第26話 リサリアの想い

 冒険者ギルドにて健斗の冒険者登録をしている時、リサリアはため息をつきながら考え込んでいた。受付嬢が彼のステータスを見た瞬間、驚きに震え、更に破顔していく様子を思い出して少し笑みをこぼしていた。


 リサリアの正直な感想は、健斗はさえない顔をしていて、少し軽薄なところもあるため、最初はモブ扱いだった。彼の外見はリサリアの好みとはかけ離れており、第一印象として嫌悪感すら抱いていた。しかし、ツインヘッドを一撃で倒すなど強者である姿を見せたことで、その印象は徐々に変わっていった。自分とエレナを気遣う姿に、リサリアは次第に健斗を見直すようになっていた。


 健斗の力が本物で、この世界屈指の英雄になるであろうことは確信していた。彼のステータスはS級やA級の冒険者を凌駕し、レベル10で攻撃力が200を超えているなど、まさに化け物じみていた。戦闘中の彼の顔は、普段の軽薄さとは一線を画し、真剣そのものだった。その姿に、リサリアは少し心を動かされることもあった。


 しかし、時折見せる彼の目は、リサリアの胸やお尻に向けられており、他の男と変わらない残念な目をしていた。それでも、健斗の存在は次第にリサリアの中で大きくなっていった。


 リサリアはそんな健斗を刺してしまったことに対し、深い後悔を感じていた。だからこそ、お金を得ると真っ先に彼の腕を治療すべく治療院に向かったのだ。全ての魔石を一度に売ると混乱するため、今回はミノタウロスとツインヘッドの魔石を売却し、248枚もの金貨を得た。これは標準的な家族4人が2年間生活できる額であり、健斗の腕の治療には金貨29枚と、かなりのお金を費やした。高額ではあったが、翌日には元通りになると言われたとき、リサリアは涙を流すほど安堵した。


 治療院での出来事を思い返しながら、リサリアは健斗を次第にオトコとして意識し始めていた。リサリア自身も肩に怪我をしていたが、実はかなり深い傷で痛みに耐えていた。彼女はそれをかすり傷だと主張して治療を頼まなかったのだ。健斗はそんなリサリアの様子を見て、何も言わずに治療師にリサリアの治療を頼んでいた。


 治療師が健斗の腕を治療している間、リサリアは黙って待っていたが、その後、治療師が何も言わずにリサリアの肩にポーションをかけ始めた。驚いたリサリアが治療師を見ると、治療師は微笑みながら、「これで傷も治りますから安心してください」と言った。リサリアは健斗の優しさに胸が温かくなるのを感じた。


 次にリサリアは服を買いに行くことにした。健斗の格好は目立つし、エレナの服も買わなければならなかった。宿に戻ると、健斗はエレナに話しかけた。


「そういえば、婚約者の話をしてたけど、俺の知ってるやつか?名前が同じなんだよな」


 エレナは驚いた表情を見せた。「侯爵の次男で、辺境伯の息子よ。家同士の結びつきを強固にするために婚約を迫られていたの。」


 健斗は顔をしかめ、「あいつか…俺を捕らえて拷問したやつだ。婚約なんて破棄しちまえよ!」


 怒りを込めて言った。


 リサリアは驚きと不安を抱えながらも、健斗の言葉に耳を傾けた。エレナも驚きながら健斗の話を聞き、「本当にそんなことがあったの?詳しく教えて」と尋ねた。


 健斗は深い息をついてから話し始めた。「あいつは俺を捕らえて、無実の罪で拷問したんだ。俺は絶対に許さない。でも、エレナ、お前が幸せになるなら、俺は全力で助けるからな。」


 エレナは涙ぐみながら、「ありがとう、健斗。でも、どうすればいいのか・・・あいつね、私じゃなくリサリアを欲しがったの。お父様の立場もあり、婚約はやむを得ないかなと思ったの。よりによってリサリアに・・・もちろんお前もコイツの侍女として俺の女になれ!妾くらいにはしてやるって言ったから、バカにすんなって断ってきたの」


 不安そうに呟いた。


 リサリアは2人の会話を聞きながら、これからの道筋を考え始めた。健斗の力を借りてエレナを守り、彼女の未来を切り開くために、どんな手を打つべきかを模索していた。そして彼のハートを射止めたいと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る