イケメンの園のMariko
ゴオルド
イケメンばっかりのサークルって変だと思いませんか?
新卒で入った会社を数年で辞めた。再就職先探しは難航したので、私はバイトしながらある資格を取ってみることにした。
できれば資格スクールに通いたかったが、経済的に余裕がないので独学だ。だが、ひとり自宅でテキストをひらいてみても、わからないことだらけで先が思いやられた。
バイトの休憩中、スマホでネットを見ていたら、ある資格スクールが1日だけの無料講座をやると知り、これは良いと思って申し込んでみた。
受講してみたが、教わったのは基本的なことばかりで、つまりは有料の講座に申し込まないと有用な話が聞けないのだなということがわかっただけだった。
入校案内のパンフレットを頭上に掲げた事務員たちの脇をすり抜け、肩を落として教室を出たところで、ほかの受講生に話しかけられた。綺麗な女性だ。いまどきのファッションに身を包み、ネイルもばっちりだ。
「こんにちは。私、マリコって言います。あなたも独学なんですか?」
「あ、はい、独学です。あ、私は北斗っていいます」
これが全ての始まりだった。
明るく社交的なマリコは、話していて楽しい人だった。同じ二十代で女性同士ということもあって話も弾み、お互いの家に遊びにいく仲になるのに時間はかからなかった。
社会人になってからは友だちができず、寂しく思っていた私にとって、マリコとの出会いは、空からダイヤモンドが降ってきたみたいに幸運で幸福なものだった。どれだけ私の生活に潤いを与えたことだろう。マリコは聞き上手で、どんなことでも話してしまいそうになるようなところがあった。勉強の話だけでなく仕事のこと、家族のこと、恋愛のことなども話せて、なんだか昔からの友だちのように錯覚してしまう。私はすっかりマリコのことが大好きになっていた。
通いなれたマリコの家で一緒に勉強していたある日、正解がわからない過去問にぶち当たった。
書籍やネットなどで調べてみたがお手上げで、「こういうときに教えてくれる人がいればいいのになあ」と、私が言うと、マリコも「本当だよね」と同意して、話はそれで終わった。
帰宅後、私はその過去問がどうしても気になってしまい、資格の受験生が集まるネットの掲示板で質問してみた。もし答えがわかったら、マリコにも教えてあげよう。マリコもきっと喜んでくれるに違いない。
運良く有資格者がログイン中で、すぐに解答を教えてもらえた。そのとき「独学は限界があるから、勉強会に参加してみたら?」とアドバイスをもらった。受験勉強をするための社会人サークルが全国各地にあるらしく、うちから最寄りの勉強会では有資格者が指導してくれるのだという。参加料は月千円。資格スクールに行くことを思えば安い。早速教わった勉強会の主催者にコンタクトをとり、参加の許可を取り付けた。
日曜日の夕方、勉強会の会場である公民館に行くと、そこにはなぜかマリコもいたので、私はひどく驚いた。
「北斗ちゃんのことも、そのうち誘おうと思ってたんだよ」
マリコは笑顔でそう言った。嘘だなと瞬時に察したが、波風を立てたくなかったので、「そうだったんだ」と、答えておいた。
これがマリコを不審に思った最初の出来事である。
勉強会は、なぜか男性ばかりだった。二十人ほどいるのに、女性は私とマリコだけ。以前、無料の体験講座に参加したときは、女性のほうが多いぐらいだったのに。あまりに性別が偏っている。
私は部屋の後部の席を案内された。マリコとは離れた席だ。勉強会が始まるまでの間、私は隣席のトモ君というイケメンと話した。シャツを首まできっちりとめた、育ちの良さそうな大学生だ。
「女性の参加は珍しいですね。どうぞよろしく」
「よ、よろしくお願いします」
「実は僕も最近参加したばかりなんですよ。君もマリコさんに誘われたんでしょう?」
そう尋ねられて、どう答えたものか正解がわからず、曖昧にぼかしておいた。
トモ君が言うには、マリコはこの会に3年前から参加しているそうだ。彼女は参加者の勧誘役を買って出ているとのこと。参加者は合格したら勉強会を卒業してしまうため、常に新規参加者を勧誘し続けないと勉強会を維持できないのだという。
話におかしなところはない。二点を除けば。
疑問一、マリコは女性と知り合っても勉強会には呼ばないようだ。それはなぜか。
疑問二、見渡すかぎり、参加者は若いイケメンばかりのようだが、それはなぜか。
嫌な予感がした。
だが、予想に反して勉強会自体はまじめなもので、主催者であり有資格者でもある下谷さんという男性は、質問に何でも答えてくれる頼もしい先生であった。
ここに通っていれば合格できるかもしれない。私はそんな希望を抱き始めていた。
事件は、懇親会という飲み会のほうで起こった。
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