番外編 レナト①

 レナトは人族ではない。

 人族ではない種族が集まったコミュニティのひとつに両親や兄弟と暮らしている。

 人族と似た見た目の種族もいれば、違う見た目の種族もいる。

 人族のような体をしていて頭は動物の種族、魚のように水の中でしか棲めない種族や、鳥のように翼があったり虫のような羽根があるものもいる。

 多種多様過ぎてアレもコレも語ったら終わりがない。


 そんな多種多様な種族が入り乱れるコミュニティの中でも序列がある。

 コミュニティでは強さと力がすべてだ。

 強いものは上位として存在し、庇護されるものは下位として存在している。

 人族で特別に強いと呼ばれる者であったとしても、コミュニティにいる者たちの強さと比べれば下位レベル。

 よくて中位の下くらいだろう。


 レナトは人族と似た見た目の種族だ。

 だが、コミュニティの誰ひとりとしてレナトは侮られることはない。

 いつだってレナトの種族は傅かれる側だ。


 コミュニティでは強さがすべてだから。

 レナトの種族は最上位の強さを持つ。

 父と兄弟とレナトは同じ種族だ。母だけが違うが母も上位の種族である。

 他種族同士で結ばれて子を成す事は可能だが、生まれる子は強い種族の特性を持つ。

 父の種族が最上位種族なので、必然的に父の種族の特性でレナトも兄弟も生まれたのだった。

 では最上位種族がたくさん生まれるのが望ましいからどんどん子を成せと考えられるかもしれないが、そう上手くはいかないものでレナトの種族は子を成しにくい特性を持つ為に無尽蔵に増える訳ではない。

 長命ということもあって、短命のものより子が出来づらいのだろう。

 上手くバランスが取れていると思う。

 では一夫多妻で増やせばいいということもない。


 レナトの種族は長い生涯において伴侶をひとりしか選ばず、唯一と決めて娶ったものをとても大切にする。

 たとえ伴侶が不慮の事故や病で亡くなったとしても、他のものを娶ることはない。

 生涯唯一と決めた伴侶以外を受け付けなくなってしまう。

 だから、伴侶を大切にして過保護過ぎるくらい守るし、伴侶として選ぶ相手はなるべく強い者の中から選ぶことを推奨されたりする。

 伴侶を失った者はゆっくりと死に向かうこともあるからだ。

 仲睦まじかった夫婦ほどその可能性は高くなるらしい。

 そういう理由で伴侶として選ぶには強い種の方が失う危険が少なくて良いということなのである。

 病からは逃れられないかもしれないが、不慮の事故に合う確率は減らせるということだ。


 そういう話をまだ物心もついたかどうか分からない時からこんこんと説明される。

 レナトも兄弟たちもまだ伴侶を見つけていない。


 兄弟たちはどうかは知らないが、少なくともレナトは伴侶にしたいという存在がいまのコミュニティにはいない。

 最上位の種ということもあって、兄弟たちにもレナトにもわんさかと伴侶候補がいる。


 何をしていても甲高い声でうるさく付き纏う候補たちにはうんざりしていた。

 それならコミュニティの外で狩りをする大人たちに付いて行くことの方が何百倍も楽しそうだ。


 人族とは接点のない暮らしをしているが、たまに人族が作る便利な道具を手に入れるために人族と同じ見た目の者たちが交流する時があるのだ。

 狩りで手に入れた獲物で必要のないものは欲しがる人族に売り、欲しいものを手に入れるということをしている。


 ただそれはしっかりと訓練をされた者がする事で、子供や訓練をしていない者や人型になれない者には許可されない。

 しかし狩りだけは大人ならば参加出来る為、レナトは参加したいのだった。

 強さだけなら自信がある。

 このコミュニティでレナトが敵わないのは父だけであった。

 大人顔負けの強さを持っていた為、余計に参加したくなる。

 コミュニティの中で候補たちに追い回される生活よりずっと有意義だと思っていた。


 だからレナトは増長し油断したのかもしれない。

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