第2話 遭遇

「先生。先生!」


着いたコンクリートの平屋は、看板の診療所の文字がかすれていた。


「こんなせまい診療所で大きな声を出すな、バク。」


迷惑そうな顔で出てきたのは、白髪のお医者さんだった。

声はしっかりしていてそんなに年には見えない。


「この子を診てあげてくれ。南町で倒れてたんだ。」

「…どれ。」


お医者さんは僕の顔をみて、手首を軽くつかんだ。


「身体は問題ないが、過度なストレス状態だ。…なにがあった?」

「なに…あ…。」


言葉が出てこなかった。姉さんは、おまわりさんに捕まるのだろうか?

なにかの病気とか…ではないのだろうか?


「無理に言わんでもいい。ベッドはあいてるから好きに使え。」


そう言ってお医者さんは奥に戻っていってしまった。

男の人も困ったように頭をかいている。


「いや先生、薬とか…はぁ、ま、病気じゃないならいっか。お前、名前はなんていうんだ?家はあるか?」

「名前…マコト、です。家…は…。」

「あ、いーからいーから!マコトな!俺はバク!」

「バク、さん。ありがとうございます。」


「おう。とりあえず着替え…は買ってくるから、ぬれた服脱いでベッドに寝てろ。」


僕はうなずいて、上着とズボンをベッドの下においた。靴下も…


「うわぁぁぁぁ!」

「どうした?!」


診療所を出ようとしていたバクさんが飛んで戻ってきた。


「お前それ…血か?!足見せてみろ!」


しかし勢いよく尻もちをついた僕の足は無傷だった。


「…マコト。なにがあった。」


バクさんの真剣な声が診療所にひびく。


「…ね、ぇさん…が。」

「うん。」


思い出したくない。


「わ、らってた。血が、いっぱいで。家で…。」

「!」


やっとそれだけ声をしぼりだして僕は、目の前が真っ暗になった。


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