page.25 『文化祭準備』①
「というわけで、文化祭に向けてクラス展示について話していきます。やりたい出し物があれば言ってください」
「はい!」
「どうぞ」
「定番に喫茶店をやりたいです!」
「なるほど! ではコンセプトをどうぞ!」
「メイド喫茶!」
「アニマル喫茶!」
「コスプレ!」
第一回目の企画会議が終わった翌週、文化祭に向けて本格的に準備を始めることになった。
案の定と言うべきか、クラスの男子から上がるのは喫茶店をやりたいというものだった。
おそらくその大半は神咲さんメイド姿、及びクラスの女子たちのメイド姿を拝みたいとかいう下衆な考え方なのだろう。
その証拠としてちょろちょろと神咲さんに視線を送っている。
当の神咲さんは――まぁ、不機嫌そうに眉を寄せてお気に召しませんという雰囲気を出していた。
進行は俺に任せると言われたのもあって快く引き受けたのはいいものの、下手したら後で何言われるか分からないなこれは……
まぁ今は真が隣でなだめてるから大丈夫だろう。
「男子は喫茶店をやりたいと言ってますが、女子は何かやりたいものありますか?」
「んー喫茶店とかでもいいんじゃないかな? 定番っていうのもあるけど、ほらメイド服とか執事って言うの? そういう服を着られるのって滅多にないし」
「私も、メイド服とか着て写真撮ってみたいし」
クラスのムードメーカー2人である水瀬さんと空野さんが口々に提案すると、クラスの女子たち(神咲さんと真を除く)は頷いて異論はなしといった様子だった。
「じゃあ2組は喫茶店を出し物にするという形で進めていく、でいいですか?」
クラスメイト全員が頷いたのを確認してから神咲さんに視線を送ると神咲さんも堪忍したのか呆れた様子で目を逸らした。
おそらく好きにしていいという意味だろう。
まったくツンデレお姫様は大変でございますな。
――放課後、俺と神咲さん、そこに付き添いの真は教室で今日のホームルームの時間に出た案をまとめていた。
「予想通りというかなんというか……」
「まぁしょうがないな。クラスの総意だし、何より女子たちが同意したのが大きいと思う」
「さっき水瀬さんと空野さんからせがまれたよ。私と神咲さんに協力してほしいってね」
「相変わらずなことで……でも神咲さんが頷いたのは驚きだな」
「別にやりたいとかそういうのは無いわよ。メイド服とか着たいとも思わないし、それに着たら着たで男子からの視線がめんどうくさくなるし」
美人には美人の悩みがあるということだろう。
文化祭あるあるの1つだとも思う。
「それで、喫茶店やるのはいいけど衣装とかはどうする気なの?」
「例年通りなら手芸部とかコスプレ同好会の2組が衣装とかを提供してくれるみたいだから問題ないと思う」
「十分大ありよ。先週如月先輩が話していたことを踏まえれば喫茶店をやりたいと申し出るクラスは少なくない。なら衣装の作成にも時間を有することになるのは分かるでしょう?」
「確かに……私たちのクラスは満場一致にコンセプトも決まってるから申請しても通る可能性もあるってことだね?」
「そういうこと。たとえ申請が通ったとしても手芸部もコスプレ同好会のメンバーたちも部活や同好会の展示に参加するのだからなおさらね」
神咲さんと真の話を聞いて思ったのは、手芸部はともかくコスプレ同好会のメンバーは俺の知っている限り大人数とは言いづらい。
というのも、征華学園の部活設立基準には部員数10名以上、もしくは高学年4名以上の参加が必要となる。
基準に達していない場合は部としてではなく、同好会としての活動が認められている。
コスプレ同好会のメンバーは今のところ2年生が3名、1年生が4名であり、基準を満たしていないことになる。
つまりは文化祭でコスプレをしたいと申し出るクラスは例年多数になると従姉さんから聞いたことがある。
圧倒的人手不足。
2年は同好会展示の準備で忙しく、1年4名では大変なことも考えられてしまう。
「ジリ貧か……」
「まずはそっち方面を何とかしないと厳しいかもね……」
「とりあえずは申請してみたらいいんじゃない? 手芸部には私の方から取り合ってみる。申請が通りそうなら直ぐに作ってもらえるようにね」
「ありがとう。じゃあとりあえずは佐倉先輩に申請しに行こう。話はそのあとだ」
ここでうだうだ考えていても仕方がない。
できることから進めていけばいいと思い、生徒会室に向かったのだが――
「え、難しい!?」
「すまない……今年は思ったよりも喫茶店をやりたいという申し出が多くてな……君たちのクラスはコンセプトも仕事内容まで明確だから悩まず許可書を制作できるはずだ」
「やっぱ人手不足ですか?」
「そうだね。特に手芸部は人手が異常なまでに足りていないらしい」
「え、手芸部って40人近く居ますよね?」
「その内の3分の1がクラスの方に人員を割いてしまうのもあってな……」
思った以上にまずいことになった。
手芸部が人手不足になっているなんて初耳だ。これだと間に合わなくなることになる。
手芸部の3分の1がクラスに回っているということは元からクラスでやることを決めており、その政策にいち早く取り掛かっていたということだろう。
「なにか方法はないんですか? ほら、他校から応援を呼ぶとか……」
「そうしたいのは山々なんだけどね……何せうちの学園は他校よりも広い。それにそれだけの権限を動かすのは……」
「そんな……」
文化祭運営の第1責任者は佐倉先輩だ。
先生は佐倉先輩の計画に訂正を加えた上で全てを任せている。
たとえ佐倉先輩が駆け寄ったとしてもうちの文化祭に手を貸してくれるだけの人員を集められる保証はない。
「あの、方法がないと言っていますけど、理事長であれば可能なのでは?」
「あ、そうか! 佐倉薫理事長先生は顔も広いし行けるんじゃ!」
「そう簡単に行かないのが現実だよ真ちゃん」
「あ、如月先輩!」
「どういうことですか?」
「たとえ薫理事長先生が声をかけても全てをカバーできるほどの人員は呼べない。それに全ての高校に手芸部があるとは限らないからね」
俺を除いた4人が頭を悩ましてる後ろで俺は1人解決策を見出し始めていた。
ただ、それが可能かどうか――
「何ひとりで難しい顔してるんだ? 女子たちだけのところにははいずらいってか」
「うぉっ!?」
「え、柊くん!?」
「どーも」
柊って……あ、風紀委員委員長の人か!
え、でもこの人普段生徒会室に顔を出さないんじゃ……
「この子が解決策見出したみたいだよ……聞いてやればぁ……」
「白雲くん、解決策って何かな?」
「……全てが丸く収まるかどうかは賭けですけど、確か今の時期に文化祭を開催するって学校多いですよね?」
「そうだね。この辺りの地域だと最大でも5校はあると思うよ」
「その5校を含めた合同文化祭をするって言うのはどうでしょうか」
「合同!? それって5校同時開催みたいにするってこと?」
「はい。それぞれの学校にもうちから人員を割くことは出来ます。それに運動部の大半は、今回の文化祭では来年度以降の生徒に対しての宣伝が主な目的になっているはずです」
「そっか! 運動部の人達に力仕事を任せることが出来れば、他校で手芸をしたいと思っている人をこっちに呼ぶことができるってことだね」
「そういうこと。征華学園は他校と違ってとにかく広いのが売りです。つまりは生徒の人数も極て多い。つまりは男子生徒の数を他校に引っ張り出せば難関問題をクリアできます」
「確かに……それなら佐倉理事長先生にも力を借りられる」
「けど後輩くん、合同開催するにしてもどうやって他校の文化祭を引き合いに出すのか計画性はあるのかい? ただ単にうちの文化祭に協力してほしいというのであれば生徒会としては却下せずにはいられないけど」
「そうね、今白雲くんの言った内容だと不備な点も多い。それに他の高校も文化祭の準備で忙しい中でどうやって協力を得るのか、決まっているの?」
「えぇまぁあらかた決まってますよ」
おそらく生徒会の懸念している点は他校の協力を得られる可能性もある反面、征華学園の文化祭に力を貸したことで自分たちの文化祭の観覧者が減ってしまわないのかといったところだろう。
いくら可能性が高いと言ってもそれが必ずしも解決策とは限らないと言いたいのだろう。
だからこその賭けである。
協力を仰ぎつつお互いがウィンウィンの結果を得られる賭け――
「――という形で開催できれば他校の生徒と一般の人たちも呼ぶことが出来る」
「なるほど……突発的な案としては難しさを感じないね」
「さすがに必ずうまくいくかどうかと聞かれればまず6割はハズレになる可能性の方が高いです。残りの4割を引き当てないと今年の文化祭を成功させるのは無理かと」
「分かった。私の方でも検討してみるよ。あとは理事長先生と話して進めてみる」
「ありがとうございます。僕もできる限りの事はしますね」
「いや、君はこの案の提案者だから力を貸してもらわないと困る。だからこれに限っては白雲くんを中心に審議していく形にしていくよ」
「わかりました……真――」
「はいはい、言わずもがなってやつですよ~クラスのほう任せた、でしょ?」
「さすが、察しがいいようで」
「じゃあこの件はいったん終了ということで、三人ともありがとうね」
先輩方に頭を下げてから俺たちは生徒会室を後にした。
「まさかそんな状況に陥ってたとはね~」
「まぁ無理もないよな。聞いた噂だと去年は如月先輩と佐倉先輩の二人のメイド、じゃなくて執事姿がカッコよすぎて大変なことになったそうだし」
「たしかに二人ともスタイルいいからね~」
それが原因だろうなとか思っていると、先ほどから全く口を開いていなかった神咲さんが口を開いた。
「ねぇ、白雲くん」
「どうしたの?」
「さっきの、あれ本気なの?」
「それって五校同時開催の件?」
黙ってうなずく神咲さんに真は不安そうでいて何かを察した表情をしている。
「問題ないとは言い切れないよ。それ以前に文化祭の五校同時開催なんて前例がないからね。だからこその賭けなんだよ」
「前例がないことをするってあなたバカじゃないの!?」
「あはは、確かにそうかもね。でも間違った判断をしたとは思ってないよ。だってあの柊先輩がいるんだもの」
「え? あの先輩が?」
俺には切り札が無いこともない。
あの柊蒼先輩が協力してくれればこの賭けの勝率も格段に上がる。
さて、ディベート開始だ――
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