第4話 町の入口と冒険者ギルド


 道に出るとすぐに町の入口が見つかったので離れた位置からこっそり様子を伺う。

 門番らしき兵は立っているが、どうやら特に検問や入場料の徴収などは無いようで、それほど多くはないが人が出入りしている様子がみえる。


 ほっと胸をなでおろして、入ろうかと思ったが、兵に呼び止められている人がいたので、念のため事情を聴かれた場合のカバーストーリーを考えることにした。


 とはいえ大したことも思いつかないので、畑仕事がいやで田舎の村から飛び出してきたことにする。三男で畑をつげないとか細かく設定を考えようかと思ったが、この世界の常識を知らないのに下手に作り話をしてありえないとか言われたら余計に怪しまれると思ったので、若者らしく家を飛び出したことにして、勢いでいくことにした。


 なにくわぬ顔で手ぶらで門を通過しようとした時だった。


「そこの君。」 門番に話しかけられた。

「はい。なんでしょう。」 内心焦りながら答える。

「見ない顔だが、どこから来たんだ?」

「む、村が嫌になったので町で仕事を探しにきました!」 ちょっとキョドってしまった。

「ああ・・まあ、がんばれよ!冒険者ギルドかい?」 兵士がなんとも言えない生暖かい眼差しでこちらを見てくる。

「は、はい!そうです!」 向こうから言い出してくれて助かった。やっぱりあるのか冒険者ギルド!

「冒険者ギルドはこの道をまっすぐしばらく行けば右側にあるよ。」

「はい!ありがとうございます!」 やさしく教えてくれたので、お礼を言ってそそくさと町に入った。


 無事に町に入れてよかった。

 門番の反応をみるに、村から出てくる若者は結構いるのだろう。


 とりあえず冒険者ギルドに行くしかないか。武器もほしいし、宿も知りたいが、冒険者ギルドで聞くことにしよう。からまれないと良いな・・・

 死霊術士で低レベルの俺は肉体的には弱いだろうし、死体収納は効かないかもしれないし、効いてしまったら殺してしまうし、オオカミを出したら大騒ぎになりそうだし・・・からまれたら殴られるか逃げるしかないのだろうか。

 冒険者ギルドでテンションが上がる歳でもないし、気が重い。


 辺りを見回すと町に入ってまっすぐの道がこの町の大通りらしく、そこには情緒あふれる異世界の町の光景が広がっていた。

 定番の中世ヨーロッパ風異世界のようで、木と石でできた建物が並び、それなりに人通りも多く、色々な店が並ぶ商店街っぽい雰囲気で活気がある。

 キョロキョロとあたりを見回しながら大通りを歩く。少し歩くと町の雰囲気に押されて沈んでいた気分も持ちなおしてきたので、気を取り直して冒険者ギルドに向かうことにした。


 しばらく行くとそれらしき看板が見えてきた。剣と魔物っぽい絵の看板だ。

 経験上こういう時はオドオドしていると余計にからまれるので堂々としていた方がよい。内心はともかくなんでもない顔をして扉をくぐった。


 中に入ると奥にカウンター、右側に掲示板スペース、左側に待合スペースがあり、待合スペースの奥には酒場っぽいエリアも見える。

 待合スペースから多少の視線を感じながら、内心ドキドキしながら涼しい顔 (のつもり)で奥のカウンターにむかう。


 受付カウンターの前まで行き様子をみると、受付にはごついおっさんや気の強そうなおばさんが並んでいる。

 どうやら美人受付嬢はいないようだ。まあ、現実には荒くれものが多い場所に美女を配置したらトラブルが増えるだろうし、美女も嫌がるよな。いなくて当たり前か。多分引退した冒険者かその身内あたりがやっているんだろう。絡まれなかったのもこの人たちが睨みをきかせているからだろう。

 美人受付嬢がいないことを少し残念に思いつつごついおっさんのカウンターに声をかけた。良い武器屋はおばさんよりごついおっさんの方が詳しいと思ったからだ。


「すみません。いいですか?」

「おう!見ない顔だな!新人か?」 接客はフランクな感じのようだ。異世界っぽいな。いや日本が丁寧すぎるだけで前の世界でも外国ならこんなものかもしれない。

「はい。登録お願いします。詳しくは知らないんですが、登録すれば冒険者として働けるんですよね?」

「おう!この辺は初めてか?」

「はい。一人で村から飛び出してきたんですが、冒険者になろうと思いまして。」

「そうか。ちと細いが一人で町の外を出歩けるなら大丈夫だろう。この用紙を記入してくれ。あと登録料は銀貨3枚だが持ってるか?」

「はい!持ってます。」


 名前、年齢、出身、得意武器、その他特技とある。今気づいたが日本語ではないが言葉も通じるし字も読めるな。特にスキルには表示が無かったが、知識はスキルではないからかもしれない。神だか神の部下だかが知識をくれたんだろう。知識を与えられるならもっと色々どうにかしてほしかったが・・まあいい。それより出身はどうするか。


「出身は村の名前を書かなければダメですか?」 試しにきいてみる。

「あん?訳ありか?」

「家出どうぜんなので・・・」 ということにしておく。

「この町の近くなら、この町の名前でいいぞ」

「う・・」 しまった!この町の名前を知らないぞ・・・ええい!開き直って聞いてみよう。

「この町の名前ってなんでしたっけ?」

「ああ?そんなことも知らねえで来たのかよ・・この町の名前はガストークだ。ここはガストーク冒険者ギルドだ。覚えとけ!」

「は、はい!すみません!」 ちょっと怪しまれたっぽいが教えてくれた。


名前 ユージ 

年齢 18

出身 ガストーク

得意武器 槍

その他特技 なし


 これでいいか。武器は使ったことがないが、槍は素人が使ってもそこそこ強いらしいと聞いたことがあるので、槍にした。あとで買おうと思う。

 もちろんネクロマンサーなんて書かない。


「おう!これでいいぞ!登録料を出しな!」

「はい!」 とりあえず社会人の基本としてハキハキ返事をして銀貨3枚を出す。

「よし!ちょっとこの本を読んで待っとけ!ちゃんと読めよ!」


 カウンターの横に置いてあった薄い冊子を渡される。


 読んでみるとギルドの規約やランクや依頼の説明のようだ。

 色々書いているが、ランクはよくあるSABCDEFとなっていてSが一番高い、Fは見習いの子供、大人はEからスタート。通常同ランクの依頼まで受けることができ、ギルドが許可すればひとつ上のランクの依頼も受けることができる。魔物素材はランク制限なく買い取ってくれるので、高ランクの魔物を狩っても良いが、ランクが低いと討伐依頼の報酬は受け取れない。あとは一般人に怪我をさせると重いペナルティがあるから一般人と喧嘩するなとか、まあ普通に暮らしていれば問題ないものばかりだ。ちなみに冒険者どうしの喧嘩については特に書かれていない。喧嘩するなら冒険者どうしでやれということだろうか?・・・不安だ。


 しばらく待っているとおっさんが戻ってきた。


「読んだか?読んだらこの同意書にサインをしてここに手をおけ。」

 言われたとおりにサインをして謎の四角い装置に手をおいた。指紋の採取か何かだろうか?特に何の反応もないが、問題なかったようで、金属のカードを渡された。

 冒険者ギルドのマークとランクと名前が書いてあるだけの鉄っぽい素材のカードだ。


「これがギルドカードだ!なくすなよ!今日からお前も冒険者だ!何か質問はあるか?」

「おすすめの武器屋と宿屋を教えてもらえませんか?あと、この辺の魔物とかを調べられる図書館とか資料室などありませんか?」

 

「武器屋と宿屋の地図は書いてやる。俺の名前を言えば少しだけサービスしてくれるぞ!俺の名前はヤーバンだ!資料はこのギルドの2階に資料室がある。そこの階段を上がればわかるはずだ!あとさっきの本はこのカウンターに常時おいてあるから、ちゃんと読んでおけよ!」


 ささっと簡単な地図を書いて渡してくれた。


「ヤーバンさん、ありがとうございました!また来ます!」 資料室は後回しにして、元気よくお礼を言って、まずは武器屋に向かうことにした。


 新人社員風に振る舞うのも疲れるぜ。


 無事冒険者登録ができたことに気を良くした俺は、肩で風を切ってカッコつけながら冒険者ギルドを後にした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る