第2話「友人の嫌な予感は良く当たる」
時刻は昼休みに遡る。
「2年A組、椿奏さん。放課後、校長室までお越しください。」
昼食を食べ終え、片付けているところで放送で司は呼び出しを受けたのだ。
(生徒会で校長絡みの呼び出し案件なんかあっただろうか……)
校長である司は親絡みで昔から知り合いだ、それも割と仲の良い。
とは言え、周りに知られるような形で呼び出すような事をする程、公私混同をするタイプではない。
「何かあったのか?」
何かあったろうかと思い返していると、別グループで食事を取っていた流人が声を掛けてくる。
「いや、期限が迫ってる仕事はとっくに終わってるし、呼び出しを食らうような事をやらかした覚えもないし、そんな事をしようものなら母さ……、綾乃先生にしばかれる。」
「俺は怒ってるところは見たことないからアレだけど、たしかに先生の何人かは割とビクビクしてるよな……。」
なら違うか、と流人はそのビクついてる先生が見たら怒りそうな悪い顔でニヤニヤと笑って頷いた。
「何れにせよ、無視する訳にも行かないからな。顔出すしかあるまい。」
「そうか、じゃあ俺も、というか圭一も誘って付いてくよ。」
「……お前らは関係ないだろうに?」
「いや、見てる側は面白そうな、当人からしたらロクな事になりそうもない事が起きる予感がするからな。保険で付いてく。」
なぜ?と訝しむ奏に流人はそう告げた。
この男の勘はよく当たるのだ。
「……何も無ければいんだがなぁ。」
流人の勘に嫌な予感を覚えながら、奏は取り敢えず片付け途中だった弁当をしまうのだった。
◆◆◆
~放課後~
校長室のドアをノックすると、中から「入ってくれ。」という声が聞こえ、奏はドアを開く。
「「「失礼します。」」」
プライベートではお互いに砕けた口調で話すが学校内なので、ここは目上の相手という事でしっかりと対応する。
校長である司は奥の校長用の机ではなく、手前の来客用のソファーに座って紅茶の準備をしていた。
「やあ、来てくれてありがとう………どうして神崎君と高遠君もいるのかな?」
司は不審がるという訳ではなく、不思議そうに二人を見た。基本的に生徒を大事にする人なので、そこまで気にする様子もなく、追加で2人分のティーカップも用意している。
「あー、すいません。嫌な予感がしたんで、奏と圭一に無理言って付いてきてもらいました。」
流人は苦笑いをしながら司に頭を下げた。
故に気付けなかったのだろう。
「そ、そうか……。」
司が曖昧な笑顔を浮かべた事を、そして……
「…………。」
圭一の全てを知っていると言わんばかりの目を細めた愉快そうな笑顔を。
(あー………、流人の予感的中か。)
まず、圭一の反応。
圭一の情報網は恐ろしく広い。
校内どころか、少なくともこの町の事で知らない事はない、というレベルでだ。
それがこの学校の事となると、本来生徒が知り得ない教員会議の内容だの次のテストの出題範囲だの……挙げればキリがない。
その圭一がこういう顔をしているという事は、校長がこれから何を話そうとしてるかを知っていると云うことに他ならない。
そして、司の反応が一番の証拠だ。
彼は昔から何かとてつもないやらかしをした時は決まってこの反応をする。
ついでに綾乃からその度に死ぬ程恐ろしい目に遭ってるのだが、悲しい事にそれが改善される事は無い。
つまりだ………。
「椿……いや、奏くん。」
「はい。」
ソファーから離れ、校長の机の前に立ち、躊躇いながらも何かを言おうとする司に奏は笑顔で応対する。怒った綾乃に似た、酷く穏やかな笑顔で。
ソファーに座って圭一と流人は出された紅茶を飲みながら「あーあ。」と楽しそうに眺めていた。
「頼みがあるんですが………」
「何でしょう?」
司に歩み寄る。司の趣味で飾ってある、模造刀の飾ってある側に。
「来週の月曜から、女子校に通ってほしいんだ。」
奏は司が「だ。」を言い終える前に近くにある模造刀を即座に一振り掴み、目の前にいる不届き者目掛けて神速の勢いで抜刀した。
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