黒猫サクイはグロも仲間の死も越えて、最強の仲間たちと共に世界を救いたいようです。

higasayama

第一章

だい 1 話 - ぷろろーぐ

キャラクターイメージはこちらです。前もってご覧いただくと、イメージがしやすいかもしれません。

https://twitter.com/Higa_RENZAN/status/1785650333697651114?t=0yaGd62g9cn1mFgXiR9LNw&s=19

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 クレヨンで描かれた絵本のように柔らかで、とても平和な世界。

 そこに、体のすらっとした黒ネコのサクイと、シガラキヤキのようにまるまるとした、子ダヌキのワヘイが、それはそれは仲良く暮らしていました。

 ふたりは朝から晩まで、あーだこうだとお喋りしながら釣りをしたり、ひまわり畑をさんぽしたり、木の実をとって食べたり。

 そんな変わらない毎日を、退屈することなく送っていたのでした。

 でも。

 近ごろは何かが変です。それは夜のことでした。

「ワヘイ。またジシンだ。テーブルの下にかくれるぞっ」

「今までこんなことなかったのにねぇ。どれ、いそげいそげ」

 ふたりは食卓の下に、だいふくのように丸くうずくまって、ドン! ドン! という大きな揺れが収まるのを待ちます。

 ランプの明かりがあやしく揺れて、気の弱いワヘイはとくに怖がりました。くらべてサクイは、窓の外や食器の棚に目をくばるなど、冷静にふるまっています。

「まったく、こんなことがつづくんじゃ家がもたないぞ」

「でもさ、レンガでできてるんだよ? そうカンタンにこわれるもんかい? 」

「わからない。こんなゆれ今までなかったんだから」

「だいじょうぶだといいけども……」

 ワヘイは揺れがおさまるまで、ずっと不安げに、自分のしっぽを揉みほぐしていました。

 そんなワヘイをなんとか落ち着かせようと、サクイは肩をマッサージしてあげたり、脇腹をくすぐってやったりしましたが、まるで効きません。

 ワヘイはとても臆病です。家の中に小さな毛虫が出てきただけでも、驚いてひっくりかえってしまうほどです。それでも、物心ついたときから一緒のサクイが隣にいるおかげで、たび重なる地震にも耐えられていたのです。

 やがて、窓がきしむ音も止まり、ランプの揺れも落ち着きました。

 おもむろにサクイが言います。

「絵本でも、よもうぜ」

「いいねいいね。あれにしよ、食いしんぼのゾウがでてくるやつ」

「よしきた」

 サクイは食卓の下からにゅっとでると、部屋のすみにある本棚から、目当ての絵本を抜きとりました。それをまた、食卓の下に持ってきます。

「読みきかせておくれよ」

「いいぜ」

 そうしてサクイが絵本を開くと、なんと。

「あれ? まっ白だわよ? 」

「どうしてだ……? 」

 なんと、中には何の絵も、文字もありません。ただの白紙です。それが、どのページをめくってもそうなのです。

 サクイは代わりの絵本をいくつもとってきますが、やはり何冊かは、同じように中がまっ白になっていました。

「だれかがけしたの……? 」

「だれかって、だれだよ」

「わからんよぉ」

 大好きな絵本が読めなくなったことや、地震の不安で、たちまちワヘイはおいおいと泣きだしてしまいます。

 サクイは、そんなワヘイの背中をさするぐらいしかできない自分に、歯を食いしばりたいような思いがしました。

 そんなサクイが、妙案を思いつきます。

「話、おぼえてるだろ? 白いところにいっしょにかこうぜ」

 しばらく嗚咽をもらして、ようやく息を整えてから、ワヘイは「うん」とこたえます。

「あるところに、食いしんぼのゾウがいました」と、ワヘイが黒いクレヨンで書くと。

「ゾウは、あんまり食べすぎるので、体がふうせんのように丸くなっています」と、サクイはまん丸なゾウの絵をグレーのクレヨンで描いて、真っ白な紙を彩っていきました。

「どうだ、楽しいだろ? 」

「うん! さすがサクイだぁ。よく思いついたねぇ」

 そうして、翌朝。

 床に散らばったクレヨンと、下手っぴに描かれたゾウや、鳥、犬やネコ、タヌキ、それからお話の描かれた本をみて、サクイは自分が、いつの間にか眠っていたのだと気がつきました。

 ワヘイは既に起きたらしく、隣にいません。

 勢いよく玄関の扉が開きます。

「ごはん食べたら今日は山でかけっこだからはやくきてね」

 勢いよく扉が閉まります。

「……まあいいか」

 ワヘイはサクイと違い、寝ると忘れるタイプでした。

 そんなわけで、ふたりはかけっこで野山を駆け巡ります。

「今日こそ追いついてみろよっ! 」

「まてぇーい! まてまてまてえぇーいっ! 」

 すっかり元気な様子のワヘイは、木の根が脈打つ地面を、まるで泳ぐようにすいすい走っていきます。対して逃げるサクイは、木の枝から木の枝へ、挙句には、綱渡りのようなか細いツタを渡っていました。

「タヌキをなめちゃいけないよ――へんげのじゅつ! ドロロンドロドロえいやっさ! 」と、頭に葉っぱを乗せつつ、追うワヘイが演技がかった口調で唱えます。すると。

 たちまちワヘイの姿は、同じくらいの大きさの子ザルに変わりました。頭にはちゃんと葉っぱが乗っており、尻尾もよくみるとタヌキのままです。

「なんだよそれ!? 」

「絵本にのってたのさっ! 」

 ワヘイはサクイと同じように梢を渡ったり、ターザンのようにツタを使ったりして、みるみる距離をつめていきます。

「あーぁあー! 」

 ターザンワヘイの雄叫びに、サクイはかけっこで初めて焦りました。

「まずい、このままじゃおいつかれ――あっ」

 馴れない状況に陥ったサクイは、なんと枝から足を踏みはずしてしまいました。

 途端に彼は心臓が浮くような、全身の血の気が引く嫌な予感をおぼえます。それもその筈。落ちていく先はただの地面ではなかったのですから。

「うっ……ぐぅっ……! 」

 かなりの高所から落ちた華奢な体は、急斜面に肩から打ちつけられ、それでも本能的に身をかばいながら転がっていきます。木の幹や岩に何度もぶつかり、それでも最後はぶ厚い岩の壁に頭を打ち、起き上がれなくなりました。

「サクイ! サクイーっ! 」

 ぼやけていく視界と、浅くなる呼吸。

「ワ  ヘ   こ こ」

 どうやら彼は朦朧としながらも、ワヘイが自分をさがす声に、気を失う寸前まで応えようとしていたようです。






 次回へ続く。

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