第189話 怒鳴るキモヲタと震えるキーラ

 巨大仮面男(上半身)のなかに投げ込まれたキモヲタ。その体内で【お尻痒くな~る】が発動された直後に、泡立つ怪物の身体からゴロンとこぼれ落ちてきました。


「うげぇえ! 口にきちゃないのが入ったでござる! げほっ! げほっ! ぺっ! ぺっ! うぉえぇええ!」


 黒い粘液まみれのキモヲタが激しくえずきます。


「キモヲタ! 生きてた!」


 黒い粘液まみれのキーラが、キモヲタの首に縋りつきました。


「ちょっ、キーラたん! 普段なら粘液プレイは大歓迎でござるが、妖異の粘液だけは別でござるよ!」


 そういってキーラを引き剥がすと、その顔をキモヲタはしっかりと見つめます。


「そもそもキーラたんこそ、無事でござるか? 怪物がいるのに飛び出していくなど、我輩、心臓が口から飛び出てしまったでござる! 怪物に殺されたらどうするつもりだったでござるか!」


 肩を痛みを感じるほど強く掴まれたキーラは、本気が含まれたキモヲタの怒鳴り声に、思わずビクリと身体を震わせました。


 その身体の震えが胸に移り、そして喉元に移っていきました。キーラは、自分が死んでもおかしくない行動に走っていたことを理解したのです。


「うっ、うっ……うえぇええええん!」


 今になって恐怖がキーラの全身を襲い、その身体がブルブルと震えて止まらなくなりました。


「キモヲタごめんなさいぃぃぃ!」


 キーラの肩から、彼女の身体の震えを感じ取ったキモヲタ。


 ガシッ!


 そのまま力一杯キーラを抱きしめるのでした。


「キーラたんが無事でよかったでござる。怪物には力一杯の【お尻痒くな~る】を仕掛けてやったでござるから、もう何も心配することはござらんよ」


 そう言いながらキモヲタはキーラの背中をポンポンと優しく叩き続けるのでした。


「うん。キモヲタ来てくれた……来てくれてありがとう……」


 そういってキーラもキモヲタにしがみ付くのでした。


「あ、あの……あのさ……」

 

 二人の足元から、兵士が声を上げました。


「感動に浸ってるところ悪いんだけど。そろそろここから運んでもらえると助かるんだが。ほら、あの黒い塊がまだ動いてて何だかヤバイ感じがするんだよ」


 キモヲタとキーラが兵士の声に気づいて、兵士を動かそうと背後に回った、そのとき――


 グワヮァァア!


 表面が泡立っていた巨大仮面男の全身から、数十体の大小様々な仮面の男の上半身が浮き上がってきました。


「うひぃ!」

 

 びっくりして腰を抜かすキモヲタ。慌てるあまり【お尻痒くな~る】を発動することに思いが至りません。


 バシャーッ!


 しかし次の瞬間、仮面の男たちの身体は黒い粘液となって崩れ落ちていきました。立て続けに巨大仮面男の身体も崩れ落ちます。


 ブクブクブク……。

 

 それからしばらく泡立っていた粘液は、徐々に動きが弱くなって、ついには完全に動かなくなってしまいました。


「動かなくなったでござるな」

「し、死んだのかな?」

「死んでてもらいたいぜ」


 キモヲタたちが呆然としていると、突然、キモヲタの視界にメッセージウィンドウが表示されました。


≫ ● 妖異 黒スライムの狩猟に成功しました。 報酬:EON5000ポイント × 1000体

≫ ● 緊急! カザン地下帝国の危機(妖異ドド=スライムの狩猟)を達成しました。 報酬:EON700万ポイント

≫ ● 緊急! カザン地下帝国の危機(妖異 仮面の者の討伐)を達成しました。 報酬:EON3000万ポイント


「何がなんだか分からんでござるが、女神クエストが達成されたようでござる! えっと……ひぃふぅみぃで4200万ぽいんと!? よんせんにひゃくまんぽいんとぉおお!?」


 報酬額に驚愕するキモヲタに、兵士がいぶかしげな眼を向けます。


「お、おい嬢ちゃん、この男大丈夫か?」


「う、うんと……いつもこんな感じだよ?」


 キーラの曖昧な返事に頷く兵士。


「そ、そうか……って、痛ってぇええええええ!」


 生命の危機を脱したことに対する安心感からか、失った足先の痛みに苦悶の声を上げました。


「あっ、そうだ! キモヲタ、この人を助けてあげて!」


 いまさら思い出したかのようにキーラが兵士の足を指差しました。


「おっ、そうでござったな。まずはなにより兵士殿の足を治しましょうぞ」


 そう言ってキモヲタは兵士の足元に腰を下ろします。


「キモヲタ、この人は足が……」


 キーラは兵士の足先が失われていることを口にしそうになって思いとどまりました。そんなキーラにキモヲタはニチャリとした笑顔を向けて頷きます。


「大丈夫。そのことについてはラモーネ殿のときにもう解決済みでござるよ」


 そういうとキモヲタは、兵士の失われる前の足がある辺りに手を持っていきます。そして、ブツブツと何事かをつぶやき始めました。


「師匠曰く、『そこに足裏があると強く思うことができたのなら、そこにあるのでござる!』でござる。『我輩がそこにあると思うなら、そこにあるのでござる。我輩のなかでな!』 ふぉおおお!」


 キモヲタが気合と共に、兵士の足先の何もない空中で親指をグリグリと廻し始めました。


「必殺! エア【足ツボ治癒】でござる!」


「えぇ!? 殺しちゃだめだよ!?」


 キーラがツッコミを入れた瞬間、男の全身が強烈な緑の光で包まれました。


「んほっぉおおおおお♥ いだいだいだぎもぢぃいぃのぉおおお♥」


 たちまち兵士の身体が反応し、全力のアヘ顔ダブルピースで全身がガクガクブルブルと震え出しました。


「ふぉおおお! 感じるでござる! 確かにここに足裏がある! あるでござるよぉおお!」


「らめらめらめらめぇえぇええ♥ 俺おかしくなっちゃうのぉおおお♥」


 南区カスカビエ通りのシモン(27歳)。


 成人するまではケンカに明け暮れ、不良グループ「燃える闘魂」の頭を張っていた男。恩師の遺言によってケンカ稼業からすっかりと足を洗い、カザン王国を守る盾となるべく王国兵に志願し、地元の人々から「あんなやんちゃ坊主が、本当に立派になったもんだねぇ」と涙ながらに喜ばれ、「へっ、そうでもねぇよ」と照れながら答えていたシモン(27歳)


 真面目に勤務し続けて、今では10人の隊を率いることになったシモン。人情に厚く部下想いで、その男っぷりが地元の有力商人に気に入られ、「ぜひうちの娘を嫁に」と紹介された女性が超タイプの美人で、しかもその娘がシモンの男らしさに惚れ込んで、結納の準備まで進んでいるところだったウキウキシモン(27歳)。


 アヘ顔ダブルピースで全身をガクガクブルブルさせつつも、頭の片隅で「今の自分の姿を彼女が見ていないこと」それだけに救いを見出して耐えていたシモン(27歳)なのでした。


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