第53話 薬師ギルドにて
お兄さまと薬師ギルドとドリガン親方のところへ行く日がやってきた。
「お兄さま、薬師ギルドは貴族の方が多いのですか?薬師を習えるのは、学園しかないのですよね?」
「いや、スキルなどを授かっている人もいる。そういう人は学園に行かなくても、スキルで作れるようになるらしい。まぁ、だいたい薬師になる人は次男、三男が多いから、嫡男が家督を担ぐと、次男三男は準貴族となり、自分で働いて生計を立てないと行けなくなるんだよ。だから、そういう人たちがいるということだ」
なるほど、嫡男が家督を継ぎ、他の兄弟は自分で働いて生活する。ただ、嫡男が亡くなったら、病気になったりした場合、男の兄弟たちが家督を継ぐ可能性があるから、準貴族としての扱いか。ほぼ平民に近い方。
「では、街娘風の洋服で大丈夫ですかね」
「大丈夫だよ。アイリ、では行こう。」
そして私たちは薬師ギルドへやってきた。お父さまのお友だちのドーソン伯爵が副ギルド長なので、薬草や草花を見せて欲しいことをお願いしたのです。
薬師ギルド前に立っている人が私たちに気づいた。
「お父上のステファンから聞いて、お待ちしておりましたよ。薬師ギルドへようこそ。わたくしは、この薬師ギルド副ギルド長を務めておりますドーソンと申します」
「こちらこそ無理を言って申し訳ございません。ステファン グランデ フォン ディス モンテスキューが嫡男 アレクセイ グランデ フォン ド モンテスキューと申します、そしてこちらが妹のアイリ グランデ モンテスキューです。よろしくお願いいたします」
「アイリです。今日はありがとうございます。よろしくお願いいたします」
「こちらこそ。ところで今日は薬師の仕事を見たい、あと草花が欲しいということだったね。アイリ嬢は学園に入学して、錬金・薬師コースを希望しているのは本当なのかね」
「そうです。もうすぐ学園へ入学となります。そして、自分がどのコースを選択するのが一番良いのかを判断する上で、薬師ギルドの仕事を参考にしたいと思ったことと、すみません、草花が欲しく、お父さまに無理言って頼んでいただきました。ワガママを言って申し訳ございませんでした」
「いやいや、錬金・薬師は女性に不人気なのだから、こうしてアイリ嬢が希望してくれたら嬉しい限りだよ。でも、錬金・薬師コースを選択することを決めたのかい?」
「はい、もちろん選択します。ですが、どういったお仕事をするのか見てみたいと思いました」
「うんうん、いいと思うよ。さて、実際に見にいこうではないか。こちらはついて来てください」
薬師ギルドは静かだなぁ。みんな精神統一でもして薬草を作っているのかしら。
「まず、どういった薬草やポーションになる草花があるのか知って欲しい」
きたきたきた。薬草、草花、木片。
「ここは薬草保管庫、適切な温度、湿度や、時間停止機能で管理された保管庫なんだよ。これを取ってくることを冒険者ギルドに頼んでいたり、輸入をしているのだよ。そして、効能別に分類されているのだよ」
「すごい、こんなにいっぱいの植物があるなんて。効能別に分類してあるのは、誰か鑑定しているのですか?」
「そうだよ、アイリ嬢。スキル薬師を持っている人は植物鑑定眼を持っているのだよ。だから冒険者に色々な植物を採取してもらい、鑑定して効能を調べていることができるのだよ」
なんだ、私の鑑定も人の状態以外がわかるから同じものかな。良かった、私だけじゃなくて。
「アイリ、違うからな、アイリの方が高度すぎるから言ってはだめだから」
お兄さま、人の心が読めるの??
呆れた目で見られてしまったよ。
「ドーソン伯爵様、薬草を見て回ってもいいですか?どんな効能なのかみたいです」
私は、いろいろ効能を見つつ、鑑定さんが あちらこちらにネイル染料になります、フレグランスに最適よ、との文字が踊っていた。
ホウセンカ(紅花)赤
クレナイ(紅花)赤 ピンク
タデアイ(蓼藍)藍色
アカネ(茜)根は、浄血、解毒、強壮の作用 赤
サクラの木片(桜)ピンク
フジ(藤)薄紫
ラック(紫鉱)赤紫 ピンク
ムラサキ(紫草・紫根)紫
クワ(桑)黄色
センジュギク(マリーゴールド)黄色
ヒマワリ(向日葵)薄黄色
ミモザ 薄黄色
バラ(薔薇)赤 ピンク 黄色 オレンジ 白
サルビア 赤 ピンク
ダリア 赤 ピンク オレンジ 黄色
デージー 白 ピンク 赤 オレンジ
アネモネ 赤、ピンク、白、青、紫
「あ,あのドーソン伯爵様、輸入の花や木片とかあるのですか?」
「ありますよ。ジャポング皇国のサクラの木やフジの木などがあります」
「輸入の草木は直接ジャポング皇国と取引しているのですか?」
「アラベルト公爵殿経由で購入しているんだよ。ジャポング皇国との繋がりが強いのはアラベルト公爵家だからね」
ここでレティの家だ。味噌や醤油,コメなどを卸してもらっているが、サクラの木なども卸してもらおう。
「ドーソン伯爵様、少し買うことはできないでしょうか?お願いします」
「そうだな、つい最近購入したばかりだから在庫はある。いいですよ、お譲りします」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「帰りにお渡ししますよ」
やりました、桜の木、フジの木ゲットです。
「アレクセイ様、アイリ嬢、ポーション作っていきませんか?実践して楽しさをわかって欲しいです。いかがでしょう」
「やりたいです。ぜひやらせてください」
「アイリ、落ち着いて。前から錬金や薬師の基礎を知りたがっていたのですよ。ドーソン伯爵殿。ぜひアイリに試させてください」
「では、こちらにきてください」
うわぁ、理科の実験室みたい。ビーカーやフラスコなどがある。マドラーみたいなものもある。ランプがない?魔道コンロなのかな?IHみたいだね。さぁ、実験だ。
「では、やってみましょうか。こちらに浄化した水、初級ポーションを作る薬草類があるので、本当は分量など計るのですが、アイリ嬢の力量を知るために、アイリ嬢の思った分量を入れてください。そして、魔力を流しながら混ぜてください。この薬草では初級ポーションができますので、やってみてください」
「アイリ、魔力は抑えてくれよ。全力じゃなくていいのだから。くれぐれも魔力を注ぎすぎに注意しなさい」
お兄さま、小声で言ってきたわよ。わかっているわよ。実験は丁寧に、ゆっくりが基本よ。急ぎすぎるのはいけない。楽しみだなぁ。実験大好きなのよ。
さぁ、始めよう。
「では、浄化した水、もう一度私が浄化しようかな。それから薬草を入れて、うーんどのくらいが良いのかしらね。この薬草は回復か、これは滋養強壮?いいのかこれ入れて?これが傷、やけどこれがリラックス効果、これが腹痛、頭痛。状態異常を治すのではなく、傷や痛みを治すポーションなのね。それから魔力を注いで、ゆっくりかき混ぜる。おいしくなぁれ、おいしくなぁれ」
ブフッと笑っている声が聞こえた。お兄さまかしら?でも、集中しなければいけないから、まぁいいか。おいしくなぁれ。ピカッ、と光った。おおー、できたのかな。
「ドーソン伯爵様、これ、できたのですか?」
「えっ、あぁ、できたのですが、こ、これは初級ポーションではないです」
だんだん声が大きくなっている。あら、ドーソン伯爵様は鑑定眼を持っているのか。だから薬師ギルドの福ギルド長なのか。では、ギルド長はもっとすごいのかなぁ。
でも、私,やってしまったかしら?とお兄さまを見ると首を振っている。
「アイリ嬢は魔力量が多いのですか?確か洗礼式では、びっくりするほどの魔力量ではないと記憶しているのですが」
「毎朝、魔力操作をしています。それで少しは増えたのでしょうかね?」
「アレクセイ様、アイリ嬢、このポーション、上級ポーションになってます。初めてで、初級の薬草で、こんな品質の良い上のポーションができるなんて、ぜひ,ぜひアイリ嬢、薬師ギルドに入ってください」
圧が強いです、ドーソン伯爵様。
「私はお兄さまを手伝って商会を経営しています。そちらが中心になってしまうので、どうなるか、そこはまだ決めていません。すみません」
「いや、申し訳なかった。こんな素晴らしいポーションを作れるなら他のも良いポーションができるのではないかと期待している自分がいます。学園に行っても、こちらでポーションなど作りませんか?材料はいっぱいあります。自分の思うポーションができますよ。アイリ嬢。ギルド長にも進言します。その前にあなたの父上にもお願いしたいと思います。ぜひぜひきてください。あっ、学園長にも話は通しておきます」
えっ、なんだか事が大きくなっているような?お兄さまを見るとため息をついていた。
「アイリ嬢、期待の新人ですね」
ウインクされましたよ、ウインク。この世界は顔面偏差値が高いよ。
それから、ネイルの染料となる草木花をいただいた。そういただいたのです。さっきの上級ポーションを買取したいということでお買い上げいただき、お金は商業ギルド経由で、ル・ソレイユ商会に振り込んでいただくことで話はついた。
お兄さまには、だから魔力をあまり流すなと言ったのに、と言われた。しかしお兄さま、私の心が読めるのと、私の未来がわかるのか?すごい能力よ、と思っていたら、違うと言われた。うーん。
さあ、今度はドリガン親方のところよ。
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