少年賢者の推理:マーカスを死に至らしめたもの
「【魔法陣が、2つあった】だと……!?」
その場にいた学者たちは、大いにざわついていた。なにしろ、完全に寝耳に水な話だったのだ。
「ば、バカな……! そんな痕跡はなかったぞ!?」
「恐らく、【本命の魔法陣は絶対に見られるわけにはいかなった】んでしょう。【増幅魔法陣の魔法文字】は何とか誤魔化せても、それだけは誤魔化しようがなかった」
なので、確実に燃えるように、バラバラにしたのだろう。【魔法陣】なんて、所詮は紙。爆発が起きた時、燃え尽きるのも早い。敢えて【増幅魔法陣の魔法文字】を残したのも、本命の存在を隠すためだ。
「な、なら、一体、その【本命の魔法陣】とは、一体何だったのかね!?」
「それに付随する話で、一言付け加えておきます。【マーカスさんは何らかの方法で爆発魔法陣を起動した】という意見ですが……はっきり言いましょう。不可能です」
「な、何故だね!?」
「なぜなら、【マーカスさんと爆発魔法は致命的に相性が悪いから】」
俺の言葉に、学者たちもメイドたちを目を丸くしている。言っている意味が分かっていないらしい。
だが、学者たちはすぐに俺の言わんとしていることが分かったようだ。
「――――――まさか……!? 【マーカス様は、水属性だった】のか!?」
「その通り。そして、爆発魔法は言うまでもなく【炎属性】ですよね?」
この世界の魔力には、【属性】という概念がある。この世のあらゆる魔力の、いわゆる性質みたいなものだ。生物には基本的に遍く宿ると言われている。
【属性】は主に6つあり、分類は大きく分けて2つ。
炎・水・雷・木属性の【四大属性】と、光・闇の【双極属性】。双極属性は非常に珍しく、この世界に生きる生物の魔力の属性は、大抵四大属性のどれかだ。
そして四大属性の大きな特徴として、4つの属性の関係性は4竦みになっていること。
例えば炎属性なら水属性に弱く、木属性に強い。一方で木属性は雷属性に強く、その雷属性は水属性に強い――――――といった感じだ。
ちなみにさっき俺が手に微弱な炎魔法を使って暖を取っていたが、実は俺の属性は光。ちょっと知識があれば体内の魔力は別の属性に変換することもできる。まあ、今回は関係ないだろうけど。
そして、ここで【魔法陣】の話に戻るのだが。実はこの【魔法陣】というのは、同じ属性の魔力を流さないと発動しないのだ。
「マーカスさんが自分の魔力の属性を変換する技術があったかどうかはわかりませんが……仮に事故で【魔法陣】を踏んだとしても、爆発はしないでしょう」
「た、確かに、それなら……!」
「爆発は、起こり得ない……!! うっかりで自分の属性を変換するなど、あり得ん!」
学者たちは腕を組んで、うんうんと唸っている。彼らも、俺の言わんとしていることが飲み込めてきたらしい。
「しかし、何故【マーカス様が水属性だった】と、君が知ってるんだい? ……彼とは初対面だったのでは?」
「それは、これでわかったんです」
首を傾げるアインハルトに、俺は懐から、例の物を取り出した。
それは、果実。厨房でもらってきた、パーティーで出てきた黄色いアレである。
「……それは……!」
「ええ。【雷属性のエレメントフルーツ】です」
「【エレメントフルーツ】だと!?」
【エレメントフルーツ】。その名の通り、これは属性に関連する果物なのだ。色によって四大属性それぞれの魔力を多く含んでおり、何と言ってもその特徴は、【食べた者の属性によって味が変わる】ことにある。そして黄色い果実には、雷属性の魔力が多く含まれるのだ。
「……まさか、その反応で……?」
「ええ。マーカスさんは、これの入ったケーキが好きだったそうです。……【酸味の利いた】ケーキがね」
雷属性の【エレメントフルーツ】を、苦手な属性である水属性のマーカスが食べればどんな味がするのか。それは、【強烈な酸味】となる。
逆に得意属性の【木属性の人間がこの実を食べれば、たいそう甘く感じる】はずだ。ちなみに相性補完のない属性の者が食べると、ほんのり甘い程度。
「マーカスさん、このフルーツを食べて口をとがらせていました。あれは、酸っぱいものを食べた時に起こる、唾が出てくる反応だったので」
「……なるほど、それでマーカス様の属性を特定したのか……!」
「で、では、【本命の魔法陣】というのは……!!」
そうして、話は爆発現場にあったであろう、【2つ目の魔法陣】に戻る。爆発をマーカスに起こさせることがほぼ不可能である以上、より確実にマーカスを殺害するのであれば、必要な【魔法陣】は、すぐに理解できるはずだ。
「そう! 現場にあったもう一つの【魔法陣】。それは、【雷魔法の魔法陣】だったんです! より確実に仕留めるため、【増幅魔法陣】で強化まで施してね!」
水属性のマーカスに最も有効な手段は、雷魔法。
犯人はそれを知ったうえで、犯行に及んだのだ。
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