第24話 リサリアの打算と思い違い

 健斗は魔石などを売ったお金を受け取ったが、その金額に少し驚いた。大体の年収の目安を聞いていたからで、標準的な家庭が必要とする金額の約2年分になったのだ。公爵家令嬢エレナの使いとして換金しに来たのだと思われたようだ。


「流石公爵家の皆様です。ツインヘッドの他にも、A級やB級の魔物を討伐なされたのですね!」


 そう言って健斗たちはギルドに魔石を売却した分、合計で金貨248枚を手に入れた。


「これで腕の治療ができるな。ありがとう」


 リサリアは微笑み、健斗の腕を取る。


「さあ、次は治療院に向かいましょう。」


 健斗はリサリアに言われるがまま腕を引っ張られていく。


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 程なくして治療院に到着すると、治療士が健斗の腕を診察し、回復ポーションや魔法を使って治療を施した。傷は徐々に癒え、痛みも和らいできた。


「これでだいぶ良くなったはずです。少しだけ動かしてみてください。明日の朝には完治していると思いますが、今日のところはあまり無理はなさらぬよう。動かすと少ししびれや痛みを伴うと思います」


「ありがとうございます。確かに少し痺れますが動けるようになりました。それと彼女の治療も」


 治療士は健斗の反応に満足そうに微笑みながら2人を見送った。


 リサリアと共に治療院を出ると、健斗は次の行動を考えながら言った。


「これで少しは安心できる。服を買ったらエレナの元に戻って、これからの計画を立てよう。」


 リサリアもうなずく。


「そうですね。まずはエレナ様と健斗様の服を買わなければですわね。宿で休息を取り、次の目的地を決めましょう。それより治療、ありがとうございました・・・」


 リサリアは健斗に感謝の気持ちを伝えながら、破れたメイド服の肩を大きく引き下げ、肩を露出して見せた。


「見てください、健斗様。おかげで傷もなくなりました!」


 その姿に健斗は驚き、顔を真っ赤にして慌てた。もう少しで胸が見えてしまうからだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!こんなところでそんなことするなよ!」


 リサリアはキョトンとした顔で健斗を見つめる。


「? どうしましたか?傷がないことを確認しただけですが・・・」


「いや、それは分かるけど、場所を考えてくれよ。周りに人がいるんだぞ!」


 健斗の指摘にリサリアはハッとなり、己が何をしていたのかに気が付き、慌てて肩を覆った。


「ごめんなさい、健斗様。気づきませんでした・・・」


「大丈夫だよ。でも、次からは気をつけてくれ。さあ、服を買いに行こう。」


 リサリアは恥ずかしそうにうなずき、二人は次の目的地へ向かって歩き出した。健斗の心臓はまだドキドキしていたが、リサリアの天然さに少し和まされていた。今回リサリアはギリギリを狙って、わざと行ったたのだ。打算から健斗の気を引くためだったが、予想外の反応に驚き、今まで感じたことのない感情が胸にあることに少し戸惑った。


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【冒険者登録の様子】


 健斗が冒険者登録をする際、まずは能力測定が行われることになった。受付嬢が魔道具を取り出し、健斗に手渡す。


「こちらに手をかざしてください。能力を測定します。」


 健斗が手をかざすと、魔道具が光り始めて数値が表示されたが、その瞬間、受付嬢の表情が変わり、驚きの声を上げた。


「な、何これ・・・A級?いえ、S級に近い冒険者並みの数値ですわ!」


 周囲の冒険者たちもざわめき始め、健斗の能力に注目が集まる。リサリアはその様子を見て、少し誇らしげに微笑んだ。


 次に、健斗は登録書類に記入することになったが、彼は困った顔をしてリサリアに言った。


「俺、読めねえわ。」


 リサリアは仕方ないですわね、と言いながらも、口角を上げてまんざらでもない様子で健斗の代わりに書類を記入していった。


「では、私が代筆しますね。健斗様の情報を教えてください。」


 健斗はリサリアに情報を伝え、彼女はそれを丁寧に書き込んでいった。受付嬢はその様子を見て、再び驚きの表情を浮かべたが、すぐに手続きを進めた。


「特技はありますか?」


「どういうこと?」


 受付嬢が尋ねると、健斗は、首を傾げて聞き直した。


「はい、剣とか魔法です。魔法の場合、得意属性なども教えてください。」


 健斗は少し考えてから受付嬢に答えた。


「剣は・・・多分自分の脚を斬る自信があるぞ!俺の攻撃手段はこのラケットでボールを打つだけだな。でも魔物の体は貫通したぞ。こんなんで良いか?それとラケットで殴ったりかな?」


 受付嬢はさらに質問を続けた。


「か、貫通って・・・実際に貫通したのですか?」


 健斗は少し考えてから答えた。


「なんか馬のような魔物の頭をボールが貫いたら倒れたぞ。」


 脈絡のない回答にリサリアが代わりに答えた。


「健斗様はお特殊な武具による秘技にて、ツインヘッドをお1人で討伐なされましたが、確かにこの目で見ましたわ、」


 受付嬢はその答えに再び驚きの表情を浮かべた。


「これ、複数パーティーで当たるか、単独だとA級かS級推奨の魔物ですよ!やはりスキル持ちの方なのですか?」


 その瞬間、健斗は頷き、ドンっと最初に倒した巨馬画ドロップした魔石をカウンターに置いた。受付嬢はその魔石を見て腰を抜かしそうになった。


「ス、スキル持ちの方でしたか・・・流石公爵家の関係者ですわね。」


 話しながら登録したステータスカードを手に持ち、本来の顔に戻った受付嬢は営業スマイルを向けた。


「これで冒険者としての活動ができます。そして、魔石の換金額はこちらです・・・」


 健斗が文字を読めないと分かった段階で、リサリアが代筆してくれていたが、身分にエレナ様の護衛と記載していた。おそらくそれで手続きがあっさり終わったと健斗は感じるも、拍子抜けしていた。


 能力測定の時にオーブが割れて大騒ぎになるイベント等もなく、注意事項や決まり事などの紙を渡され、後で読んておいてくださいと言われた。多少受付嬢が驚きアワアワするのはあるも、健斗の期待から外れていた。


 特に能力測定の結果に対するイベントがないだけでなく、ステータスは高かったようだが、「流石公爵家の方」と片付けられてしまったのだ。ただ、受付嬢の健斗を見る目が、面倒そうな人が来たなぁから、獲物を狙う肉食獣のように強者を求める女の目になっていたのには気が付かなかった。



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 参考資料、魔石の売却目録

 詳細目録

 魔石売却目録

 冒険者名: 健斗

 売却日: xxxxxx

 売却魔石一覧

 A級魔物の魔石

 数量: 1個

 価格: 金貨102.4枚

 B級の魔物の魔石

 数量: 5個

 価格: 金貨25.6枚 × 5 = 金貨128枚

 C級の魔物の魔石

 数量: 2個

 価格: 銀貨64枚 × 2 = 銀貨128枚 (金貨12.8枚)

 D級の魔物の魔石

 数量: 3個

 価格: 銀貨16枚 × 3 = 銀貨48枚 (金貨4.8枚)

 合計金額

 金貨: 102.4枚 + 128枚 + 12.8枚 + 4.8枚 = 金貨248枚

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