番外編 横光利一賞受賞作
『俘虜記』より「捉まるまで」 大岡昇平 1948年 第1回横光利一賞
この一連のエッセイのうち、番外編として、横光利一賞を取り上げようと思う。芥川賞は現在日本文学振興会(実質文藝春秋)が運営している賞に対し、横光利一賞は第1回の前年に亡くなった横光利一を記念して、改造社が実施した賞である。賞の性質は芥川賞のそれと殆ど同じである。芥川賞復活を機に、僅か2回で終了してしまったが、収穫は大きかった。
横光利一は日本にノーベル文学賞を初めて齎した川端康成の長年の親友であり、同じ「新感覚派」の代表的存在として、日本文学に大きく貢献している人物だ。また、芥川賞選考委員として、第1回から20回まで務めた人物でもある。
さて、受賞作を見てみよう。第1回は現代でも稀有な戦争文学として名作とされる短編がいきなり受賞してしまった。その題は「俘虜記」である。しかし、現代では「俘虜記」という題は、その第1編である「
「捉まるまで」は主人公たる「私」がアメリカ軍に捕らえられるまでの経緯を描いている。昭和19年8月以来、「私」は日本兵として、フィリピンのミンドロ島西南端に位置するサンホセに駐屯していた。しかし、同年12月15日になると、米軍がサンホセを上陸してきた。当初は食糧には困らなかったが、マラリアが隊員内で流行し、仲間が次々と倒れていく。Sと共に脱出を計画したところで、遂に「私」もマラリアに感染してしまう。多くの隊員がサンホセを退避するのだが、他3人と共に「私」は残留する。しかし、残った「私」たち4人は、米軍に遭遇してしまい……
これは極限状態に陥った男の揺らぐ想いを描いた作品だ。主人公はもはや国のお勤めを放棄し、どうにか生きる術を探ろうとする。これまでの戦争文学の多くは国家との信頼関係を築いていた人々の絶望的日常と敗北を描いてきたが、「捉まるまで」はそれすらを超克してしまい、普遍的な人間心理を把捉している。
大岡昇平は、当初「捉まるまで」にも名前が登場するスタンダールなどのフランス文学の翻訳や評論から始める。それから戦中戦後の暗い現実を目の当たりにし、そこから他に『野火』『レイテ戦記』といった思想的・観念的な小説を次々と発表、三島由紀夫、安部公房らと共に第二次戦後派として、日本文学を牽引する。
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