第256話 つまり妖異がぜんぶ悪い!
魔女ヴィドゴニアとなったセリアが、シュモネーの著作と出会うことによって、これまでどれだけ救われてきたか。すっかりとシュモネーに気を許してしまったセリアは、長年離れていた友人にすべてを語るように、その心の洗いざらいをぶちまけるのでした。
その間、シュモネーはセリアの手をとったまま、彼女の言葉に深く耳を傾けていました。そのうちにセリアだけでなくフィオナまでも、シュモネーセラピーに参加していたのでした。
「……そうですか。セリアさんもフィオナさんも、大変な困難を乗り越えられていらっしゃったのですね」
そういってニッコリとまるで聖女のように暖かい微笑で二人を包むシュモネー。二人の視界ではゴーグルに映ったフワーデが、セリアとフィオナの悲壮なこれまでの物語に涙しています。
ここで終わっていれば、単に普通にいい話でした。
が、二人の話が終わった瞬間、シュモネーの瞳に鋭い光が走り、目がスッと細められました。静かな口調でシュモネーが二人に問いかけます。
「ところでお二人とも、その苦しみの根本的な原因が何かお分かりですか?」
「えっ……と、人間だった私を殺した侯爵?」※セリア
「私を殺した領主の息子と仲間……」※フィオナ
「それはその通りなのですが、あくまで彼らは切っ掛けに過ぎません。つまり悪いのは妖異なのです」
「つ、つまり!?」
「妖異?」
「そうです! すべて妖異が全部悪いのです!」
このときシュモネーの目が完全に
「たとえば今の王国で大きな問題となっている闇クエスト。怪しい連中の怪しい仕事に手を出して、そのまま凶悪犯罪に手を染めるの若者たちが多くなっています。もちろん最悪に間違った決断をした本人の責任です。しかし、そういう人々が溢れるということは、個人を処断すれば解決するというわけではありません」
「は、はぁ……」
「そ、そうですね」
「貧しいものを捨て駒にして稼ごうとする輩。その輩から利益を得て肥え太る貴族や大商人。権力を使って自らの悪事をもみ消す領主たち。そうした悪しき構造を打ち壊すどころか、目を瞑る権力者たちがいる限り事態は悪化していくだけなのです!」
そう言ってシュモネーは胸元で握りしめた拳を震わせました。そのまま真っ直ぐに天井を見上げるシュモネーの力強い言葉に、二人は思わず心を惹かれてしまうのでした。
「つ、つまり捨て駒にされるような小悪党より、それを利用して儲けようとする悪徳貴族や商人たちが悪いということですね」
「そうした者をのさばらせている王国が一番悪いと?」
二人の問いに対して、シュモネーが静かに首を振りました。
「その通りではあるのですが、まだ浅いです」
「浅い!?」
「どういうことですか!?」
シュモネーは二人の手を優しく握ると静かに言葉を続けました。
「最初に言ったではありませんか。人々を苦しめる悪の根本、それは……」
ハッと気づいた二人が同時に同じ言葉をハモります。
「「妖異!」」
「その通りです! よくできましたね!」
ワーイ! 正解だー! キャッキャッウフフ!
と、笑ってお互いを褒め合う二人。そんな二人を眩しそうに見つめながら、シュモネーは話を続けました。
「つまり、この世の悪という悪はすべて妖異が原因なのです! セイジュー神聖帝国の皇帝も妖異がいなければ、この大陸全土に戦火をもたらすようなことはなかったでしょう。あの戦争がなければ、戦で家族を失い家や仕事を失って路頭に迷う人々は生まれなかったでしょう。それもこれもすべて妖異が悪いのです!」
「「悪いのは妖異!」」
シュモネーの熱い演説にシュプレヒコールで答える二人。
「そうです! あの空に現れた裂け目も妖異のせいです! 夫が討伐クエストばかりでなかなか家に帰ってこないのも妖異のせい! そのストレスで甘味処イリアのタワーパフェにハマり過ぎて少し……ほんのちょっとだけですけど服がキツクなってしまったのも妖異のせい! なにもか妖異のせいです!」
「「悪いのは妖異!」」
「その通りです! お二人はなかなか見どころがありますね。冒険者としてのスキルも相当お高いようですし……。これは即戦力になるのではないでしょうか」
シュモネーの言葉に応えたのは、フィオナの視界に映る銀髪緑眼の少女フワーデでした。
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