英雄と呼ばれた陰の実力者??~無能なボクをお姫様は『英雄様!』って呼ぶわー姉に至っては『実力を隠してるのよね!』って勝手に勘違いしてきます。あのね二人とも……本当にただの無能だってばっ!!~
大豆あずき。
第1話 無能
英雄は、ボクの憧れだ。
仲間たちが心折れる絶望的な状況でも、決して屈しずあきらめない心の強さ。
暗く辛い過去を持つ人でさえ、希望を与え惹きつける天性のカリスマ性。
理想を綺麗事だと馬鹿にされても、自分の信じた道を貫き叶える信念と覚悟。
そしてヒロインのピンチに駆けつけて颯爽と助けた後は、ヒロインを恋に落とさせて、また自身も恋に落ちて結ばれる、か……。
あぁ、早く英雄という名の名声をこの世に轟かせて、ボクだけのメインヒロインをゲットしたい。
でもでも、陰の実力者も、ボクの憧れだ。
普段は凡人を装って、周囲の人間にバカにされたり、蔑まれたりするけど……。
その実、本当の実力はバカにしてきたヤツの誰よりも高みにあって、決して辿り着くことのできない所で見下ろしていて……。
だけど、ヒロインだけは真の実力を知っていて、『あなたの隣に立ちたいの!』って宣言して、その背中に追いつこうと必死に頑張って努力して……。
これも、なぁ……実力隠して、陰で世界を救うのも、追いかけられるのも悪くない。
う~ん、どっちのムーブを―――
「ふふっ、アスベル様。楽しみですね」
「あぁ、俺たちの子だ。きっと、ミリのように素晴らしい才能を秘めている。……結果が待ち遠しい」
楽しもうかな?
と、この世界のママに抱かれて、パパとママの優しい笑みを見ながら、悩みワクワクしていた。
突然だけど、ボクこと月白ホタルは—――なぜか分からないけど、異世界に転生していた。
そして―――絶賛、生まれたての赤ん坊です。
死因とかも全く覚えてない。前世の最後とかも思い出せない。
覚えているのは……地球という星で生まれて、パパとママの3人家族で、普通の高校生活を送ってたことぐらいかな?
―――なんて特徴のない平凡な人生!!
って、どっかの芸人にツッコまれそうな気もするけど。
だけどまぁ、アニメやラノベなどなど嗜んでいたわけで、オタク知識はある程度持っていた。
だから、現にこうして転生しても、上手く適応できてるってわけだ。
胸の高鳴りは増すばかり、だけどね?
そう思いながら、部屋のあたりを見渡す。
にしてもこの部屋広いし、ベッドデカいし、装飾スゴイな。如何にも身分が高そう。
……ひょっとして、貴族の子供として生まれたのかな?
二人とも美形だし、身に着けている服も見るからに値が張ってる。
ママはボクを生んだばかりだから今はパジャマだけど、普段はドレスとか着てると思う。
早くそっちの姿も見てみたいな。
「あ、アスベル様っ!! サラン様っ!! 測定結果がわかりました!!」
さっきまで魔力水晶をボクの前にかざして覗いていた神官が、ボクたちの方に振り向いて驚愕の顔を浮かべる。
「おぉ、ついにか!!」
「待っていました!」
魔力水晶とは、対象者の有している才能が分かる、という何とも便利なマジックアイテムらしい。
だから、パパとママが期待の声を上げるのも頷けるでしょ?
神官の反応を見る限り、今まで見たことのないほど、とんでもない結果が目の前に現れるんだから。
ささっ! パパもママも、そして護衛役と思われる騎士の二人さんも、とくとボクの力を刮目するが―――
「ゆ、ユルリ様は何の才能を持たない―――無能ですっ!!」
……………………えっ?
ボクが予想していたこととは全く反対なことを、神官はボクたちに言い放った。
その瞬間、静寂とはまた違った、イヤな沈黙がこの部屋を満たす。
ボクは唖然として頭の中が真っ白になっていると、パパがこの沈黙を破るために辛うじて声を発する。
「なっ!? そ、そんなバカなことがあるか!! 俺の子だぞ!! 無能なわけがない!! 出鱈目をほざくな!!」
「う、ウソですよね……? だって私とアスベル様の子が無能? そんな訳ありません! しっかりと水晶をご覧なさい!!」
パパとママの激昂プラス睨みつけ攻撃に、
「ひっ、ひぃっ!!」
効果抜群。どうやら、神官は精神に深いダメージを負ったようだ。
しかし、顔を青白くさせて、今にも気絶しそうなほど怯えている神官よりも……ボクの方が遥かに精神的ダメージを負っていた。
ウソ、でしょ? だって……えっ?
ボクって……無能なの?
チート転生者じゃないの?
無双かましまくり系主人公じゃないの?
英雄になれないの?
陰の実力者になれないの?
自分の存在を否定する言葉だけだが、ボクの脳内に埋め尽くされる。
こんなのって、あんまりだよ……。
普通こういうのって、『こんな力……! 今まで見たことがない!! 一体、何者なんだ!?』って、なるシーンじゃないの?
ずっと憧れてきた存在になれるチャンスだと思っていたのに……まさか無能だなんて……。
―――悲しすぎるよ……。
じゃあボクは、この先、何を夢見て生きていけばいい。
異世界ライフを楽しむことなんて、できない――――――あっ。
あることを思い出し、暗闇の空が広がるボクの心に―――光が差し込む。
そうだ……そうだよ! こんな展開あったじゃないか!
魔力水晶のようなものに本当の力が見えなくて、周りに弱者って決めつけられるって、まさにこのことなんじゃないかな!!
つまりボクは—――陰の実力者ルートに進むってことだ!!
ふぅ~、なんだ。そういうことだったのか。
英雄ムーブができなくて残念だけど、それはわがままってやつだよね?
高望みは良くないし、自分のやりたいことが二つから一つに絞られただけで、そのうちの一つは目指せるんだ。
それだけで十分。
取り敢えず、ボクの異世界ライフですることが決まったわけだ。
ひと安心、ひと安心。
そう安堵を得た、次の瞬間—――
「ま、まことでございます! それにお二人も知っているでしょう!? この魔力水晶はただの魔力水晶ではございません! 万物の才能を見極め、潜在的な力までも見通す―――超魔力水晶であるため、決して測定結果に誤りが出るとは一片も考えられません!!」
神官の言葉にパパとママは顔を歪めた。そして二人の表情を見て、ボクは確信を得た。それも絶対に違ってほしい確信を。
えっ? それじゃあまさか―――
「こ、酷なことをお告げしますが、正直言ってゆ、ユルリ様は……剣術も魔力も頭脳も、あらゆる能力が全てゴミクズレベルの—――正真正銘の無能です!!」
本当にただの無能ってこと!?
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