第4話 決断

「そうか。ならお前が殺せ。」

「?!」


「ま、お前が寝てる間に家に行ったがもぬけの殻だったんだ。逃げられた。まさか助けた子どもがターゲットの身内とはなぁ…お前には責任をもって俺の仕事の手伝いをしてもらう。」


「お断りします。」


即答だった。昨日からもうずっと最悪で、変に気がすわってきた。


「いやいやまって!そのなんだ、このままだとお前は姉さんと二度と会えない。」

「……。」


「会わないほうが幸せではあるんだが、それじゃ納得できないし怖いままだろ?バレて潜ったあいつらにケジメつけるのはふつうの人間には無理だ。」

「…。」


「…俺を利用しろ。それか、全部忘れるかだ。」


『忘れる?』


バクさんを?


姉さんを…?


あの、真っ赤な…?


「…バクさんと、働かせてください。」


こみ上げてきた吐き気を抑えて、僕は言った。

最悪だ。ひどい気持ちだ。


「おう。…はぁ~よかった!子どもを殺すのはいやなんだ。」


バクさんはしれっと怖いことを言って、笑った。

笑うと招き猫みたいだ。


「最悪です。僕は殺されるところだったんですか?」

「しょーがないだろ!俺もお天道様の下は歩けないんだから!」


肩の力が抜けてしまった。最悪すぎる。

口癖になりそうだ。


「ひとつ聞いてもいいですか?」

「ん?どうぞ。」


バクさんは箒と塵取りを押しつけてきた。

僕はさっき割ってしまったカップの破片を片づける。


「あいつら、って言いましたよね。姉さんのことですか?」


ああ、とバクさんは無表情にうなずいた。


「あいつら…人吸い(ヒトスイ)って呼ばれてるが、ここ数年でかなり被害が増えててな。俺ら殺し屋もドン引きってるんだ。」


「まじめにしゃべって下さい。」

「いやふざけてないって!育ちが悪いんだよ俺は!」


自分で言うのはどうかと思う。

というか『人吸い』なんて呼び名まであるのか。


バクさんは煙草に火をつけて、ゆっくりと深呼吸した。


「俺みたいなやつでもな、好きで人を殺したりしねぇんだよ。」


吐き出された煙の香りが、苦々しかった。




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