軽装歩兵アラン
たくp
荒野
1919年、それは未曾有の戦争、第一次世界大戦の休戦から間もない暗い時代だった。
オーストリア=ハンガリーの皇太子夫妻がセルビア青年に暗殺された『サラエボ事件』や、モロッコの『アガディール事件』などを引き金にオーストリア=ハンガリー帝国、ドイツなどの同盟国とフランス、イギリス、ロシア帝国、アメリカなどの連合国の二つの勢力は、バルカン半島の権益をめぐり、4年にわたる泥沼の戦争を繰り広げた。
飛行艇や戦車などを投入し、国のすべてを動員した総力戦となった戦争は誰もが早期終結を想定していたが、結果は大きく裏切られた。
誰もが消耗した。
そして地は荒れ果て、多くの人が帰らぬ人となった。
そんな荒れた大地を1台のバイクに乗ったフランス軍軍服を着用している若い青年が、ボロボロの一本道を通過する。
青年の名前はアラン・バイエル、戦争が終わった1919年のこの年になぜ彼は軍服を纏い、この荒廃した大地にいるのだろうか。
フランス軍軍服にボロボロの防弾マント、側車には旧式の対戦車ライフルと物々しい。
戦争は終わったと言うのに、彼は何と戦っているのか・・・・・・。
「ここにもいないのか・・・・・・」
青年アランはつぶやいた・・・・・・。
何かを探しているようだ。
人はおろか建物さえもないこんな荒野には、色のない殺風景ばかりが広がる。
曇天の空、砲撃によってボロボロの穴だらけになった大地、この中では何も動くものは見当たらないだろう。
「あれが、あいつはフランスのどこかにいるはずだ・・・・・・」
アランは何か気配を感じ、バイクを急停車させた。
すぐさまエンジンを切って、側車から対戦車ライフルを取り出す。
軽装歩兵。
それは対人・対戦車戦闘に特化した歩兵のことで、第一次大戦では多くの若い青年が軽装歩兵として従軍したと言われている。
対戦車ライフルは旧式のライフルで下級クラスの軽装歩兵に宛がわれることが多く、前線では旧式の武器を手に西部戦線などで活躍したと言われているようだ。
ボルトアクション式のライフルで、装填弾数5発と少ないが、旧式ライフルの中では高威力を誇り、ドイツの戦車を撃破した記録も残したとされている。
アランはライフルを手にして周囲を警戒するよう見渡す。
アランは運転中、不穏な振動に気が付いた。
地震にしては短い揺れだった。
走行中だったが、数秒の短い縦揺れをアランは感じ取った。
そして彼の予感の通り、短い縦揺れがまたしても襲う。
「地震ではない、まさか・・・・・・!」
静寂を打ち破るように、地面が蒸発した。
意表を突かれたアランの視界に映し出されたのは、奇形のタコのような見た目をした機械のようなものだった。
「あれは!」
タコのような見た目、血塗られた赤い塗装、タコ足を再現した6本の脚と両腕のアイアンクロー、アランはそれを知っていた。
「機械人形?!」
機械人形(マシンドール)とは。
第一次大戦、フランスでは謎の奇形をした機械を開発した。
後に、これらは機械人形と呼ばれ、軍内部でもその存在は隠匿されていた。
そして終戦前の1918年、フランスの地方基地で機械人形の強奪事件が相次いで発生した。
誰に何の目的で強奪されたかは不明、これらはしばらくして『UE(アンノウンエネミー)』と呼ばれる異星人による強奪事件として扱われ、多くの謎を残している。
アランはその機械人形を知っていた。
いや、見たことがあるのだ。
機械人形の名はタコ型機械人形『フォルティシモ』、いつどこでどのように設計・開発されたか現在でも多くの謎を残す機械人形で、この機械人形の発見以降、フランス各地で多くの動物型機械人形が多数確認されており、一説では機械人形のパイオニアと称されている。
『フォルティシモ』の頭に奇形の魔物がいた。
見た目もタコと人間が融合したような外観でマントを羽織った魔物、アランを見下していた。
「なんだこいつは?このラムジン様相手に見上げたような面しやがって!」
魔物も言語を話せるようだ。
アランはライフルを構え、ラムジンに狙いを定める。
「貴様、何者だ!」
「素性を明かすバカがいるかよ?まあいいさ、なぶり殺しだ」
ラムジンは幻影のごとく姿を消した。
その数秒後に、『フォルティシモ』のモノアイカメラが赤く光る。
「へへへっ!なぶり殺しだ!」
アランはライフルのトリガーを引く。
反動とともに対戦車用の榴弾が発射した。
『フォルティシモ』の上半身が爆破する。
しかし『フォルティシモ』は傷一つなく、丈夫そうだ。
装甲が対戦車ライフルを受け付けないのだろう。
「どうしたらいい?」
アランは迷う。
対戦車ライフルでは歯が立たない。
そんな時、アランの背後には塹壕があった。
第一次大戦の名残、多くの兵士が苦い思いの中で砲撃に耐えた塹壕、粘土のような地面、ボロボロ具合から相当ダメージを受けているようだった。
アランは咄嗟に塹壕に飛び込もうとした。
その時『フォルティシモ』が跳躍し、アランのバイクを襲う。
アランはすぐさま身体を塹壕に投げた。
バイクは『フォルティシモ』の一撃を喰らって蒸発してしまう。
「あいつ、どこへ行った!」
アランの姿はない。
ラムジンは『フォルティシモ』を2歩前身させる。
「ええい!八つ裂きにしてミンチにしてやる!」
ラムジンは『フォルティシモ』を前進させ、塹壕を覗こうとする。
「まさか?!」
塹壕の中にアランはいなかった。
「あいつは、どこに?」
ラムジンは『フォルティシモ』のモノアイカメラを左右に動かして周囲を見渡す。
「もしや!」
背後を取られた。
ラムジンはそう悟った瞬間、『フォルティシモ』を反転させた。
アランの手には手榴弾があった。
威力は戦車を吹き飛ばすだけの力を有している。
「これで、終わりだあああああああ!」
アランは右手に隠し持っていた手榴弾を『フォルティシモ』の全身めがけて投げる。
一瞬の蒸発、すさまじい爆音と土煙、『フォルティシモ』は姿を消した。
「やったか?」
アランは爆発のあった箇所へ近づく。
『フォルティシモ』は背後から白煙を吹いていた。
手榴弾の一撃はすさまじく、『フォルティシモ』の装甲の各所に亀裂が生じていた。
しかし、致命傷ではなさそうだ。
「お前だけは忘れない!」
無線越しからラムジンの怒りの声が響く。
『フォルティシモ』は跳躍し、アランから離れるように荒地の外れまで消えていった。
「機械人形、やはりあいつは・・・・・・まだフランス各地にいるのか!」
アランは闘志に燃えていた。
アラン・バイエル、彼はなぜ機械人形を追うのか。
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