外伝3 死霊術士襲来


 ある日いつもどおり仕事をしていると、突然執事長に呼ばれた。


 何かと思ったら、ユニークスキルを持った男が見つかったらしい。

 さっそく雇うことにして面接しているが、隠し事があるように見えるそうだ。そしてユニークスキルを持っているのに職業は無いと言っているらしい。


 話した感じ悪い人間ではなさそうなので、危険はないだろうが、念のため領主様と面接中にこっそり鑑定してみてほしいと言われた。


 持っているユニークスキルは死体収納。魔物の死体をたくさん収納できて、死体に荷物を括り付ければ荷物も収納できるらしい。


 男の名前はユージ。黒髪黒目で年齢は18歳だそうだ。


 ・・・完全に日本人よね。日本人っぽい名前でユニークスキルを持っていて、私と同じ18歳で黒髪黒目。


 職業は隠しているのかな? 変な職業にされてしまったとか? 山賊の人とかいたし。それとも職業をもらえなかった人もいたのかも?

 それにしても死体収納か~。なんか微妙よね。よくあるアイテムボックスの下位互換みたいな感じかしら。詳細鑑定の高性能っぷりと比べると微妙に感じるけど、詳細鑑定が当たりだっただけかもしれない。いえ定番の時間停止と容量無限があるなら良いスキルな気もするわね。逆に時間停止がなかったら使いにくいわ。腐っちゃうし。

 まあ日本人なら特に問題は起きないでしょう。


 護衛としてレオスも一緒のようだ。私は部屋に入ったらレオスと一緒に壁際に待機して、詳細鑑定でステータスを確認するよう言われた。レオスに小さく手を振ると笑顔を返してくれた。仕事中のレオスは相変わらずかっこいい。ちなみに普段はちょっとかわいい。


 心の中で惚気ていると準備ができたようなので、領主様、執事長、騎士団長、副団長、レオス、私の6人で第2上級応接室に向かった。領主様や貴族が使う応接室だ。


 そうそうたるメンバーでちょっと驚いた。微妙なスキルだと思ったけど結構重要視されているようだ。


 応接室の中に入って予定どおり壁際に待機する。ユージさんはスラリとした長身でちょっと男前だけど目が死んでいた。すごく残念な感じだ。

 何とも言えない顔でこちらを見てくる。日本人だと気づいたのかもしれない。

 そうこうしているうちに話が始まった。


 挨拶の感じも日本人ぽいわね。まあ仕事をしましょう。詳細鑑定。


 ・・・なるほど。死霊術士か。これは隠したくなるわね・・・

 私でも大丈夫かちょっと不安だわ。犯罪者とかにされないといいけど・・・

 レベルが16もあるしMPが凄く多くて配下?もたくさんいる。結構がんばっているみたい。

 私なんてまだ10にもなっていないのに凄いわね。

 ユニークスキルは死体収納で間違いないようね。詳細鑑定。


 死体収納は予想外に強力なスキルだった。配下アンデッドも入っているようだし、何より相手を即死させて死体にして収納できるようだ。射程は私と同じ10メートル。私と同じく視認だけで発動できる。全員射程に入っている。


 ・・・背中に少し嫌な汗が流れた。


 大丈夫。同じ日本人だし。むしろ強力なスキルを持っているのは頼りになるわ。


 自分に言い聞かせていると執事長が近づいてきて小声で話かけてきた。

「アスカさん。どうでしたか?彼は職業を持っていましたか?」

「はい。彼の職業は死霊術士でした。」 小声で答える。

 執事長が一瞬驚きの表情をみせ、厳しい顔になる。やはり良くない職業なのだろうか。

「そうですか。ユニークスキルはどうでしょうか。」

「ユニークスキルは死体収納でした。詳細は後で説明しますが、強力で危険な効果があります。」

「・・・そうですか。」 さらに厳しい顔になったあと無表情になって定位置に戻っていった。


 大丈夫だろうか。すごく嫌な予感がする。いったん部屋を出て詳しく説明した方が良かったかも・・・


「で?どうだ?」 領主様が執事長に何かを聞いている。おそらく鑑定結果を伝えているのだろう。


 様子を見ていると領主様が突然驚いたように声をあげた。


「何!死霊術士だと!」

「その男を捕らえろ!」 え?!


 騎士団長と副団長が立ち上がりレオスが駆け寄っていく。副団長とレオスが左右からユージさんの腕と肩を抑えた。


 問答無用なの?!危険すぎる!


 思わず驚きで固まってしまい声がでない。


「どうしますか? 今すぐ始末しますか?」 騎士団長が領主様に質問した。


 始末?!どういうこと?!


 突然部屋の中に小柄な黒い魔法使いらしき男が現れて叫んだ!

「我こそは闇の王ギルバーン! 貴様らを殺し我が配下としてくれよう! フハハハハハ!」

 魔法使いの前にゾンビ数体と大きな骨の魔物が現れた!


 な、何?!


「なんだ?!」 領主様、執事長、若い執事が驚愕で硬直する。

「どこから?!」 騎士団長は驚きながら剣を抜いて構える。

「戦闘準備!!」 騎士団長が叫び、副団長とレオスが剣を抜く。


 レオスと副団長が消えた。


「え?!」 思わず驚きの声が出た。


 騎士団長、領主様、執事長、若い執事も消えた。


 体が震え脳が理解することを拒否する。


 そんな・・・まさか・・?


 さらに人間が数人現れた。


「アスカさん逃げろ!」 あの男が叫んだ!


 とにかく助けを呼ばなければ!


 考えないようにして部屋を出て兵士に向かって叫ぶ!

「助けてください!」

 兵士が駆け寄ってくる。

「第2上級応接室に、レオスが!領主様が!」 混乱して言葉がうまく出てこない。


 兵士達はドタドタと向かっていった。


 ・・・・その後のことはよく覚えていない。



 レオスや領主様達は行方不明になった。



 

 翌日私は事情聴取をうけた。ショックで何も考えられなかったが、ユニークスキルについては秘匿するよう指示されていたため、鑑定結果は伝えず見たままを伝えた。念のためユージという男は消えなかったので仲間かもしれないと言っておいた。

 人が消えたことについては、あの後大勢の人が目撃したらしく信じてもらえた。




 部屋でうずくまり考える。私がもっとうまく伝えていればこんなことにはならなかったのだろうか。


 涙が落ちる。


 レオスがいなくなって分かった。私はレオスを本気で愛していたんだ。恋愛ごっこじゃない。生涯をともに歩むかけがえのない人だった。また会いたい。一緒にいたい。

 レオスはどうなってしまったのだろうか。生きているのだろうか。


 ・・・いや分かっている。死体収納で殺されたのだ・・・


 心にどす黒い何かが渦巻きどんどん大きくなっていく。

「ぐぅぅ・・」思わずうめき声が漏れる。


 アンデッドにされ奴隷にされたかもしれない。想像するだけで気が狂いそうになる。


 このまま生きるなんて無理だ。


「絶対に許さない!・・・殺してやる・・・・」


 私は復讐を誓った。





 絶対に消えることのない魂の黒い炎が心に宿った。



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