第195話 Gカップと忠義は比例する!?
「というわけで、キモヲタ男爵様! 俺を雇ってくれ!」
キモヲタの天幕の中、キモヲタたちが見守るなかでシモンが見事なハイパー土下座を決めました。
「なっ! 1メートル飛び上がり空中からの、足先着地で勢いを殺して膝にダメージを与えることなくの土下座移行! なんという運動能力! このような見事なハイパー土下座は初めてみたでござる!」
キモヲタだけが熱く語る中、キーラやラミアたちは冷めた目で見ていました。
「兵士さん、そんな急にお仕事辞めちゃって大丈夫なの? 地下水道から帰るとき、もうすぐ結婚するって言ってなかった?」
「ギクッ!」
心配そうに話すキーラの声に反応して、土下座しているシモンの身体がブルッと震えました。
エレノーラ(紫髪青眼黒体。Fカップ)がそこに追撃を加えます。
「まさか、キモヲタ様に雇ってもらうことを前提に辞めてきたりしたわけじゃないですよね?」
「ギクッ!」
そしてラモーネ(黒髪青眼黒体。Fカップ)が止めを刺しました。
「ご存じないかもしれませんが、キモヲタ殿は男爵と言っても名誉男爵。つまり名目だけの爵位でしかありません。人を簡単に雇用できるほどの余裕もありませんよ」
「えっ!? 男爵は北西区復興に物凄い資金を提供してるって聞いてましたが……」
「それはキモヲタ資金のことですね。それは財団が運用しているものであって、そこにキモヲタ殿個人が好きにできるお金は、銅貨1枚もありません」
へっ!? という呆けた表情をキモヲタに向けるシモン。
「ラモーネ殿の言う通りでござる。というわけで、今の我輩は、冒険者稼業で喰ってるようなものでござるな。ときおりエレナ殿がお小遣いをくれるではござるが、今のところ誰かを雇うなんてお金は持っておらんのでござるよ」
実のところ、ときおりエレナから受け取る小遣いは、金貨数十枚だったりするのですが、その全ては北西区の人たちにバラ撒いているキモヲタ。
具体的には、ラミア女子に提供する食材費だったり、教会で保護されている子どもや身寄りを失った人々への生活補助だったり、居酒屋で客にエールを振る舞ったりに使っていました。
より正確に言うとエレナからのお小遣いは、皆からチヤホヤしてもらえるのが嬉しくて調子に乗って散財しているキモヲタ。が、その費用を銅貨1枚たりともシモンのために削るつもりはないのでした。
「そ、そんな……」
絶望に打ちひしがれるシモン。あらためて土下座の向きをまっすぐキモヲタに向け直して、額を地面に擦り付けました。
「な、なら旦那の冒険者パーティーに加えてください! これでも剣の腕前には多少自信があります! 前衛としてこき使ってください!」
「と言われましても、我輩たちが受けるクエストは大ネズミ退治くらいでござるし、それも黒スライムがいなくなったら……」
「な、なったら?」
「足ツボマッサージ店(美少女限定)でも開こうかと思ってるでござるよ」
「ちょっとキモヲタ! いま小声で変なこと言ったでしょ! ボクにはちゃんと聞こえてるんだからね!」
そして、キモヲタの余計なひとことのせいで、キーラが完全にシモン側についてしまったのでした。
「いいじゃん! シモンさんを雇ってあげようよ! クエストだって他のやつを受ければいいじゃん! これからどんどん忙しくなるんだから、シモンさんに手伝ってもらいたいことなんていくらでもあるでしょ!?」
「と、とは言え、先立つものがないとですな……」
キモヲタがブツブツ言い始めたそのとき、バッ! と音を立てて天幕に入ってくるものがありました。
「雇ってあげればいいんじゃない? 仕事の内容によっては財団の資金から出せないこともないし、なんなら私が雇ってもいいわよ?」
キモヲタたちが振り返ると、天幕の入り口には、胸を張ってGカップをバルンと震わせるエレナと、金髪をポニーテイルに結んだユリアスが立っていました。
キモヲタは、エレナの胸のバルンバルン具合を見て、エレナの変化に気づきました。
「エレナ殿、何か良いことでもあったでござるか?」
「あら、顔に出てた?」
「その胸の弾み具合がいつもより良い感じでござったので……」
キモヲタのキモ発言に、エレノーラとラモーネとキーラがサッと自分の胸を隠しました。
「いやいや、キーラたんの胸ではぶひごぉえっ!?」
お腹に牙が突き刺さって悶絶するキモヲタに、エレナはウィンクしながら答えます。
「キモヲタに儲けさせてもらったお金で、賠償金を全部支払い終えてきたところなのよ。フフッ♪」
ニッコリと微笑むエレナの横で、ユリアスが苦虫を噛んだような顔をしていました。
エレナはアシハブア王国において、詐欺師として指名手配を受けていました。そのアシハブア王国に罰金を含めた賠償金を支払うことで、エレナはその罪を許されたのです。
スッキリとした顔のエレナに対し、その手続きために奔走したユリアスは憔悴しきっていました。
ニコニコ顔のエレナは、キモヲタの腕を取ると、そのGカップをギュッと押しつけて礼を言いました。
「ありがとね、キモヲタ。あなたのおかげで、私は生まれ変わることができたわ。本当よ。それと私を信じてくれてありがと♪」
エレナが詐欺師として指名手配されていることを告白したのは、カザン王国に入る直前のことでした。
彼女の身上に同情はしても、犯罪者として指名手配までされていることにドン引きしていたユリアスたちと違って、キモヲタだけはエレナへの態度を変えることはありませんでした。
さらにその後、キモヲタ財団の基金となる二万枚の金貨の管理を、キモヲタはエレナに任せました。
それはキモヲタが、人として器が大きいからでも懐が深いからでもありません。キモヲタとしては、単に「Gカップに悪人なし」(カップ数は随時変更可)という信念に基づいて行動しているだけなのでした。
それは前世で、推しのVtuverに散々貢いだあげく「イケメン彼氏とできちゃった婚報告」を繰り返し体験してきた末に辿り着いた――
『それでも貴女には素敵な夢を見させてもらいました(合掌)』
という悟りを開いたキモヲタだからこそ、仲間のなかで一番お金の取り扱いに長けたエレナに、なんのためらいもなく資金管理を任せることができたのでした。
このとき、あっけらかんと投げ渡してきたキモヲタの信頼は、エレナの根本を揺るがすほどの衝撃となったのです。
キモヲタたちがエレナと出会って以降、エレナの態度や言動に表面的な違いはありません。
出会った当初、エレナはキモヲタを金儲けのネタとして利用することしか考えていませんでした。
それが今では、本人が自覚しているよりも深い心から、Gカップより遥かに大きい忠誠心をキモヲタに捧げているエレナなのでした。
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