4章 10 見知らぬ青年

「え?」


振り向くと、見たことのない若い青年が頬を上気させて立ってたいた。


はて……誰だろう?


訝しんで首を傾げると、青年はさらに詰め寄ってくる。


「そうですよね? あなたは、あの聖女様ですよね? ああ、良かった! まさかもう一度会えるとは思いませんでした……。まるで夢を見ているようです」


すると……。


「「いいえ、違います!!」」


何とジャンとカインが同時に声を揃えて同じセリフを口にした。


「「え??」」


同時に驚く私とニーナ。


「一体、何を言っているのですか? いきなり見知らぬ女性に聖女様だなんて声をかけるなんて、あまりにも失礼だとは思いませんか?」


カインが詰め寄る。


「ああ、そうだ。良く見てから物を言え。この女のどこが聖女様だって言うんだよ? あぁん?」


ジャンはまるでチンピラの如く、私をビシッと指差す。


ええ? この女!? 

いくらなんでも、ちょっと酷いんじゃないの!?


「いいえ! 絶対あなた達は聖女様と旅の従者達ですよね? あなた達2人に見覚えがありますから! 」


青年も負けじと、ニーナとジャンを交互に見る。


「違うって言ってるだろう!」


「そうよ! さっきから何言ってるのよ!」


「いえ!! コレでも目に自信はあります!! 絶対にあなた達は聖女様御一行だ!」


皆の声があまりにも大きすぎたので、とうとう周囲の人々がざわめき出した。


「何だって? 聖女様だと?」


「そう言えば最近あちこちで噂になっていたな」


「ついに、この町にも聖女様がやってきたのか?」


彼らの視線が一斉にこちらに向けられる。

流石にコレは……まずいのでは!?


「ちょっと、 あまり大きな声で騒がないで下さい。 これでもお忍びの旅なんですから目立ちたくないので、あっちに行って下さいよ」


ニーナが小声で青年に注意する。

しかし、もう既に手遅れとなっていた。いつの間にか私達の周囲は人だかりが出来ていたのだ。

しかも、ホテルの従業員達まで集まっている。


こ、これは……さすがにまずいのでは!?


「お願いです、聖女様! 俺、ずっと聖女様を探して『イナク』の村から追いかけてきていたんですよ!」


「ええっ!?」


その言葉に仰天してしまった。この人……まさかのストーカー!?

こ、怖いんですけど!


「一体この方に何の用があると言うんです? 大体黙って後をつけるとは最低だとは思いませんか?」


サッとカインが立ち上がり、彼の前に立ち塞がった。

あの〜そんなセリフ、カインは言える立場に無いのでは? 殿下に命じられて私達をつけていたよね?


すると、青年は頭を下げてきた。


「お願いです、聖女様! どうか俺の恋人を助けて下さい!! 今この町に一緒に連れてきているんです!!」


「え? 恋人がいたのですか?」

「何だ〜それを早く言えばいいのに」


何故か青年の口から恋人の存在を知ると、カインとジャンが笑顔になった。


「リアンナ様、話を聞くだけ聞いてみたらどうですか?」

「そうですね。聞くだけなら僕も賛成です」


「はぁ!?」


ジャンとカインがとんでもないことを言ってきた。 さっきまで反対していなかったっけ?


「ちょ、ちょっと待って! 私は……」


するとニーナが耳元で囁いてきた。


「待って下さい、リアンナ様。こんなに大勢の前で否定するのはまずいですよ。聖女を語る偽物だと思われるかもしれません」


「だけど……」


周囲の人々は期待のこもった目で見つめているし、この青年は私達を追いかけてきと言っているのだから……。


「わ、分かりました……とりあえず、恋人のところへ案内して頂けますか?」


私は不承不承、青年の話を聞くことにした――









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