第7話「喜ぶべきなのか困惑するべきなのか」

異物である自分に嫌悪感を向ける事はあっても、意図して近づいてくる事はない。

普通に接する人がいたとしても、それはかなり少数だろう。

少なくとも奏はそう思っていたし、あの場にいた流人と圭一も同意見だった。

だが……


「何故、こうなってるのかな……。」


困惑を隠そうともせず呟いた。

全校集会での挨拶を終え、担任の慧に連れられクラスでの挨拶も終え、特殊な日程だった為に授業も無く、あとは帰るだけの奏を待っていたのはクラスメイト、ごく一部他の同学年の生徒から取り囲まれての質問タイムだった。何とはなしに教室の外の気配を探れば、外は外でかなりの数の生徒がいるらしい。

一人二人ならともかく、こうまで大挙して取り囲まれてる現状を考えると、どうやらも何もなく、奏達の予想は大ハズレだったらしい。


「どうされましたか、椿様?」


取り囲んでる女生徒の一人が不思議そうに聞いてくる。


「いや、様なんて大層なもんでもないんだ。別に呼び捨て……は駄目か、君とかさん付けで全然いい。」


家柄なのか、一部の女子生徒は様を付けて呼ぶ子もいるらしいが、呼ばれ慣れてない身としては何とも言えない気分になるのでやんわりと断る。


「向こうではどのような部活動をされていたのですか?もし良ければ、私の活動する部活動にもぜひ、足を運んでいただけると。」

「あー、生徒会の仕事と、家のど…、手伝いをしなければならないから向こうでも帰宅部でね。こっちでもちょっと難しい、かな……。」


一瞬、家の道場の事を言いかけたが、言えばそれはそれで面倒な事になりかねないのでギリギリで飲み込んで奏は困ったような笑顔でまた返す。

しかし、次々と質問の雨が止むことはなく、「朝からずっとこんなだな…」、そろそろバッテリーがエネルギー残量0に近い事を告げるアラートが聴こえるような感覚に陥ってた時だ。


「失礼します。」


教室の入口から聞こえてきた静かな声で全員鎮まりかえる。

取り囲まれてる関係上、誰が来たのかも分からないが、少なくとも声の感じからして智花ではないだろう。


「嘘……」「どうしてここに…?」などと今度は少しずつ小さなざわめきが起きているのだが、何も分からない奏の身としては取り敢えず助かったのかどうかも分からなかった。

足音が近付いてくるのと同時に、何かを察したらしいクラスメイトの囲みが割れていく。


どうやら、目的は自分らしい。

囲みが割れ、目の前に現れた見たこともない女性が自分を見下ろしながら落ち着いた、けれどよく通る声で手を差し出し告げる。


「3年生の六条静香(ろくじょうしずか)です。学院の案内をする為に伺いました。……一緒に来てもらえるかしら?」

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