第5話「二人の待ち人」
「………さて、どうしたもんか。」
現在、奏は学校に向かっている。
目の前には今まで踏み入れることも無かった並木道……そう、聖皇への入口である。
周囲には数は少ないが、こちらを窺うような視線や、何だコイツという風に見てくる視線で見てくる女子生徒達がいる。
寮生活がメインらしいが、家が近い生徒に関しては家から通うことがOKとされているらしい。
江崎より遠いという事で奏にも寮の一室が用意されているらしいが、当たり前だが使うつもりはない。
向けられる視線を気にせず……というのは無理な話なので極力気にしないように校門まで向かっていく。
(マジで帰りてぇ……)
期間は一学期の終わりまで、つまり夏休みには向こうに帰れるらしいが、現在は4月の20日…3ヶ月はここにいることになる。
「1秒ですら1分に感じるな……」
げんなりしながらもどうにか入口まで着くと、出迎えに来たであろう二人に遭遇する。
「おはようございます、椿くん。短い間ですけど今日からよろしくね。」
ベージュのスーツを着た若い女性の教師、
「おはようございます。よろしくお願いします。」
奏も緊張しながらも何とか返す。
「おはよう、椿さん。先日以来ね。」
長く綺麗な黒髪を腰まで伸ばした優しげな顔をした、3年生であり生徒会長である
握手という事だろう。先日、向こうで軽く顔合わせはしているが、下手にほぼ初対面の女性に触るというのもどうかと奏は思ったが、ここでそれを無視するほうが失礼だろうと思い、こちらも握手に応じる。
「お久しぶりです、御陵生徒会長。」
「堅苦しいなぁ。別に智花でも、何なら智花お姉様でもいいのに。」
「いや…、さすがにそれは…」
握手をしている手をにぎにぎと触りながら、そんな事を言う智花に奏は驚きながら断りをいれる。
事前には聞いていたが、聖皇では他で言う先輩後輩にあたるものは「姉」「妹」になるらしく、特に親しい上級生を「お姉様」と呼ぶ事もあるらしい。
畏まらず、家族のような距離で過ごして欲しい、という理由もあるそうだ。
奏は今回、テスト生という事で、それはしなくてもいい―というよりも全力で拒否した―という事で、普通に先輩呼びしてもいい事になっている。
「コラ智花ちゃん、椿くんが困ってる。あと、学園長室まで行ってもらわないといけないんだからね。」
奏が対応に困っていると、慧が助け舟を出してくれた。
「くすっ、はーい。じゃあ行きましょ、奏くん?」
「はい……え?え?」
握手した手は手を繋ぐ形で繋ぎ直され、まるで初めからそうしてましたと言わんばかりに名前呼びされ、奏は混乱したまま学園長室まで連行されていくのだった。
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