第9話 あれ? 我輩、歓待されるはずでは?
キモヲタは自己紹介を済ませた後、ユリアス隊長とエルフリーデに案内されて馬車のある場所へと向かいました。
道すがら事情を聞いたキモヲタは、ユリアスたちがアシハブア王国の騎士であることを知ります。彼らは、捕虜を都市カリヤットにある収容所へと移送していたところを、サイクロプス率いる魔族軍から襲撃を受けたのでした。
三人が移送隊に戻ると、ユリアスの姿を見た騎士たちから安堵の声があがりました。
敵が一掃されて安心したためか、騎士の全員が兜を脱いでユリアスに手を振っていました。その全員が見目麗しい乙女ばかりであることに気がついたキモヲタは、妄想を逞しく――
――することなく、ひたすらオドオドとキョドりはじめます。
二次元妄想世界では天下無双の種馬であるキモヲタも、リアル美女に対してはまず恐怖と警戒心しか抱くものがなかったのです。
この異世界にきて最初に出会ったエルフ女性やケモミミ少女は、彼女たちが只ならぬ緊急事態にあっため、キモヲタも治癒に必死なのでそうした素振りを見せることはありませんでした。
もしこの二人とも普通に出会っていたとしたら、キモヲタはまともに目を見ることさえできなかったことでしょう。
ただユリアス隊長の場合は、不思議なことに、キモヲタがキョドリ症状を発症することはありませんでした。
(デュフフフ。きっと姫隊長の我輩に対する好感度がエロシーン突入可能なくらいに上がっているからでござろうな)
「デュフフフ」
周囲の女性騎士たちにキョドリながらも、奇妙な笑い声を漏らすキモヲタを見て、エルフの女騎士エルフリーデはかなりドン引きしていました。
一方、ユリアス隊長はそんなキモヲタを見ても、優しい笑顔を向けています。
「キモヲタ殿、すぐに服を用意させますので、しばしお待ちを……」
そう言って部下に服を用意させようとしたユリアスのもとへ、早馬が駆けてきました。
「隊長ー! 大変です! 別のサイクロプス隊がこちらに向ってきています!」
「なんだと!?」
サイクロプス隊という言葉を聞きつけて、隊にいる全員の顔に緊張が走りました。たった今、激しい戦闘を終えたばかりで傷もたくさん負っている状態では、万が一にも勝ち目はないと誰もが思ったからでした。
ユリアス隊長は、全員に聞こえるように声を張りあげました。
「仕方ない、すぐに出発するぞ! このままカリヤットまで一気に駆け抜ける! 死者の遺体は隠しておけ、迎撃隊を編成してすぐに回収に戻る!」
おぉ! という声があがり、騎士たちは一斉にそれぞれの役割を果たすべく行動を開始しました。ユリアス隊長はキモヲタに振り返ります。
「申し訳ありませんがキモヲタ殿、敵が近づいてきていてるので急いでここを発たねばならない。とりあえずキモヲタ殿は馬車に乗ってください。必ずお守りいたします」
キモヲタは首をブンブンと縦に振りました。
そんなキモヲタを眩しそうに見つめながら、ユリアス隊長は、隊を先導するためにその場を離れていくのでした。
「エルフリーデ! キモヲタ殿を頼む!」
「承知しました」
ここでキモヲタは、エルフリーデと二人きりになりました。ここで最初の掛け違いが発生してしまいます。
ユリアス隊長の「キモヲタを頼む!」という命令は、自分の命の恩人に対して最大の礼を尽くしてお世話をするようにという意味でした。
しかし、このエルフリーデは、キモヲタがユリアス隊長を救うところを見たわけでもなく、それどころかキモヲタの挙動不審な態度にドン引きしていました。このフルチン男が実はオークなのではないか、その疑念を捨てきれていなかったのです。
どうしたものかと思案しているところへ、女騎士の一人がエルフリーデに助けを求めてやってきました。
「エルフリーデ殿! 酷い負傷をしたものがおります、急ぎヒールをお願いします!」
負傷者がいると聞いたキモヲタは、自分のスキルを使って助けることを申し出ようと考えました。
しかし、女騎士たちを目の前にしたキモヲタは、まず美人恐怖症が出てしまってデュフデュフと息を荒げるばかり。
結局、何も言葉を発することができませんでした。
そんなキモヲタの内心を知らず、エルフリーデは怪我人のもとへと向かうことにしました。正直、ちょうどいいところに女騎士がきてくれたと考えていたのです。
「わかった! すぐに治療に向おう。それでキミには済まないが彼を馬車に乗せてやってくれ」
「了解しました!」
エルフリーデは、キモヲタに「では彼女の指示に従ってくれ」と言い残し、自分は怪我人たちのところへと向かいました。
「……」※キモヲタ
「……」※女騎士
しばしの沈黙が二人の間を支配しました。
女騎士はエルフリーデの指示に反射的に応答したものの、今は大変困った状態に陥っていました。
(馬車に乗せる? この……えっと……オーク?)
移送隊には3台の馬車がありました。2台は騎士たちが利用するためのもので、残りの1台が捕虜を乗せている馬車でした。
(えっと……まぁ、常識的に考えてこっちだよね)
一瞬だけ迷った後、女騎士はキモヲタを敵の捕虜を乗せている馬車へと引っ立てて行きました。
「ほらっ! こっちよ! さっさと歩きなさい!」
「えっ!? えっ!? 何事でござるか!?」
キモヲタは、女騎士の厳しい態度に驚きながらも、彼女の指示に従って捕虜用の馬車に乗り込むのでした。
女騎士は自分の判断に100%の自信を持っていたわけでもなかったので、ここで普通に抗議の声をあげておけば、簡単に誤解を解くことはできたでしょう。
しかし、二次元妄想世界では天下無双のキモヲタも、現実の女性、しかも美人からの厳しい声を受けてはキョドることしかできなかったのでした。
そして、キモヲタを捕虜用の馬車に乗せたままユリアス隊長率いる移送隊は、カリヤットへと向かって出発したのです。
(お、おかしいでござる……我輩、歓待されるのではなかったでござるか……)
捕虜用の馬車のなかで、キモヲタはそこにいる恐ろしい面々と目を合わせないように、隅っこでガタガタ震えながらそんなことを考えていました。
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