25 困惑する人々

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「は、い……?」


 一瞬、オズワルド様のお義母様が私に何を申されたのか理解が出来ませんでした。


 なぜなら、お義母様もその目で見ていたはずなのでございます。

 総レースのウェディングドレスが、リリアンのワガママボディによって無惨にも引き裂かれるその様子を。


 そして無惨にも引き裂かれてしまったウェディングドレスは、私達の足元に物悲しく放置されております。

 

「マリアベルさん! 貴女もうちに早くお嫁に来たいって、言ってらしたでしょう? だから私達が貴女の為に協力してさしあげるわ!」


「いえ、それは……」


 確かにオズワルド様のお義母様にそう言った記憶はございます、ですがそれは私とオズワルド様が婚約を破棄する以前の事でございまして。


「あ、オズワルドの事が心配なら大丈夫! 息子には私達から言って言い聞かせるし、それにウェディングドレスもまたお直しすれば着られるはずよ、だから安心して?」


「いえ、ラフォルグ侯爵夫人。私はオズワルド様とはもう、やり直すつもりが全くないのです」


「えっ……? な、なにを言ってるのマリアベルさん! 貴方達……あんなに愛し合っていたじゃないっ! だから私は身分の劣る貴女とオズワルドの結婚を許して差し上げたのよ?」


「それはオズワルド様が私を裏切る以前の事でございます。婚約者のいる身でありながらその婚約者の妹に手を出すような方を私は愛せませんし、許すことは出来ません」


 きっと初めに誘惑したのは私の馬鹿な妹なのでしょう、ですがその誘惑に乗ってしまった時点でオズワルド様もリリアンと同罪。


 当時親身になってオズワルド様と私の婚約を応援してくださいましたラフォルグ侯爵夫人には大変申し訳ないのですが、そのご提案を受け入れることは絶対に出来ないのです。


 もう私はオズワルド様との未来は描けない。

 婚約破棄を告げられたあの日、オズワルド様に抱いていた愛情は消えて無くなったのです。

 

 もし今オズワルド様に対して抱く感情があるとすれば嫌悪と憎しみ、それと不快感でしょうか?

 それに今よく考えてみますとよくあんな男に惚れたなと、思う次第でございまして。


「……マリアベルさん? 一度や二度の男の浮気なんて出来た妻なら笑って許して差し上げるものよ? それにオズワルドだってどうせ結婚前のお遊びよ、本気じゃないわ!」


「でしたら私は出来た妻になどならなくても結構でございます、一生独身で侍女のお仕事に精進して参りますわ」


 浮気されても何も言えず。

 夫や浮気相手に馬鹿にされて生きるくらいなら、私は一生独身でも構いません。

 

 幸いな事に私はレオンハルト第一王子殿下の侍女をさせて頂いておりますので、一人でもなんの問題もなく生きていけます。


「なっ!? あ、貴方! 貴方もそんな所でオズワルドと遊んでいないで、マリアベルさんになにか言ってあげて頂戴!」


「えっ……いや、でも流石にそれはお前……いくらなんでも、無理……」


 私にオズワルド様との復縁をお断りされてしまいましたラフォルグ侯爵夫人は、現在オズワルド様を取り押さえておられますラフォルグ侯爵様に助力を乞われますが。


 困ったご様子のラフォルグ侯爵様。

 まあ……困りますわよね?

 

 この酷い有様を見て、好き放題やった息子と再び婚約しろだなんて正常な判断が出来る方ならば絶対に言えませんもの。


「もう、大事な時に役立たずなんですから! いいですわ、それならばハインツ子爵?」


「へ……? あの、私、ですか?」


「そう、貴方よ! 他に誰がいるって言うの? ハインツ子爵、マリアベルさんとオズワルドの婚約を結び直しましょう?」


 次はお父様に矛先が向きました。

 私が駄目ならばその親にですか、でも絶縁してしまっているので無駄だと思うのですが。


「え、い、いや……オズワルド様と結婚致しますのは妹のリリアンでして……はい」


「それは駄目よ、絶対に許さないわ。オズワルドと結婚するのはマリアベルさんよ、もしこれを断るというのならこの騒動を起こした全ての責任、ハインツ子爵に取って頂くことになりますわよ? よろしくて?」


「え……」


「だってそうでしょう? 貴方達は知ってらしたんですもの、結婚の許可を私達に取っていないのに結婚式を強行しようとする二人の企み事を」


「た、企みなんて……そんな私はっ!」


「それにもし結婚式が今回執り行われていたとしても私達の許可なくしては国からはその結婚が正式に認められない、我が侯爵家の顔に泥を塗るだけと貴方達はわかっていたのでしょう?」


「許可……オズワルド様はリリアンとの結婚の許可を、ご両親に取っていなかったんですか!?」


 あ、この顔は。

 お父様本当になにも知らされていなかったみたいです、珍しく本気で焦っていらっしゃる。

 頑張って下さい、ここが正念場ですよ。

 ここで頑張らないと全責任押し付けられちゃいます、ほんと怖いですね王都って。


「あら白々しい、責任逃れをなさるおつもり?」


「責任逃れだなんてっ! 私達も何も知らされてなかったんです! オズワルド様が結婚式も全部こちらで用意しているからと……」


「あら、次はうちの息子に責任を全て擦り付けるおつもりかしら? これだから田舎貴族は嫌なのよ、困ってしまいますわ……」


「擦り付けるもなにも、うちは何も知らされていなかったんです! そんな事を急に言われても困りますよ、ラフォルグ侯爵夫人」


「そう、じゃあ仕方ないわね? 貴方達の失態を許して差し上げる代わりにマリアベルさんをうちの嫁にくださいな、そうしたら許して差し上げるわ」


「マリアベルを……?」


「ええ、どう? 貴方達にとっては悪くない提案でしょう?」


 ……とっても悪い提案ですけどね、私にとっては。


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