2.冒険者の憧れ、LIVE配信

アバドンの三階層でゴブリン達に襲われていたリズを助けだし、僕達二人は床に座って少し話しをした。


僕とリズのいるアバドンは、この世界でも最大級のダンジョンと言われていて、独立都市テンプレスの中央にある。


独立都市テンプレスの周囲には『インクルタの森』という、魔獣が闊歩する未開の森が広がっていて、その森の外側には三つの国があり、つまり独立都市テンプレスは三国の緩衝地帯の中心にあるんだ。


僕のようにアバドンに潜る冒険者達は、通称「ホール」と呼ばれる冒険者ギルドに所属している。

   

そして『インクルタの森』で魔獣を狩る冒険者達は、通称「フロント」と呼ばれる冒険者ギルドに所属していた。


どうして両ギルドがそういう風に呼ばれているのか、由来については僕は知らない。


リズは最近になって「フロント」から「ホール」に移籍してきた冒険者だった。


少し顔を俯かせて、リズは泣きそうな表情で僕に訴える。



「パーティを組みたくて、冒険者ギルドで色々な冒険者に声をかけたんですけど、誰も相手にしてくれないんです」



どこかでリズのことを見たような気がしていたけど、アバドンに潜る前に冒険者ギルドに寄った時、冒険者達が彼女を遠巻きに見ているのを、僕もチラっと見ていたからだ。


その時はどうして可愛い少女なのに、誰も声をかけないのか不思議に思っていたけど、リズの話しを聞いて納得した。



アバドンに潜る「ホール」の上位冒険者達は、常に戦いがLIVE配信されているため、ダンジョン都市インクルタ の内外でも人気が非常に高い。


そのため「ホール」の冒険者達は、「フロント」の冒険者達を見下してバカにする傾向にある。



同じ冒険者なのだから、どちらが上ということはないと思うんだけどね。


とにかく「ホール」と「フロント」の冒険者は互いの仲は非常に悪いんだ。


だから「フロント」から移籍してきたリズを、「ホール」の冒険者達は誰も相手にしなかったんだろうな。



リズは目をキラキラさせて、嬉しそうに僕を見る。



「ノアさん、今後とも私と仲よくしてください」


「それはいいけど……僕のこと何にも知らないよね……」


「チキンのノアさんですよね。ギルドの担当者から噂を聞きました。二年間も毎日のようにアバドンに潜っていて、三階層より下に潜らない冒険者だって」



面と向かってチキンと言われると、ちょっと傷つくな……


誰だよ、勝手に僕の噂を広めてるのは……まあ、事実だから仕方ないけどさ。



そんな僕の気持ちを知らずに、リズは胸の前で両拳を握ってニコニコと微笑む。



「でも二年間も毎日潜って、冒険者を続けていくのって、すごいことだと私は思うんです」


「いや……それは浅い階層にしか潜っていないからで……」


「ということは浅い階層のエキスパートですよね」



そんなエキスパートだなんて……他の冒険者に褒められたのは初めてだ……ちょっと気恥ずかしいかも……



僕は頬を指でかいて、ポツリと「ありがとう」と呟いた。


リズはササッと歩いてきて僕の目の前で両手を握る。



「ぜひ、私とパーティを組んでいただけないでしょうか」


「僕でよければ組んでもいいけど……」



リズのような可愛い女の子に一緒に行動しようと言われて断れるはずもない。


僕とリズは話し合い、彼女がアバドンに慣れるまで、試しに臨時のパーティを組むことになった。


リズが危険な目に遭ったことから、今日のダンジョン探索は終わりにして、僕達二人はゴブリン、コボルト、ファングウルフなどの低ランクの魔獣を討伐しながら、一階層へと向かった。



討伐した魔獣は光の粒子になって消えるけど、魔石とドロップ品が残る。


それらの品々は、僕達のような冒険者にとっては飯の種、貨幣と交換することができるのだ。



ほとんどの魔獣は出遭った瞬間に、僕の『狂戦士』のスキルが発動して瞬殺したわけだけど。


まだ生き残っていた魔獣へ、リズが魔法を放って援護してくれた。



何度か『狂戦士』のスキルが暴発してリズへ剣を向けてしまったけど、なんとか寸前で剣を止めることができた。


そんな危なっかしい僕の行動を見ても、リズは「ノアは私を傷つけたりしないと信じてます」と言って全く動じた様子もない。


どこからそんな根拠のない自信が湧いてくるのかわからないけど、僕を信用してくれている彼女を傷つけるわけにはいかない。



順調に魔獣を屠って、魔石とドロップ品を回収しながら一階層までいくと、魔法陣の描かれた大きなゲートがあり、そのゲートを潜って僕達二人は地上に出た。


地上のゲートは大きな神殿のほぼ中央にあって、その周囲にある柱には魔導モニターが設置されている。


この神殿のことを、冒険者達はアバドン神殿と呼んでいた。


その魔導モニターからは、アバドンの深層へ潜っている上位冒険者達の戦いの映像が、リアルタイムに映し出されているんだ。



その上位冒険者の戦いを観ようと、多くの人々が魔導モニターの周りに集まっていた。


この魔導モニターでのLIVE配信は、ダンジョン都市テンプレスの住人達の娯楽になっていて、多くの国々にも配信されている。



だからアバドンの深層に潜る上位冒険者達には、大商会などの多くのスポンサーがついているだよね。


いつか深層に潜って大活躍してLIVE配信に映ってみたい、それはアバドンに潜る冒険者達の共通の夢なんだ。



僕とリズが魔導モニターの近くを通ると、観戦していた冒険者達が、僕達を見てボソボソと噂する声が聞こえてきた。



「おい、チキンが女と一緒に歩いてるぜ」


「あの女って「フロント」から移ってきた奴だろ。誰にも相手にされないからチキンと組んだのか。お似合いのコンビだぜ」



僕は臆病者として冒険者達に知られいるから仕方ないけど、リズが色々と言われるのは可哀そうだな。


僕が一緒にいることで目立ってしまって彼女に申し訳ないと思っていると、隣を歩くリズがニッコリと微笑む。


「私は気にしません。いつかきっと、LIVE配信に映るような冒険者に二人でなりましょう」



せっかくリズとパーティを組んだのだから、彼女に恥をかかせるわけにはいかない。


早く立派な冒険者になって、他の冒険者達を見返してやらないとな。

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