第17話 ヒロインは姫騎士こそ至高! 

 冒険者ギルドで飲み潰れていたキモヲタ。


 そこに後ろから声を掛けて来たのは、かつてキモヲタに救われた騎士のユリアスでした。


 サイクロプスとの戦いで致命傷を負っていたところを、キモヲタの【足ツボ治癒】によって助かったユリアス。


 白バラ騎士団で三番隊長を務めているユリアスは、キモヲタをカリヤットに送った後、すぐに魔族軍の討伐に向かわざるを得なかったため、お礼をする機会を逸してしまいます。


 その間、キモヲタと言えば、オークの捕虜と勘違いされて魔族収容所に送られ、檻の中に閉じ込められていたのでした。


 ズサッ!


「誠に申し訳ありませんでした!」


 そう叫んだユリアスはその場に片膝をつき、深く頭を垂れました。


「しばらく最前線に釘づけになっていたのですが、戻ってみればキモヲタ殿はいらっしゃらず。部下を問いただしてみれば、なんたることかキモヲタ殿を捕虜と勘違いして収容所へ送ってしまったとのこと。そのうえ収容所では不埒者の襲撃によって、もう少しで命を落とされるところだったとか……」


 そう語るユリアスの声が段々と震えていくのが、キモヲタにもわかりました。


「大恩あるキモヲタ殿に、そのような酷い扱いを受けさせてしまうとは、このユリアス・ヴァルガー……グスッ……救われた命をお返ししてもまだ足らぬほどのご迷惑を……グスッ……キモヲタ殿におかけしてしまいました……グスッ」


 スッと顔を上げたユリアスの目には、涙が溢れています。


 豊かでつややかな黄金の髪。宝石のような瞳。透き通るような白い肌。まさに絶世の美女と言っても差支えのないユリアス。その頬にツーっと流れる涙を見たキモヲタは、ユリアスの美しさに見惚れるあまり、しばらく呆然となってしまいました。


 涙で揺れる瞳を向けられたキモヲタは、ドギマギするのと同時に、自分が原因で泣かせてしまっていることに対して罪悪感を持ってしまいます。


「頭をあげてくだされユリアス殿、確かに行き違いは合ったやもしれないでござるが、我輩はまったく気にしておりませぬ故。手違いで捕虜扱いになったとはいえ、あのとき馬車に乗せられていなければ、我輩は魔族軍によって殺されておったかもしれません。無事カリヤットに着いてこうして冒険者をしておられるのは、ひとえにユリアス殿のおかげと心得ておりますぞ。どうぞ、どうぞ立ち上がってくだされ。デュフコポー」


 そう早口でまくし立てて久々に息切れを起こしたキモヲタが、そっとユリアスに手を差し出しました。ユリアスは涙をぬぐい、ニッコリと笑顔をキモヲタに向けると、その手をとって立ち上がるのでした。


「うぅ……かたじけない……そのように仰ってくださるとは、キモヲタ殿はなんと器の広い御方……」


 ユリアスが立ち上がると、その顔を見あげる形となったキモヲタは僅かに一歩さがりました。


(ぬぉっ! 美少女顔のせいでござろうか。ひざまずいているときは小柄に感じたでござるが、普通に立っているとユリアス殿の背はかなり高いでござるな。少し気おくれしなくもないですが、デュフフ、高身長ヒロイン上等でござる! というか姫騎士なら高身長の方が至高でござる。クッコロ、クッコロ)


 ユリアスから向けられる笑顔を見て好感度アップを確信しながら、心の中でキモヲタは奇妙な笑い声をあげるのでした。


「キモヲタ殿、ぜひ我が隊舎にお越しください。私だけではなく部下たちもキモヲタ殿にぜひお詫びをさせて欲しいと言っておりまして。飾り気のないところではありますが、用意できる食事には自信があります。我が隊あげて、キモヲタ殿へのお詫びと御礼の歓待をさせてはいただけませんか」


 もちろん、ユリアスの提案を断る理由などキモヲタにはありませんでした。


 キモヲタはユリアスの用意した馬車に乗り込んで、白バラ騎士団の隊舎へと向かうのでした。


 その途中、エルミアナが冒険者の仲間たちと歩いている姿を見かけました。いつものキモヲタなら身体がビクリと反応して、慌てて近くの建物に身を潜めるところです。


 しかし、いまのキモヲタの隣には頼もしいユリアスがいます。そのことがキモヲタの気持ちを大きくしていたのでした。


(デュフフ。あの狂乱エルフを見ても、我輩一切動揺しなかったでござる。姫騎士をヒロインにするということは、つまりこういうことでござろうな。頼もしいことこの上ないでござるよ! こうなってくるとユリアス殿の高身長属性というのもメリットでござるよな!)


 しばらくすると、馬車が白バラ騎士団の隊舎に到着しました。


 飾り気のないところだとユリアスは言っていましたが、敷地には訓練場も見えるものの、美しい庭園となっており、建物もまるで王宮殿のような豪華な造りでした。


 馬車が建物の前に来ると、白薔薇の刺繍が施されたチュニックを着こんだ女騎士たちが、玄関に整列してキモヲタを迎えてくれました。


 居並ぶ初対面の美人たちに、一瞬、キモヲタはキョドってしまいましたが、すぐに通常キモヲタモードに復帰することができました。なぜなら、この招待が自分へのお詫びと歓待であることを思い出したからです。


 さらにキモヲタはその小物振りを大いに発揮して、彼女たちを上から目線で見ることができるようになっていました。


「キモヲタ様、ようこそお越しくださいました!」


 女騎士たちが一斉に頭を下げるのを見て、キモヲタは――


(おいおい。そこは「お帰りなさいませご主人様」でござろうが。デュフコポー)


 そんな上から目線で、女騎士たちに指導を入れるキモヲタなのでした。


 もちろん心のなかで言っただけなのでした。

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