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夏休み明け、久しぶりの通学用電車、夏の蒸し暑さも残しつつ程よい冷房の効いた電車の中は通学の時間で一番好きだ。
高校生になって初めての夏だったが、さほど嫌な思い出はなかった。学園のマドンナこと神咲さんと夏休みの7割を共に過ごしていたといってもいいだろう。
真と父さんたちの事もあったけど、それはそれとしてこれからゆっくり考えて行けばいいだろう。
それより、今一番気になるのは――
(いや、この人はほんとに何で俺の隣に毎回座るの??)
夏休み明け、またしても神咲さんの座る座席の位置は俺の隣。
しかもいつもと同じく他にも空いている席はある。
それでもなお俺の隣に座る理由は何なのだろうか。神咲さんとは友達(?)として関係を持ってもらっているようだから一種の信頼は置かれているのだろう。
それでも俺の隣に座るのだけはやめてほしい。
朝から心臓がバクバクとドラムを打って今にも破裂しそうなのだ。
夏休み中は横顔を見る機会が少なかったのもあって久しく見ることはなかったのだが、神咲さんは無駄に横顔がキレイだ。
あ、いい意味でね。
「あ、あのぉ……」
「なに? 今本読んでいるのだけれど」
「神咲さん俺の隣に座る理由って何かある……のでしょうか?」
「……他の席は同じ学校の生徒、それも男子が異様に多い。あなたも知っている通り私はほとんどの男子の事を信頼していないの」
世の中にいる男子の半数が涙目になる発言だ。
「つまりは僕は信頼に足る人と?」
「……」
(え、何で急に黙るの!? 怖いて)
黙ったままこちらを睨んでいるのか目を細めてじっと見てくる神咲さんに肩を竦めたところ、てちっと二の腕を叩かれた。
力を入れていなかったのか柔らかく叩かれたため、さほど痛くなかった。
「えっと……」
「……」
「なんかごめん?」
「悪い……? あなたを信頼したら……」
いや問題ないです!
「信頼してくれてるならうれしいよ……?」
「そう。なら良かった」
神咲さんの容姿はどうしても人目を惹いてしまう。
他校の男子からも噂を聞いてわざわざウチの学校に足を運んでくるほどだ。
その人気は計り知れない。
神咲さんはそういった輩を好まないと真からも聞いたことが何度かある。
神咲さんが男子及び男性に信頼を置いていないのもそこから来ているのだろう。
【言わせないでよ……バカ……】
この人平気でこういうこと言うからぁぁぁぁ!!!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おっはよーかける~どしたのそんな疲れ切った顔して」
「朝から廃カロリーだった……」
「朝電車だったんでしょ? 運動とかしてないし、なに廃カロリーって」
「隣に美女がいて一時間近く耐えられるかい君は」
「んー無理だね」
「だしょだしょ? 横顔バッチグーの美少女が隣にいるだけで精神と心臓がもたんぞよ」
「ついでに理性もね」
「それはないのでご安心を」
「嘘はよくないぞ少年」
「1割しかねえよ。というかあの人そういう事嫌いなタイプでしょ絶対」
「意外とそうでもないかもよ? たまに女子とかがそういう話してても呆れたりとかしてないし、それに笑ってわないけど……ちゃんと聞いてるし」
「笑ってないのって大体怒ってるか呆れているかのどっちかじゃないの?」
「さぁ? あっしにゃわからん」
そういってひらひらと手を振りながら自分の席に荷物を置きに行った真を見送りつつ俺は神咲さんの事を考えていた。
神咲さんのあの性格からして男性との交友関係はほぼないと言っていい。つまりはそういった知識を得ることは保険の授業以外ではまずない。
ということは必然的に神咲さんが女子たちの話を聞いて無反応だったのは、友達との会話には極力参加して、聞き専という聞くことに専念したポジションにいることもしばしばあるということだ。
ってなると呆れとか怒っているわけではなくて、女子でもそういった会話するんだなという友達目線での反応だろう。
実際に神咲さんがそういった知識に詳しかったとして、クラスメイトである異性の家に上がり込んで何も意識などをすることなく勉強なんてしないだろう。
興味がないわけでもなくあくまで友達が話しているから聞いておこうといった感じだと俺は予想したが――
「どうだろうか幼なじみさんや」
「いつから気づいてたんだよこのエスパーめ」
割と最初から。肩に手を置いて顔を覗き込もうを奮闘している辺りから気づいてましたよというのは置いて置いて――
「まあ、今かけるの言った通りで合ってると思うよ。神咲さんならそういう話は興味を示さなさそうだし」
「まぁそうだろうな。というか真はいつの間に神咲さんと仲良くなったんだ?」
「んー明確にいつって聞かれると曖昧だけど、初めて話したのは入学したてのころだね」
「めっちゃ前じゃん」
「友達作りみたいなことしてて、最後の一人が難攻不落の鉄壁要塞みたいな人だっから」
「人を要塞に例えんな」
「人を神としてあがめる奴に言われたかないな」
「あれは二次元だから許されるのだ!」
「うっさいゲームオタク」
たまに出てくる口悪幼馴染。
いや、もう幼馴染じゃないんだけどさぁ少しはしんらつ具合何とかしてほしいところではある。
「でね、初めは友達になるの断られたんだけど、そのあと猛アタックしてたらあの演劇で仲良くなれたって感じ」
「お前はほんとに周りに恵まれてるな」
「何せ真、ですので」
義母さんから聞いたことがあるのだが、真の名前を付ける時に初めは『誠』にしようとしていたらしいが、男勝りな性格になってほしくなくて、誰とでも笑って自分を偽らずに真実、ありのままの自分でいてほしい。そして、輪を広げて恵まれて、どんな時でも誰からも支えてもらえる大人になってほしいという願いを込めて『真』にしたのだとか。
確かにいつもの真は弱音を吐かずにニコニコでだれとでも気さくに話して、例えそれがコミュ障と呼ばれる教室の隅っこで本を読んでいる人だとしても、自分から話題を広げに行こうとしに行っている。
もちろんそれですべてが丸く収まっているのかと聞かれればそんなことはない。
一定の女子からは真の正確さ故に自分の気になる人が真を好きにならないのか心配で仕方がないらしく、ある時は不安になった子が真を問い詰めていた時もあった。
その度に真は――
『私は誰とも付き合う気ないよ~チャンスは平等にあるべきだからね』
という女子なら惚れてしまいような大そうな名言を投下している。
実際に真の言葉を聞いて勇気をもらい、イメチェンをして告白して成功した少なくないのだとか。
真のタイプは俺みたいな人らしいので「一生現れそうにないねー」などと陽気な事をたびたび言ってくる。
真と神咲さんが友達として関係を続けて行ってくれるのであれば、俺としてはよかったと思う。
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