第10話 『最高のバカンス』(ざまぁ回 ②)

『の"ほほほほほほッッ!?!?』


『異形化』した元父母のやかましいこと、この上ない高笑いが響いた。


「ハッ! 知能デバフが掛かるなんて、世話ねーな! 一気に沈めてやんよ!」


 ゲイルが二刀を交差させ、その姿が分身した! 確か『演舞』って言って、ゲイルいわく『攻防一体の型』なんだって。


『無駄無駄無駄ァ! “あの方”の力に制限はナイのダァ!』


 元父母は、ますます肥大化した! ちょっとちょっと! このままじゃ村まで雪崩れ込んじゃう! その前になんとかしなきゃ!


「ゲイル! 悪いけど、ちょっとだけ時間を稼いでくれる!?」

「何か考えがあるみてーだな? 了解した!」


 ゲイルはさらに激しく舞い、分身の数を増やした。私も意識を集中した。これは『取って置き』で、今のところ知ってるのは私だけ。


 私は隙を見て、異形の懐に飛び込む! そして手をかざしながら、能力を解放した!


「――強化・解除っ!」


――きゅぽーんんっ!


 独特の効果音が響き、元父母は一瞬で『元の姿』に戻った。これには、ゲイルも呆然となる。


「なっ……ヒメナ、何をしたんだ?」


「強化の応用ね。属性が同じなら、相手の強化も『打ち消せる』わ」


 ゲイル以上に元父母は、何が起こったのか分からない顔をしていた。


「な……何が? この力を使えば、二度と元の姿には戻れないハズ……」

「アナタ。きっと女神様が見かねて、お赦しに……」


「んなわけねーだろ」


 元父母はゲイルの「おバカっ」で、頭に大きなタンコブができた。なんか見てて、情けないやら何やら……(・c_・`)


「ふぉお"お"お"お"ッ!? ヒメナぁ! まさか我々を魔物のエサにするつもりカァあ"あ"あ"あ"ッッ!?!?」


「別に今さら、アナタたちをどーこうするつもりはないから (ヾノ・∀・`) でも、一つだけ答えて。『あの方』ってのは……?」


 私は恐る恐る訊いた。レオ様のわけがない。弱い立場の人たちに、こんな仕打ちをするわけがない。『婚約破棄』だって、やむを得ない事情があったんだ。


「……お前の『よく知る方』だ!」

「ちょ……アナタっ」


 私のよく知る……信じたくなかった。きっと『別人』に違いない!


「そう……私の前には、二度と姿を見せないで。これ、最後通告ね?」


「だとよ? お前らクサ過ぎて、鼻が曲がるんだとさ」


 その後、元父母らはゲイルに馬車に詰め込まれ、何処かへ連行された。どーなったかは知らないし、興味もない。



 これで……やっと、私は『自由』の身になれた。そう思ってた時期が、私にもありました。


 ◆ ◆ ◆


「で? おめおめと逃げ帰ってきたと?」


 トントンとテーブルを小刻みにつつく、公爵令嬢のロセナラ・ヘクセ・プロブデス。皇帝を焚き付け、子爵家を村に仕向けた『差し金』だ。


 元父母はあの後、誰も知らない洞穴に『廃棄』されたが、これまたロセナラから預かった『緊急脱出』アイテムで、皇宮まで避難した。


「も……申し訳ございませぬロセナラ様! 色々あり過ぎて……」


「お黙りなさいっっ」


――ガシャン!


 苛立ったロセナラが拳をテーブルに叩きつけ、カップの紅茶が跳ねた。元父母は、「ヒッ……!?」と互いに抱き合って怯えた。


「この私が『舞台』を整えたのに、台無しにてくれましたね? どーしてくれましょうか? 皇帝陛下が知ったら、処刑やむ無しでしょうねぇ?」


「ロ……ロセナラ様っ! それだけはご容赦を!! 処刑『以外』なら、何なりと受け入れます……!」


 全力土下座の元父母に、ロセナラはやがて唇の端を吊り上げた。


「なら、アナタ達に無期限の『休暇バカンス』を与えますわ」


「バカンス……ですか?」


「えぇ。世界地図でも『顕微鏡』で覗かないと、確認できない南国の島ですわ。年中『火山』活動が、活発な最高の観光地ロケーションです。『最寄り』の大陸まで最短3,000㎞以上で、船も近寄りませんわ。どうぞ、ごゆるりと満喫してくださいませ」


 元父母は全力で拒否するも、ズルズルと近衛兵に引きずられていった。ある意味、処刑の方が慈悲深いと言える。


「ヒメナ・アンジェロ。私の『舞台』に、水を差してくれましたね。ですが、役者は間に合ってましてよ? オーホッホッホッ☆」

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