第6話
動物の仕業でもなければ、臣下がかまくらを出入りすることが出来ないのだとすれば…。
机を観察する。
ミカンは見つけた時と出来るだけ同じように置き直している。
雪でできた4本の脚に雪を固めてできた台が乗っている。
ちょっと待て。
雪で囲まれた空間のためあまり気にしていなかったが、やけに机の周りが濡れている気がする。
雪がある以上水があるは不思議なことではない。
しかし、それを踏まえてもなお、その部分は水が多いように感じた。
まるでついさっき溶けたかのように…。
そうか。
オレはある仮説に辿り着いた。
この仮説が正しければこの水はしょっぱいはずだ。
水をひと舐め。
思わず口角が上がる。
ビンゴだ。
「分かったぞ。ミカンの方を動かしたんだ。ミカンは球体。雪でできた机の上は傾きさえできればよく転がる。ミカンはそのまま出入り口へと転がって外へ出ていく。転がった雪はかまくら付近から脱した。そのミカンを犯人は食べ、ミカンの皮をかまくら内に投げ入れた。」
我ながら画期的な妙案である。
「どこにその傾きがあるんだ。かまくら内にあらかじめ斜面を用意していたとすると、撤去するにもかまくら内に入る必要があるだろ。それにミカンの皮を投げ入れて机の上に乗せるなんてとんでもないコントロールだ。不可能に近い。」
執権が指摘する。
的確な指摘だが、的確過ぎるが故に想定内でもある。
「傾きは雪で作る。机の4脚、それぞれの上部に溶けやすい雪を設置する。そのうち出入り口に近いほうの2つは他の2つより溶けやすくする。その結果出入り口に近いほうから雪が溶けていき、斜面が発生する。すると机の上のミカンが転がり、出入り口から出る。雪はすべて溶けやすいため、最終的にすべて溶け、オレが起きた時には高さがわずかに低くなった机しか残らない。確かに、ミカンの皮をピンポイントに机の上に乗せるのは至難の業だが、別にかまくら内のどこかに入りさえすれば、オレに罪を着せることが出来る。だから、机に乗ったらラッキーだというくらいの感覚で投げた結果たまたま机に乗ったんだ。」
「雪を溶けやすくする方法は?」
「方法はいろいろあるが形跡を残さない方法かつ簡単に手に入れられるものがある。塩だ。塩をかけることで雪の凝固点が下がり、溶けやすくなる。塩の量に変化を与え、溶けるスピードを変化させる。さっき机付近に溜まった水を舐めてみた。確実にしょっぱかった。これは塩を使った証拠であると同時に、オレの荷物を調べてもらえば塩を持っていないことが分かる。このことからオレ以外の誰かが犯人であるということが立証されるわけだ。」
雪の溶かし方に変化を加えることで出入口外にミカンを転がすトリック。
トリックに使った雪は溶けて本来の4脚の高さに戻り、机はその上に残る。
ミカンを食べて皮をかまくら内に投げ入れる。
その結果、足跡なしでミカンが消失する現状に帰着する。
我ながら完璧な推理である。
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