GATHERLAND〜魔王様があらゆる世界からやってきた勇者と戦うようです〜

益井久春

第1話 勇者たち、召喚

ここは魔界。


大魔王メガルファの元、魔族たちが暮らす闇の世界。


ドラゴンが生息していたり、誰もが魔法を使うことができたりする、幻想の世界。


そんな世界が、ある一つの伝説による恐怖に苦しめられていた。


————


「大魔王メガルファ様、コーヒーでございます」


「ありがとう、ディラノ。いただくとするか」


私は愛用のコップから大好物のコーヒーを喉に注ぎ込んだ。


「うん。お前が淹れてくれるコーヒーは美味い。程よい苦味だ」


「ありがとうございます、メガルファ様」


ディラノはそう言いながら少しだけ笑った。


「そういえばメガルファ様、一つ相談があります。私の部屋までついてきていただいてよろしいでしょうか?」


ディラノは私の腕を軽く引っ張りながらそういう。


「大丈夫だ、今やるなら問題はない」


「ありがとうございます」


私は玉座を立ち、ディラノについていくこととした。


————


「それで相談とは何だ、ディラノ?」


「はい。メガルファ様、一応確認しますが『勇者終末論』についてはご存知ですか?」


「ああ、知っている。過去に他の部下から何度も聞いているし、本で読んだこともある。確かアレだ。魔族が魔界の支配主になってから1万年後、神が異世界から『勇者』を呼び出し、魔族を滅ぼす、というものだろう?」


ディラノは「はい、そうです」と頷く。


しかし、もうそんな時代か……。


私が魔界を統治してからまだ100年ほどしか経過していないというのに、もうこの世界は終わるというのか。


何とも残念な話だ。


「とりあえず、対策を考えさせろ。神のやることだから防ぐことができるかどうかはわからんが、何もしないよりはマシだからな。もう今日は帰っていいぞ」


「わかりました」


ディラノはそう言われると席をたち、そのまま奥の扉を通ってどこかに消えていった。


————


私は「勇者」に関する文献をひたすらに読み漁り、「勇者終末論」の伝承に残る勇者の研究を始めた。


勇者終末論。

それは、魔族の台頭から1万年後に起こるといわれている、魔族という種の終焉。

異界から神が人間の勇者を呼び出し、魔族の王を皆殺しにし、残った魔族も奴隷にする。

その後、世界は人間によって支配されるという。

そして肝心の勇者の特徴というのが、「一見普通の人間の服と同じに見えるが頑丈な衣服を身に纏い、伝説の聖剣を振り回して戦う、そしてどんな難敵にも屈せず立ち向かう、白い肌の好青年」ということ。

現れる場所については詳しくはわからないが、「魔王城から遠い場所に現れ、弱い魔族を虐殺しながら少しずつ成長していく」とも書かれている。


なので、魔界の端部分にいる農村部を管理している小魔王には、壁を建てるため構築魔法に長けた魔族を派遣し、戦闘幹部を配置して弱いままの「勇者」を迎え撃つように通達しておいた。


そして弱い一般市民は近くの避難所に逃して、勇者ができる限り一般市民を殺さないように配慮した。


今現在、私の勧告によって担当の戦闘幹部と小魔王以外の魔族は四つの端地区への侵入を禁止されている。


少しでも魔族を倒されたらたまったものではない。それに鍛えていない生身の人間は弱いというし、そのレベルなら小魔王や戦闘幹部レベルで何とかなるだろう。


————


(ここから三人称視点)


数日後……。


東端の地区、ヴァストークを担当する小魔王・アリファンは、勇者が自分の地区に現れていないか見張っていた。


すると、突如として岬の最先端部分に五芒星の魔法陣が出現し、黄色く光りながらクルクルと時計回りに回転しだした。


「なんだこれは?我々の魔法陣ではないぞ!総員、戦闘配置!」


「「「はい、わかりました、小魔王様!」」」


その場にいた戦闘幹部たちが魔法陣の周囲を取り囲むと、魔法陣が眩い光の柱に変わる。


そしてその柱が消えると、5人の直立二足歩行を行う、まだ彼らが見たことのない生物が現れた。


そう、この生物こそが人間だった。


「どこだここは?怪人に囲まれている?」

「また変なことに巻き込まれちまったな……」

「今週の怪人はもう倒したと思ったのに勘弁してよ〜」

「まさか1日に2回も変身することになるとは」

「一体何が起こったのかしら……」


「これが昔絵本で見た人間ですか……」


「思ったより弱そうだな……ああ、確か伝承では普通の人間は弱いんだったか?」


「まさか生きている間に見れるとはねぇ……まぁ、すぐに殺してやるよぉ。勇者っぽい見た目してないしぃ」


何だか拍子抜けしたという風に笑っていると、5人の人間たちはそれぞれ見慣れない物体を取り出し、それを操作して「変身!」と言いながら眩い光に包まれると、赤色、青色、黄色、緑色、ピンク色の全身スーツに身を包む機械的な姿に変身した。


「五人合わせて!稲妻戦隊トールレンジャー!」


「何だこいつら……まさか勇者か!?」


「いえ、彼らの見た目は伝承の勇者とは違います。伝承の勇者は他の地区に現れたのでしょう。ですから彼らは所詮、付属品。サクッと倒しちゃいましょう♪」


「戦いは量より質だってことぉ、教えてやるよぉ」


3人の戦闘幹部は臨戦形態に入る。


「3人まとめてかかってくるのか……だが!俺たちは負けない!そうだろう?お前ら!」


「「「「(あぁ/おぅ/えぇ)!」」」」


こうして、5人の戦隊ヒーローと戦闘幹部の戦いが始まった。


「ボルト・スラッシュ!」


「アンペア・キーック!」


「ワット・ブロー!」


「オーム・レーザー!」


「ファラド・パーンチ!」


一つ一つが高圧の電流を纏った一撃に、戦闘幹部たちがなす術もなく倒されていく。


「……ふぅ。とりあえず怪人は倒し終わったな」


5人組のうち赤い服を着た男がそういうと、5人は元の姿に戻った。


その様子を見ていたアリファンは、恐怖のあまり彼らの顔を直視することができなかった。


————


(ここから大魔王メガルファ視点)


「……大魔王様」


「なんだ、ディラノ?」


私はコーヒーを飲む手を止めてディラノの方を見た。


「先ほど、東端のヴァストーク、西端のザーパト、南端のユーク、北端のセーヴェル全ての地域で勇者の発生を確認しました」


「そうか。……被害の方は?」


「はい。確認されたすべての地域で戦闘幹部が全滅。小魔王4人は城下町まで避難してきました。ですが、壁があるのでしばらくは突破されないかと。問題はそちらではありません」


戦闘幹部が全滅し、小魔王が全員退避したことよりも大きな問題だと……?


私は数秒かけてそれを聞く覚悟を決めた。


「何だ、その問題とは?」


「はい、それですが……現れた勇者たちが伝説上の勇者と一致しません!」


「おい、それは一体どういうことだ?」


「つまり……大魔王様の対策は間違っていたかもしないのです」


「なんてことだ……」

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