第28話 何にでも呼び名があった方がいい

 朝、目が覚めると……、アリアさんが部屋の真ん中で正座をしていた。


「おはよう……、えっと? なんでアリアさんを正座させてるんだ?」

「あっ! おはよう、お兄ちゃん。その……、えーっと、―――なんでもないよ?」


 状況の整理が追いつかず、それをさせているサクラに説明を求める。しまったといったような表情をしながら何でもないとはぐらかすサクラにチャンスとばかりにアリアさんが立ち上がった。


「それはサクラちゃんが私にお説教をしていたのよね!」

「……それはドヤっていうことか?」

「私がシェイブにお説教をしに行くのをやめたのだから、サクラちゃんも私へのお説教はやめるのよね!」


 シェイブの悪乗りにアリアさんも乗った昨日のことだろうか。アリアさんが僕との二人部屋を所望してサクラを子ども部屋に割り当てようとしていたことを思い出す。


「確かに僕らの関係を知らなかったシェイブはともかく、アリアさんは擁護できないからな……」

「だよねっ! わたし一人を子ども部屋に入れようだなんてひどすぎだもん!」


 昨日は夜も遅くて疲れていたことと、僕の長風呂で有耶無耶になっていたけれど、サクラは根に持っていたらしく、僕の寝ているうちにお説教をしておこうと思ったようだった。


「で、アリアさんは反省したの?」

「したのよね! したのよね! もう1時間は正座してて足の感覚がないのよねー!」


 悲痛な叫び声に聞こえるが、僕が起きたことで演技がかかっているらしくサクラはまだ正座させたそうだったが、騒いでいるアリアさんが煩くてお説教はもうやめてもらうことにした。




「それじゃ、ご飯を食べに行こうか」

「それなら朝早くにシェイブがパンを持ってきてくれたらそれを食べるのよね」

「……素泊まりじゃなかったのかよ」


 素泊まりというものは食事は付かない。そのため宿泊料金が安いはずなのだが、アリアさんの指差した先には籠に入ったパンが置かれていた。


「シェイブさん、昨日の詫びだから気にするなって言ってたよ。それと、外に出かけられるとファガリア畑を見る時間がなくなるかもしれないだろって」

「なるほど。そういうことなら有難くいただこうかな」


 いただいたパンを食べてお腹を少しだけ膨らませる。


「お兄ちゃん。食べたりないって顔してるけど、この後にファガリアの試食があるんだからね?」

「そうだね。……それに味の薄めスープはそういうことか」


 セリアかーさんや、アリアさんの料理よりもかなり薄味で、けれど上品さがある不思議な朝食だったけど、これから食べるファガリアの味のインパクトを上げるためのものだとしたら……。けれど、あのシェイブならそこまで考えて動くだろうと量と味について納得した。




「それじゃ、私たちはこっちで着替えるのよね。ヘージは向こうで着替えて欲しいのよね」

「わかった。それじゃ、着替え終わったら呼んでくれ」


 そう言って、僕もシェイブに借りた簡素な服装に着替えた。二人の着替えも終わり、いつもの服を着たアリアさんと、シャイブから借りたという白のワンピースに麦藁帽子を被ったサクラは僕をジト目で見てきた。


「ぷぷっ! なんで村人Aみたいになってるのよね!」

「お兄ちゃん…、えっと、地味じゃない?」


 笑ってくるアリアさんは置いておいて、グサッとサクラが心を抉る。ごもっともだが、これには訳があった。


「畑がどんな場所かもわからないんだ。汚れの目立つ服よりは土がついたりする可能性を考慮して地味な服装をするのがベターなんだよ」

「けれど、だったらいつもの服で戦闘に備えてた方がいいと思うのよね!」


 サクラはチラっと自分のワンピースを見て少し落ち込む。


「この服、可愛いのにダメかな……」


 白のワンピースは、よく見ると所々に白い花びらが施されており細部までこだわっているのがよく分かった。


「……似合ってる。汚れ仕事があったら僕がやるから安心して」

「―――ヘージは冒険用の服を持ってどこに行くのよね?」

「アリアさんの言っていることも一理あるなって思ってね。またあの草がいないとも限らないだろ」


 僕の一言で表情が明るくなったサクラと、そこまで考えてなかったような顔をしたアリアさんを背に、再び仕切りをした部屋の角で僕は着替える。その間にアリアさんはシェイブと話があるからと出ていった。




「そう言えば、この近くで異世界植物カラミックサの被害は出たのかな?」

「……そのカラミックサって、なに?」

「私の考えたあの草たちの総称だよ? 絡みつく草だからカラミックサだよ」


 あの草っていう言い方もなんだからとサクラが考えた呼び方らしい。自信満々に言ってのけるサクラにもの申せる訳もなく、この世界で襲いかかる草の事をカラミックサとして僕らは広めることになった。




「人を襲うなんてそんな草の事は知らないって言っていたのよね」

「そうなんだ。ならよかったね」

「アリアさん、あの草に関してはこれから異世界植物カラミックサって呼ぶことになったからよろしく」

「襲ってくる草にしては可愛らしいけれどわかったのよね」


 どうやらまだ被害は出ていないみたいだ。サクラの急な命名で戸惑ったけどやはり呼び名があったほうがいいと思い、アリアさんにも草の呼び方を共有しておいた。


「それと、魔族に関しては空飛ぶ魔族ならまた来るかもって伝えておいたのよね。ちゃんと再起不能まで痛めつけたら動かなくなるから大丈夫だって情報もセットでなのよね」

「うん、いいと思う。知らないのと知ってはいるのとでは全然違うし、少なくともアリアさんが対応できたって知ってれば必要以上に恐怖する必要もないからね」


 シェイブは、あの性格のおかげか町の人に愛されているらしい。真面目だけど、陽気で、キレもの。それがシェイブの僕が抱いている印象だし納得だった。




「今日は本当にいい天気っ! 絶好のファガリア日和だよ!」

「そうだね。場所はアリアさんが知ってるんだよね?」

「任せてなのよねっ! えっへんたそ!」


 朝の日差しが部屋に差し込んでいる感じで、相当に良い天気だとは感じていたのだが、外に出ると雲ひとつないとはこの事のように空は晴れ渡っていた。


「楽しみだねー! 摘みたてのファガリア食べさせてくれるってシェイブが言ってたんだー!」

「見えてきたのよね。あの中にファガリアがいっぱいあるのよねっ」


 楽しみにしていたサクラはともかく、何度も足を運んでいるはずのアリアさんもテンションが高い。僕も期待で気持ちが足取りと共に弾んでいた。




「そういえばアリアさんとシェイブの関係って、アリアさんがファガリアの直売をお願いするために押しかけたのがきっかけだっけ」

「……そんな事もあったのよね〜。昔のことは置いておいて、今では町に出ると大抵あの宿屋に寄る仲なのよね」


 アリアさんは自分でもその時の行動力に引いているのかあまり深入りして欲しくなさそうなので、話題を色々と変えながら会話をしながら歩く。そしてファガリアを栽培しているハウスへと僕らは到着した。

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