第82話 エターナルDT!? キーラたん、それだけは言っちゃだめでござる

 カザン王国の国境まで、あと数日というところまでやってきたキモヲタたち。


 街道沿いを進んでいると、時々は馬車や旅人とすれ違ったりすることもあるようになってきました。


「ようやく人間の領域に入ってきたという感じがしてきましたな」


 キモヲタたちが歩いている道の脇には、崩れ落ちた古代の神殿の遺跡がありました。道のあちこちに、柱が倒れています。


 そうした柱の下に焚火の跡を見つけたキモヲタは、今日はこの辺りで野営するのはどうかと言い始めました。


 要するにもう疲れた休みたいというキモヲタの内心を読み取ったセリアが、キモヲタの方を振り返りました。


「こういう神殿の廃墟には、夜中に幽鬼が現れることが多いので、あまりお勧めしませんね。まぁ、どうしてもというならキモヲタだけここで休んでいっても構いませんよ。私たちは、もう少し離れた安全な場所で、待ってますから」


 瞳に青い焔を宿すセリア。


 美しい黒髪の美少女ではあるものの、どこか人間離れした雰囲気を持つ彼女から幽鬼という言葉を聞かされると、キモヲタはそれが冗談に聞こえませんでした。


「あわわわ! そ、そういうことでござるなら、もう少し頑張って歩いてもいいでござるよ」


 慌てるキモヲタ見て、キーラが楽しそうに笑い出します。


「あはは、キモヲタは幽鬼が怖いんだね! こんな日も高いのに!」


 明るいブラウンの髪を揺らながら、犬耳族のキーラがキモヲタの少し前に移動します。そして、キモヲタに向かいながら後ろ歩きを始めました。


「キーラ殿は幽鬼が怖くないのでござるか? それなら最近、夜中のトイレに我輩を起こすのはどういうわけでござる?」


 キモヲタの質問に、キーラは思わず足をもつれさせて転びそうになりました。


「あ、あれは、幽鬼が怖いんじゃなくて……ね、念のため! 念のためだよ!」

 

 キーラは両手を上下にブンブンと振りながら必死で言い訳を始めました。


「まぁ、我輩としてはキーラタンが大地を潤す心地よい音が聞けるので、いくらでもお付き合いする所存。今後も気にせずに起こしてもらって構わんのでござる」


「えっ!? キモヲタ、ちゃんと耳塞いでるって言ってたじゃん! なんで聞こえてるのさ、この変態!」


「もちろん耳は塞いでいるでござるよ。しかし、聞こえてないとは一言も言ってないでござるよ。そもそも聞こえないくらい耳を塞いでいたら、キーラタンの『ねぇねぇ、キモヲタ! ちゃんとそこに居る? ほんとに居る?』に返事できるわけがござらんでしょうに」


「わぁああー----! キモヲタのバカ! 変態! エターナルDT!」


 キーラの最後の一言に、大ダメージを受けたキモヲタは、思わずその場に膝を付いてしまいました。


「ぐはっ! エターナル……そんな酷い言葉をどうして……」


「セリアに教えてもらった!」


「セリア殿ぉおおお!」


 キモヲタがキッとセリアを睨みますが、セリアは何食わぬ顔で歩き続けています。


 怒りが収まらないキモヲタは、キンタが背負っている荷物袋の中から、ピンクのふにふにを取り出すと、セリアではなくピンクのぷにぷにに向って言いました。


「この生意気ツンデレ黒髪委員長め、今夜はお主がぐちゃぐちゃになるまで思い切り責め立ててやるでござるよ。『らめらめ、キモヲタの形になっちゃうぅぅ』と泣かせてやるでござる……ってひぃいい!」


 シャキンッ!


 そんな音が聞こえたかと思うと、キモヲタが手にしていたピンクのふにふにが、突然、上下真っ二つになって、上の部分がポロリと地面に落ちました。


 気が付くと、目の前に腰を落としたセリアが立っていて、刀の柄に手を添えていました。手を添えているように見えたのは、これから刀を抜くためではなく、刀を収めた後であることにキモヲタが気が付いたのは、地面に落ちたピンクのふにふにの上部分を思わず踏んづけてしまった後のことでした。


「ひぃぃいい! いきなり刀を抜くなど危ないでござろうが!」


 怯えながらも文句を口にするキモヲタに、セリアが目を細めながら答えました。


「そっくりそのまま言葉を返そう。いきなりの変態行為はしない方がいい。危ないからな」


 セリアの目に潜む殺気に、思わずキモヲタは、手にしていたピンクのふにふにの下部分も地面に放り投げ、セリアから距離を取るのでした。


 この数日後、街道におちているピンク色のふにふにしたものを二人の旅人が発見しました。上半分を手に入れた一人は、これを食べ物と勘違いして火にかけて消失してしまいました。


 しかし、下半分を手に入れた旅人は、奇跡的にピンクのふにふにの正しい使い方に気が付いてしまったのでした。


 それから数日後、川に掛かった橋に辿り着いたキモヲタ一行。


 馬車が一台通れるかどうかの幅しかない橋でしたが、川の流れが速いため、どうしてもそこを通らずにはいられません。


 しかし、その橋の手前には、十数人ほどの人類軍兵士がたむろしていました。


 彼らはキモヲタ一行を見るや、ニヤニヤして笑い声を上げたり、口笛を吹いたり、キモヲタたちに対して挑発的な態度を取り始めたのでした。


 そんな彼らの様子を見て、ユリアスは眉根を寄せて言いました。


「あの様子だと、黙って通してくれるということはなさそうですね」


 キモヲタもまったく同感でした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る