奇跡のハコ

原口 モ

第1話 海の底


 〓2024年〓 


 突然、目の前が明るくなる。明かりに照らされる人々は皆、歓喜の表情を浮かべている。



 僕は、眩い程の光の前で泣き崩れる。



 海の底のように、まるで深い深い海底のように音のない世界…… 決して音の届かない世界。



 僕は一人その場に崩れ、止まらない慟哭を抑えることが出来なかった……


 こみ上げてくるのは、後悔…… ただただ後悔だけ…………



──僕は、あなたみたいに強くなれない……



 なぜここに来てしまったのだろう?


 無駄だと分かっていたのに、余計に辛くなるのは分かっていたのに、何を期待していたのか?


──奇跡など起こるはずも無いのに……



 出会いは、とある屋外の音楽ライブ。いわゆる夏フェス。当時、僕は二十五歳だった。






  〓2001年〓 


 九州の夜景で有名な山。その山頂付近で行われる夏フェス。会場は熱気に包まれている。


 真夏の太陽に照らされた会場に集まる人々は、それぞれ思い思いのバンドのTシャツを着ている。

 


 僕は、ビールを片手に一人で会場をうろうろしていた。推しのバンドの出番まで会場の雰囲気を満喫していた。




 僕は心地いい風を受けながら、山から見下ろす美しい景色を見ていた。



「綺麗な景色ですね」



 声に振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。



 僕と同年代位か? 女性は気持ち良さそうに、僕と同じく景色を眺めていた。

 


 風を受ける彼女の横顔は、とても爽やかで綺麗だった。輝いていた。


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