな焦ってる感じだった。
早期定年を打診される年齢に見事ぶち当たる真島さんも。
労働基準法やら労働契約法やらに守られてるから、通常、買収や吸収合併されたからといってリストラはされない。
待遇も変わらないし、勤務先も変わらない。
かと言って、消滅会社の部署がそのまま残ることは少ないし、部署異動も有り得るし、管理職の立場だって保証はされないけど。
ただ、リストラはされない。
真島さんを除いて。
そんな、法に守られているみんなが恐れてるのは、吸収後のPMIなんだろう。
色んな精査の結果、会社の業績よくないよねってなった場合の人員整理はもちろんあるだろうし。
そうなりゃ、派遣切りなんてすぐだし、成績の悪い社員も目を付けられる。
希望退職者の募集だってかかるかもしれない。
まぁ
別にこの会社以外にも山ほど会社はあるんだしさ、もし仕事が無くなっちゃったらみんなで求人探そうよ。
それはそれで新たな道だよ?
転職を機に、天職見つかるかもよ?
なんて、自分だけ安全なところから、この会社に執着してそうな人間たちを見下した。
やっぱり人間は愚かで馬鹿だ。
ある夜、真島さんにメールした。
「買収の噂聞きましたか?もしそうなったら早期で定年とかするんですか?」
って。
「ないかな。俺はそのまま残るつもり」
あなた真っ先に切られる予定ですよ。
むしろあなたを切るための買収ですよ。
根拠もなく強気な真島さんを心で嘲笑った。
この買収の本当の目的を知ってるのは私と東堂さんだけ。
もちろんうちの会社の技術だとか、持ち株がどうだとか、特許だとか、私には理解できないビジネスの要素も入ってるとは思う。
だって仕事だもん。
この買収は、東堂さんにとって私利私欲だけではないに決まってる。
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