5章 14 見届けて下さい

曲を弾いてるうちに、足の痛みが徐々に引いていく。

そして一曲弾き終えた時には完全に足の痛みを感じなくなっていた。


「あれ……? もう痛くないみたい」


私の言葉にカインが反応した。


「本当ですか? 足の裏を見せて下さい」


カインは私の足首に手を添えて、足の裏を覗き込んだ。


う……何だか、非常に恥ずかしいのだけど。


「治ってる……リアンナ様、怪我が完全に治っていますよ!」


顔を上げるカイン。


「それ、本当!?」


「ええ、ご自分の目で確かめて下さい」


言われるまま自分でも確認してみると、跡形もなく綺麗に傷跡が消えている。

おおっ! 我ながら、なんてすごいのだろう!


「あ!」


するとカインが突然大きな声を上げた。


「ど、どうしたの? 突然大きな声を上げて」


「僕の傷も消えているんです! 僕自身、腕と足に怪我を負っていました。それが完全に治っているんです!」


「え?」


よく見ると、カインの左腕とふくらはぎ部分剣で切り裂かれて服に血が滲んでいる。けれど、肌には傷一つついていないのだ。


カインの傷跡も消えている……いや、それよりも!


「カインッ! そんな怪我をしておいて、どうして剣を抜かなかったの! 無事だったから良かったものの……し、死んでいたかもしれないじゃない……」


身体の震えが止まらない。


「リアンナ様……」


「わ、分かってる……剣を抜かなかったのは、私のためなのでしょう? あのとき、カインに人を殺して手を汚して欲しくないって言ったから……だけど剣を抜かなかったことで、カインが死んでしまっていたら私は……」


するとカインが私の両手を握りしめてきた。


「大丈夫です、死んだりしません。僕は剣を抜かなくても彼らと戦って勝てる自信がありましたから」


「それ、本当の話……だよね?」


「ええ。もちろんです」


カインの握る手に力が込められる。


「そう、それなら良かった……でも、もうあまり無茶な真似はしないでね」


「でしたらこの先も僕が無茶なことをしないように、ずっと見届けてもらえますか?」


「え?」


どういう意味だろう?


「もう今回の件ではっきり分かりました。僕は殿下の裏切り者として追われる立場になっています」


「うん、そうね」


気の毒だが、カインはもう二度と殿下の元には戻れないだろう。


「もう、二度と殿下の元には戻ることは出来ません」


「確かにね」


こんなことになったのは、やっぱり私のせいでもあるのだろうな……。


「だから、ずっとリアンナ様のそばにいさせてください」


「……は?」


一瞬、何を言われてるか分からなかった。


「僕はもう殿下に仕える騎士ではありません。これからはリアンナ様にずっと仕えさせて下さい。いいですよね?」


「ちょ、ちょっと待ってよ! だってカインは伯爵家の人でしょう? そんなことをしていいの!? 殿下に逆らった罪で家族だってヤバいんじゃないの?


「伯爵家と言っても、僕は次男です。それにこの国が出身ではありませんから、ヤバいことはありません」


まさか、カインの口から「ヤバい」が出てくるとは思わなかった。


「次男の僕は伯爵家を継ぐことは出来ません。なので、行く宛の無い旅に同行するのは全く問題ありません。それにジャンとニーナだってリアンナ様の旅を続けるのですよね? 2人は良くて、僕は駄目なんてこと言わないですよね? 僕が一緒なら資金援助だって出来ます」


余程旅についてきたいのか、カインはグイグイ迫ってくる。イケメンに迫られるのは心臓に悪い。


「分かったってば! そこまで言うならいいわよ。旅は大勢の方が楽しいしね」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


「えっ!? キャアッ!」


突然、カインが強く抱きしめてきた。


「ちょ、ちょとっ!」


押しのけると、慌てたようにカインが身体を離してきた。


「あ……申し訳ございません。嬉しさのあまりつい……」


照れくさそうに笑う。


「そ、それじゃとりあえずジャンとニーナの元に戻りましょう」


「そうですね」


「それでは、どうぞこちらをお使い下さい。その格好で町を歩くと目立ちますから」


カインは自分が羽織っていたマントを外すと私にかけてくれた。


「ありがとう……」


するとカインはニコリと笑みを浮かべ、再び私を抱き上げてきた。


「え! 今度は何!?」


「裸足で町中を歩くわけにはいきませんよね?」


「だ、だけどこれじゃ恥ずかしいのだけど」


現に町中を歩く私達は注目されている。


「恥ずかしければ、フードを被っていて下さい」


カインに言われるまま、私はフードをかぶるとカインはクスクス笑った。


「それでは行きましょうか?」


「う、うん……」


こうして、私はカインに抱き上げられたままホテルへ向かった。


やけに大きく響く、自分の心臓の音を聞きながら――



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