第19話 阿鼻叫喚! 女騎士たちの足裏マッサージ 

 キモヲタの治療を受けると、たとえ怪我が治っても心に傷を負ってしまうことを知った騎士たち。


 その大半が未だ乙女であるからこそ、キモヲタの治療を受けた騎士の痴態を見てドン引きしてしまうのは、仕方のないことでした。


 このままでは彼女たちから向けられる視線が「オークでも見るかのような」ものに変わるのは時間の問題です。


 そこでキモヲタは、動揺を隠しつつ、その場にいる全員に聞こえるような大声を出して、ユリアスにある提案をします。


「我輩の治療にはこういう代償があるのでござる。なので治療中は我輩の目と耳を塞いでもらいたいのでござる。この場にいる皆様も、ご自身の治療が終わるまで目と耳を塞げば良いでござろう」


 キモヲタの提案を聞いて、女騎士たちはお互いに顔を合わせた後、


「そ、それなら……まぁ」

「声さえ聞こえないなら……いいかな」

「目だって閉じてればいいんだしね」


 頷き合って同意するのでした。


 ユリアスの指示で用意された目隠し布と耳栓を付けたキモヲタ。ユリアスに手を引かれて怪我人の足裏に手を添えます。


 最初は、治癒の終了をユリアスが見極めて、丁度良いと思ったところでキモヲタの肩を叩いて知らせるという手順を踏んでいました。


 しかし、何人もの治療を続けている内に、キモヲタは大事なことに気がつきます。


 それはユリアスが肩を叩くタイミングと、キモヲタが揉んでいる足裏からコリがまったくなくなったと感じるタイミングがピッタリと一致していたのでした。


(ふむ。それならば……)


「ユリアス殿、治療が終わったときに肩を叩くのはもう結構でござる。その代わり今度は、怪我がまだ治りきっていないにも関わらず、我輩が治療を止めようとしたときに肩を叩いて欲しいのでござる」


「分かりました。今後はそのように致します」


 結果、その後の治癒でユリアスがキモヲタの肩を叩くことはありませんでした。


 また今回の目隠し治療では、他にも気づきがありました。それは、足裏のツボと身体の治癒される部分が一致しているということ。元の世界でも、足ツボと身体には密接な関係があると言われていたのをキモヲタは思い出しました。


 また足ツボを通して、ある程度、患者の身体を操作することができることにも気づきました。操作と言ってもロボットのように動かせるわけではなく、わざと痛みを与えたり、快感を与えることができるというものでした。


 それまでは治療を嫌がる患者が、もう片方の足でキモヲタをゲシゲシと蹴ってくることがあったのですが、この気づきによって、患者に蹴られる瞬間、強烈な痛みか快感、もしくは両方を患者に与えて、キックを回避することができるようになったのでした。


(ふむ。こうして目隠しと耳栓をして治療していると、治療と思考に集中することができるので、色々と気づくことが多いでござるな)


 そんなことを考えながらキモヲタは、ひたすら患者の足に太い親指をグイッと押し込んでいくのでした。


 ところで、目と耳を塞がれているキモヲタは知る由もありませんが、キモヲタが治療を続ける簡易治療所は、うら若き乙女たちにとってはある意味、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられているのでした。


 グリッ! グリッ!


「ああぁあん❤ らめらめ❤ そこグリグリしちゃらめぇぇぇ❤」

「そこは駄目❤ そんなことされたらわらひおかしくなっひゃうのぉおお❤」

「痛気持ちいぃぃ❤ もっともっとぐりぐりしてぇぇ❤」

「ウホッ❤ ふごごごご❤ らめぇぇ漏れちゃうからぁぁ❤」

「おいっ! 誰か雑巾とバケツを持って来てくれ!」

「ごめんなさいぃいぃ❤ はぁあぁぁぁあぁあぁ❤ でも気持ちいぃぃ❤」

 

 一面の地獄絵図が繰り広げられていたのでした。


 ちなみにこのキモヲタの治療のあと、白バラ士団の百合カップルが急増したことは、公然の秘密となっていくのでした。


 騎士団全員の治療を終えたキモヲタ。


 耳栓を外した後に、続いて目隠しを外そうとするのを止められ、そこから10分ほど待たされます。


 ガタガタ、ゴソゴソ、ゴトゴトと騒がしい物音を耳にしながらキモヲタは、ぼんやりと考えていました。


(今度のときは鼻栓も用意してもらった方が良いでござるかな)


 そんな失礼なことを考えていたとき、


 ファサッ。


 背後から誰かがキモヲタの目隠しを取り除きます。ユリアスでした。


「キモヲタ様、大変な治療、お疲れ様でした」


 それほど疲れを感じていなかったキモヲタでしたが、ユリアスの方は顔から血の気が引いており、今にも倒れそうなほど憔悴しきっていました。


「ユ、ユリアス殿!? どうして今にもブッ倒れそうな状態になってござるか!?」


「い、色々……色々ありまして……」


 そう言えば、ユリアスは最初から最後まで治療に付き沿ってくれていたことを思い出したキモヲタ。ユリアスに何があったのかは分かりませんでしたが、それがキモヲタや治療を受ける騎士たちへの色々な気配りの故であることは想像がつきました。


「ユリアス殿にも【足ツボ治癒】を致すでござるよ。このスキルは体力も回復する故、楽になるはずですぞ。デュフコポー」


 そう言って足裏を掴もうとするキモヲタをユリアスは制止します。


「あ、ありがたいですが……あの……その……部下の前では……」


「それはそうですな。面目に関わることでござろうし……ふむ、しかし困ったでござるな。フォカヌポー」


 どうしたものかとキモヲタが困り果てている様子を見て、ユリアスがそっと耳打ちします。


「わ、私の部屋でなら誰にも聞かれずに済むので……その……」


「おぉ、なるほどそうですな! それでは早速、参るとしましょう」


「で、では……」


 大勢の治療を終えたばかりで、ある種の賢者モードに陥っていたキモヲタは、ユリアスの部屋で二人きりになることに何の妄念を抱くことなく、普通にユリアスについていくのでした。 

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