第149話 Driving All Night(2002年)DOUBLE
一輝はまだ遠くに行っていないはずだ
私(星輝)は一輝に電話をかけた
やはり出ない
運転中なのだろうか?
彼は高速道路を使わず。国道116号か海岸沿いを走っていくはずだ
そして彼はどこかで応答するのではないか
しかし彼がどこに行ったか、皆目見当がつかない
おそらく高専の寮か?
あそこは勝手に泊まることは、セキュリティの都合で出来ないが、もしかしたら工藤君が中から鍵を開けるかもしれない
そう思った
そうしていると、お父さん(雪康佑)から電話があった
母が入院しているし、時間があるから、私の部屋に来ていいか?という話だった
断ったってどうせ来るはずだ
「お父さん、今、男と同棲しているの。来ないで」
「ど・・同棲!!はい!!!マジかー! お前、まだ高校を出たばっかりだろ?相手はどんな男なんだ?」
あ、言わなければ良かったかな……このあたりはロックなくせに、小心者で心配性な男だ
「とてもいい人。私、バンドをやっていたでしょ。こっちに来てバンドをしていたの。その人がバンドのメンバーに加わって、彼と付き合いだしたの」
「はぁバンドの男???ロックか?音楽関係にはロクなヤツいないだろ!」
「人のこと言えるか!お父さんだってロックミュージシャンで音楽やってるくせに!」
「それとこれとは…話が違うわ!で?」
「で?って何よ」
「相手はどんな男だ?」
「高専の学生。4年生。私と
「はぁ…まあ…まさか、お前が……高専なら就職は固いな。いいだろう……でも同棲とは」
(なぜか生活費に現実的なロックな男)
「お父さん!お母さんのことが心配で来たんでしょ?検査が終わって結果が出たら知らせるから。早めに見つかればいいの。母は、ああ見えてマジメに定期的に検査をしているからね。でも…」
「お前のいいたいことは分かる。夏美は俺のことを許してくれてないんだろ」
「そうみたいよ。お父さんの話題なんて一言も出てこないし。私からお母さんに『会った』それとなく伝えておくから。手紙でも書いたら?電話やメールとかじゃなく。お父さん、忙しいんでしょ?」
「ああ、今日、夕方の新幹線で東京に帰らなないと」
「別れても、まだお母さんのこと、まだ好きなんでしょ?だから検査入院と聞いて、新潟に飛んできた」
「…ああ、さすがだな、お前は」
「大失敗だったよね、お父さん。でも、お母さんには、こまったもんね……本心はあの写真週刊誌の件じゃないかもよ?」
「俺もなんとなくそんな気が……あ、お前から教えてもらったハンバーガー屋、肉が美味かった。いつもファストフードのチェーン店でしか食ってないから、ああいうの久しぶりだ。アメリカで食ったみたいなヤツだ。ありがとよ。また新潟に来るから」
哀しそうな、お父さん。お母さんのことがまだ好きなんだ。
ウジウジしているロックな男だ
新しい人と結婚する気もないようだし
世間的にはチャラい感じで通っていたみたいだが、見た目と中身は大違いだ
それを自分の親父に言うか、って話だが
「ねえ、お母さんは、手紙くらいなら病院でも会社でも受け取ってくれるはず。勤め先は報道で知っているでしょ?入院先の病院の住所をあとでメールで送る。じっくり考えて書いて送ったらどう?」
「そうする。破り捨てられても、破り捨てられても……」
「そうなったら、そうで仕方ないわよ」
◆◆◆
どうしたら一輝の居場所がわかるだろうか?
私は、ぶつけまくった、お母さんのアウディを社宅のマンションから取ってきた
マンションの車庫入れで段差で下を擦ってしまったぜ
ちょっと勢いよく車庫入れしたら、これだ
車高が低いのが悪い
(ちょっとは運転の腕を磨け)
一輝はバッグに服を詰めかけだった。
急いで出ていったようだった。
電話をもう一度かけてみる、ダメか……
一輝から返事が来た
「どうしたの一輝?ひとりになりたいって?」
「ちょっと思うところがあって、一人になりたかったんだ」
「今、どこにいるの」
「シーサイドラインの駐車場」
「早く帰ってきなさいよ」
「すこし考えさせて」
「あなたには考える余地はない!早く帰って来い!」
「俺さ、キミんところに来たのは、一緒にバンドをやるためだった…でもコロナでバンド活動できないだろ。キミから学業のことを考えろと言われると、俺は、また寮に入ったほうがいいんじゃないかと思ってさ」
「出ていく必要ないのよ。授業もリモートじゃん。バンドも配信でやろうって、この前言ったでしょ?私と勉強とどっちが大事なのよ!」
(さっきは学業に専念しろと言ったくせに……)
「輝のことは好き。でも、研究室に入ると夜も遅くまで研究室にいるからさ」
「おい!出ていくなんて、そんなの私、許さないわよ!」
「ちょっと考えるだけだから……」
「ねえ、どこにも行かないでよ!」
そう言ったら、電話は切れた
そうか高専か……工藤君の手引きで部屋に入るんだな……
私は彼に携帯にメッセージを入れた。そしてメールも送った
もう一回、電話を掛けたがすでに電源が入っていなかった
メールからの返信もなく、ラインも既読つかず、携帯ショートメールも同様だった。私は彼に避けられてしまったのか?
まさか、フラれた?私がフラれるなんて、そんなの許さないから!
この私をフるなんて!
どうしようか‥‥
もう意味わかんない‥‥
◇◇◇
同日同時間、上越市内
私(橘沙希)は、突然に兄貴(橘一輝)のカノジョの輝さんから、ラインのメッセージを受け取った。
「沙希さん、一輝くんの行方、知らない?」
「どうしたの」
「彼、いなくなったの」
え、兄貴がカノジョのところからいなくなった?
確かに私は輝さんに「別れろ」と言った覚えがあるが……
しかし、兄貴には言ったことはない
あいつ(一輝)は何の気を出したんだ?
あのバカ、オタクのくせに美人を振るなんて、不届き者め
カノジョから振られるならまだしも、オタクが美人をフるなんて許せるはずがない
頭、おかしいんじゃね?
「まさか、兄貴はずっとあなたにゾッコンだったはずなのに、なんでいなくなるのよ?」
「わたし、ちょっと言い過ぎたかなぁ」
「別れようとでも言ったの?」
確かに私は輝さんに別れて欲しいとは言ったが
「それはない。彼から出ていった」
「アイツ、アホだからねぇ…何考えてるかわかんないし……」
「居場所しらない?」
「へ、なんのこと?」
「
「ちょっと怒らないでよ。はいはい、分かりますって」
「ゴメン、声を張り上げてしまって……」
「ちょっと待ってね。パソコンを立ち上げるから」
私は兄貴のスマホに仕込んだスパイウエアにアクセスし、GPSのログを取りだした。
新潟市中央区から海岸を通り403号を南下して、与板のあたりで中之島見附インター方面に向かって、国道17号に出て……いつものワンパターン
高専に入ったようだ
GPSログが高専の寮のあたりで止まっている
「たぶん学校の寮ね」
「さすが……沙希さんだ。恩に着るわ」
◇◇◇
俺(橘一輝)は、輝のマンションから出ていった
実家に帰るすべもなく、工藤に連絡して学生寮に入った
「おい、橘、急に泊めてくれって、あの彼女と別れたのか?。お前にはもったいないくらいの美人だろ。早く電話して戻ってやれよ」
「ちょっと冷却期間さ。俺も将来のことを考えないと」
「考えるって、おまえは推薦をもらって長岡技科大に編入学するんだろ?」
※国立長岡技術科学大学・進学を希望する高専生のために特化された大学
「おれ、バンドをやろうかと思っていた。だからカノジョと一緒に住んだ。でも俺は音楽の才能は無いみたいだし。妹はアメリカの大学を受験したいとか言っている。でもコロナでアメリカには入国できないから……オヤジ(橘恭平)は最終学歴がカルテック(カリフォルニア工科大)だろ。そしてオヤジの弟は東北大学工学部の先生。沙希はアメリカに入国できなければ東北大に入るかな?だから、おれ、このままでいいのかと思ってさ。輝から言われたんだ。あなたは電気電子工学が好きなんだから、音楽よりもっと勉強しなさいって」
「なんだ、輝さんもタネを蒔いたのか」
「輝は悪くないさ。コロナでしばらく外出を自粛しろと言われて、外に出られなくて、お互いにイライラしていたのかもね……ああ、輝に悪かったかも……」
「お前たちきょうだいは、小さい頃ロス(ロサンゼルス)に住んでいたから英語が出来るよな。アメリカの大学か。結構カネかかるだろうけどさ」
ガガガガ…なにかが壁にぶつかって
「なんだろう?この音」
「寮の初心者ドライバーが、何かにぶつけたんじゃないの?まあいいか。再入寮の手続きをパソコンから取りだして‥‥」
外から「おーい」という、女性の声がした
「なんだろう?」と工藤が寮の窓から、外を見た。
「あれ?あの人……」
「なんだ、工藤」
「お前の彼女じゃね?」
「へ?俺の居場所が分かった」
(考えていることが単純なくせに……)
「一輝、隠れていないで出てこい!お前は完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめて出てきなさい」
輝の声だ。立てこもり犯人を追い詰める警察のセリフみたいだ
俺は寮の窓から顔を出した
「おい、一輝、ここにいやがったな!」
下に輝がいて叫んでいた
「早く降りてこーい!」
「お前の彼女、相当、怖そうだな。ここにいても乗り込んでくるぞ。鉄球を持ち出して破壊しそうな勢いだ」
「あさま山荘か……」
(知っているのは相当な年代だ)
学生寮のみんなが窓から顔を出して笑っていた。
恥ずかしい
工藤が言った
「橘、カノジョを迎えて行ってやれ」
モテないくせに、生意気なことを言いやがって、
俺は下に降りて彼女の元に行った
母親のアウディS7で来たらしい
門から入る時に、今度は反対側のバンパーを豪快に
さっきのガガガガ…という音はコンクリート擁壁に車を擦ったときの音だったのか
もうボコボコだ……この車の前のバンパー
「ちょっと、輝、声が大きい、目立つじゃんか」
「アナタが家から勝手に出ていくのが悪いのよ。早く帰ってきなさい!」
「いやだ」
「ムカつく!アナタから出ていくなんて、絶対に許さないからね!私が出ていくならいいけどさ」
(勝手な言い分だな)
「戻っていいって、ホント?」
「当たり前じゃん」
「でも、ちょっと考えたいことが…」
「考えるって何よ。あなたは私の言うことを聞いていればいいのよ!」
「でも……」
「デモもバリケードも無い!はやく荷物を持ってきなさい!」
「俺の車は?」
「後で取りに来ればいいでしょ。このアウディで帰るからね!」
俺はグイっと、輝に引っ張られ、アウディの助手席に押し込められた
この時の腕力はスゴイ……カワイイ顔して……
俺、この車に始めて乗った……車高が低いが、すげえ高級車だ
よくぶつける気になるな
運転を注意するだろ?
バンパーはボコボコ……板金でなくて交換だ……いくら費用が掛かるか?わからん
「工藤くん、コイツ(一輝)の荷物をその部屋から投げて!」
工藤は俺の荷物を窓から放り投げた。
彼女は車に乗り込み、ハンドルを握った。
車は学生寮を出て、国道を北上し、中之島見附インターから夜の高速道に入った
輝と俺はそれまで無言だった
最初に口を開いたのは、俺だった
「どうして俺の居場所が分かった?」
「あなたの考えることなんて、すぐにわかるわよ」
「俺の行動、読まれてない?」
「気のせいよ、単純だからすぐにわかる」
「もしかして、妹から聞いた?」
「‥‥そうよ」
「あいつ‥‥変なんだよ。いろんなことが筒抜けで」
「沙希ちゃん、相当頭がいいからね。あなたよりも。工藤君の課題を代わりにやっているんでしょ」
「やっぱり、沙希のしわざか」
「そんなことなんでどうでもいい。あなたに大事な話をしなければならないの。ちょうどいい機会だわ」
輝はハンドルを握って、前を見たまま言った。
「なに、大事な話って」
「『とっても』大事な話よ」
「とっても、って?」
「授かったのよ」
「え、授かったって……まさか?」
「お腹に赤ちゃんがいるの」
「なにぃぃぃ、ホントか!」
「竹山病院に先日診察に行って聞いてきた。『堕ろせ』なんて言わせないわよ。私、教会でボランティアで演奏をしていたでしょ。洗礼を受けて、これからカトリック教徒になる。あなたと一緒にこの子を育てるから」
俺は驚きより、赤ちゃんが出来たことを聞いて目から涙がこぼれ落ちた……
俺、まだ18歳だよ。高専4年生、大学なら1年生
この俺、父親になるのか?
実感が湧かない、これは喜びの涙だ
どうして泣くんだろう
言葉が出ない
高速道路を走る車が涙で滲んで見えた
輝の目にも涙が光っていた
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