突然やってきた女の子にトイレを貸したら家に入り浸るようになりました

麦茶

第1話 夜中に鳴ったチャイム

ある日の休日、

俺はベッドに寝っ転がりながら

スマホをイジっていた。


だけど、動画を見ていても興味が続かない。


数時間前に知ったある事実が

俺から楽しむという気持ちを奪っていた。


俺はスマホを枕元に置き、天井を見上げる。


そして、ある願望を口にした。


「俺も彼女欲しいなぁ・・・・・・」


学校からの帰りに駅で中学時代の友人が

彼女と一緒にいる所を見たせいで

俺は深くそう思うようになっていた。


「まさかアイツに彼女が出来るとはなぁ・・・・・・」


その友人の名は立川というのだが、

中学時代はわりと仲良くしていた。


同じアニメにハマって

一緒に映画を見に行ったこともある。


そんな友人に彼女ができていた。


「アイツ、嬉しそうだったよな・・・・・・」


彼女がいることを報告し、

紹介する友人の顔は幸せそうだった。


俺もああいう顔がしたいと思った。


そんな理由で彼女を欲しいと願う俺だったが、

その根底にあるのは友人に対する軽視だった。


「チクショウ、何でアイツに彼女ができて俺にできないんだ・・・・・・」


アイツに彼女ができるなら俺だって・・・・・・。


そんなことを考えて小さな嫉妬の炎を燃やす

俺だったが、その勢いは続かない。


「まあ、アイツも色々と頑張ったんだろうなぁ・・・・・・」


立川のことは嫌いではないので

あまり憎むことができない。


「はぁ、俺も彼女が欲しいなぁ・・・・・・」


俺は心の中で立川に

「おめでとう」と言いながら、

自分の境遇に溜め息をつく。


そして、それは息を吐ききった時に起こった。


ピンポーン!


突如として、玄関のチャイムが鳴り響く。

それは俺しかいない家に広がっていた。


その音を聞いて、俺は瞬時に身を起こす。


「な、何だ⁉」


突然の呼び出しを受け、

俺の身体に緊張感が走る。


その原因は今の時間帯にあった。


「(よ、夜の十時だぞ⁉)」


時間的に配達員の人が

荷物を届けに来る時間ではない。


両親が帰ってきたのではないかと思ったが、

鍵を持っているのだから

チャイムを鳴らす必要はない。


「(だ、誰が来たんだ⁉)」


家に俺しかいないせいか、

未知の訪問者に俺は少しビビる。


だが、玄関の前に立っている人物は

そんな俺の不安を煽るように

チャイムを連打してきた。


ピンポン、ピンポン、ピンポーン!


対応を求める音が繰り返され、

俺の恐怖は増大する。


ヤバい人が来ているのではないかと焦り出す。


「(い、居留守を使うか⁉)」


一瞬そう考えてこの状況を乗り切ろうとするが、今はそれが使えないことに気づく。


カーテンを閉めてはいるが、

俺の部屋に電気が点いていることは

外からも分かってしまっているだろう。


俺が家にいるということが分かった上で、

チャイムを鳴らしているはずだ。


「(ど、どうする⁉)」


自分以外に家族がいない状況で

突如としてこんなことになってしまい、

俺は一人でこの状況を

乗り越えることを求められる。


だが、そんな俺を追い詰めるように

相変わらずチャイムの音が響く。


「(と、とにかく下に降りるか)」


幸いウチにはドアホンがあり、

相手の顔を確認することができる。


とりあえず誰がいるのかを見てから

動こうと思い、俺は素早く玄関に向かう。


そうしてドアホンの前に着いたのだが、

俺はドア一枚を隔てて

未知の人物が立っていることを

実感して再度ビビる。


「(ど、どんな奴なんだ?)」


俺は玄関の方を見た後、

覚悟を決めてドアホンを起動する。


そして、そこに映っていた

人物を見て目を大きく見開いた。


「(か、可愛い・・・・・・)」


画面に表示されたのは

思わず恐怖を忘れるような美少女だった。


「(な、何でこんな子が・・・・・・)」


さっきまで

とんでもない奴が来ているのではないかという

恐怖心があったせいか、

俺は画面に映っている少女に

安堵感と戸惑いを受ける。


加えて、その表情も俺を困惑させた。


何故かは分からないが、

とても焦った顔をしているのだ。


「(な、何かあったのか?)」


その理由は分からなかったが、

俺はともかく害のなさそうな

相手だったことに一安心する。


そして、まだ不安は残っていたが

一応声を掛けることにした。


「あ、あの・・・・・・」


俺が緊張気味にそう声を出すと、

彼女はドアホンにぶつかるような勢いで

顔を近づける。


そして、必死の形相であるお願いをしてきた。


「すみません、トイレを貸してもらえませんか!」

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