理由あって俺、イカだけど異種族たちの争うVRMMOで成り上がる!

小林蒼

プロローグ

 とん、とん、とん――――。

 誰かの膝の上で眠っていたようだ。目を覚ますと、懐かしい面影を残す人がそこにいた。


 ――――かつて銀河を統べる種族がいた。その種族は大きく、気高く、何より賢かった。彼らは銀河を旅して永遠の時を過ごした。彼らの名は今はまだ明かすことができない。


「そなたらは知っているか?」


 ある呼び声がした。その声は優しい女の声だった。女は私たちに告げる。


「そなたらは目覚めた……」


 遠い、かつて母の子宮で聞いたであろう、最初の一声だ。遠く、あまりに遠い過去ゆえに忘れてしまっているだけだ。その声は過去に取り残されてしまっただけだ。


 声は遥か遠い過去に皆が聞いた声だ。同じ声を同じ人から聞いたのだ。知性を目覚めさせる声だ――――。



 私たちが住んでいるのは異世界と宇宙の狭間である。解釈によれば異世界であると言っていいだろう。

 ダークエルフが森を守り、ゴブリンがデータとなって仮想現実に住まう不思議な土地だ。百を超える異種族がパトロン・レースなる知性を持った賢い生物によって統べられている。彼らにとって何が本当で何が偽りなのか、それはわからない。

 

 ただひとつ言えることはこうしてそなたらを見つけて、この物語を話していることに他ならない。私たちがこれから話す、馬鹿馬鹿しいお話をゆっくりと聞いてほしい。


 ――――かつて銀河を統べる勇者がいた。その種族は小さく、勇猛果敢ゆうもうかかんで仲間を思う者たちだった。

 これは彼らの到来を待つための物語だ。私は彼らを今では誇らしく思っている。十億年以上の長きにわたる、うたた寝のあいだに彼らは遠くへ行ってしまった。私は彼らにふたたび会いたいと願っているが、それも叶わないだろう。彼らを懐かしく思う。

 

 彼らは仲間を愛した。彼らは主人を信じた。彼らは彼ら自身を最終的には裏切らなかった。

 私の罪は彼らを信じなかったことだ。その時の私は私の道を信じていたのだから。


「そなたらは意思を持って読み進める、そうして読んだ暁には何かを得る――――。」


 私の失敗と彼らの成功を、包み隠さずにお話ししよう――――。

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