第10話 鍛錬

マコト「きっ…つ…!」


僕は汗だくで、ランニングマシンの上にいた。


-まずは身体を鍛えろ!-


バクさんからの指示はそれだけで、どこだかわからない筋トレルームに閉じ込められた。


???「はぁ〜い。お昼もってきたよ〜。」

マコト「あ、エリさん。ありがとうございます。」


肩下くらいまでの黒髪で、内側に暗めの赤のインナーカラーがきれいに入っている。バクさんのお知り合いらしい。


エリ「身体、引き締まってきたんじゃない〜?」

マコト「ま、まだまだですよ…。」


するりと懐まで近づかれて、僕は慌てて身を引いた。


エリ「新鮮だねぇ〜。バカはまだしばらく帰ってこないって、がんばってね〜。」


ちなみにバカとはバクさんのことだ。

エリさんはひらひらと手を振って部屋を出て行った。


マコト「まだしばらく、か。」


姉さんに殺されかけてからあと、エリさんを通して指示をもらうだけでバクさんとは会っていない。


基本メニューは筋トレ10種目と有酸素運動。


そして起きている間、音を立てない立ち振る舞いや息の仕方を徹底すること。


「専用」道具の使い方を身に染み込ませること。


睡眠以外の時間にみっちりと詰め込まれた訓練をこなすだけで、3ヶ月といってもあっという間だった。


マコト「ん、美味しい。」


ふわとろなオムライスは、トマトソースまでしっかり美味しい。サラダもチーズとアボカドが入っていてリッチなお味だ。


気になって前にエリさんにお金のことを聞いたら、出世払いだと言われた。怖い。


マコト「強く、なってるのかな。」


つぶやいて少したくましくなった腕をさする。


心許なさとは裏腹に、鍛えるほどに身体は生き生きとしていく。他人事のように命を感じた。


エリ「ごめん嘘。」

マコト「ぅわっ!」


突然テーブルがしゃべったかと思うと、エリさんが出てきた。い、いつの間に…?


エリ「バカから連絡。初仕事決まったって。」


ドクリと心臓が跳ねた。

終わりだ。始まりの。


マコト「…はい。」


残り半分のオムライスは、味がしなかった。

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